2026年8月27日(木)に『理念浸透を阻む壁とは? インナーブランディングの実践メソッド』と題したオンラインセミナーを開催しました。

株式会社揚羽のブランドコンサルティング部 マネージャーの應本 幸紀が登壇し、理念浸透を阻む壁と、それを乗り越えるコツについて、支援事例をもとに解説しました。

本記事では、多くの企業が抱える「理念浸透の壁」や組織課題の根本原因を踏まえ、社員の働きがいを高めるインナーブランディングの実践メソッドとその具体的な支援事例について解説します。

理念浸透の壁:組織課題の根本原因は「社員の意識と組織の風土」

企業が抱える組織課題の背景には、社員一人ひとりの意識や行動、そして組織の風土や文化に起因するケースが大半です。具体的には、以下のような課題が挙げられます。

  • 理念が現在の事業と適合していない
  • 創業精神が風化している
  • 部門間に壁があり、組織の一体感がない
  • 挑戦マインドが低下し、人材が定着しない

これらの組織課題を解決するには、対症療法ではなく、根本的な解決が必要です。社員の意識や組織風土を変革するためには、以下の内面的な要素を起点とする必要があります。

  • 社員が会社をどのように捉えているか
  • 会社の価値観を共有できているか
  • 自分の仕事が会社にとってどのような意味を持つか

ただし、会社からの一方的な発信では、社員の反発を招くおそれがあります。組織の変革を実現するには、双方向のコミュニケーションによる相互理解が不可欠です。

インナーブランディングとは?組織を持続的な成長へ導く「未来への投資」

企業の「芯」となる理念や価値観を深く根付かせることで、社員一人ひとりの意識と行動を変革し、結果として組織全体のパフォーマンスを向上させる。その取り組みこそが「インナーブランディング」です。

これは単なる義務ではなく、組織を内側から強くし、持続的な成長を可能にする「戦略的な未来への投資」です。このように位置づけることで、施策を推進する際に社内の関係者からも納得を得やすくなります。

人的資本への投資が、企業成長に直結する構造

未来への投資が企業成長につながる根拠として、「サービスプロフィットチェーン」というフレームワークがあります。これは、以下のプロセスで利益を生み出す構造を示しています。

  • 人的資本へ投資することで、従業員エンゲージメントが高まる
  • 従業員の定着率と生産性が向上する
  • 顧客へのサービス品質が向上し、顧客満足度とロイヤルティが高まる
  • 結果として収益と企業成長につながり、その利益が再び人への投資に還元される

ここで起点となる「従業員エンゲージメントを高める要素」は、次の2つに整理できます。

  • ①働きがいへの共感:理念やビジョン、中期経営計画などの浸透
  • ②働きやすさの享受:福利厚生の充実や職場環境の整備

このバランスが崩れると、「定着率は良いが生産性が低い」という状態に陥るリスクがあります。

インナーブランディングは、社員の意識を「働きやすさ」から「働きがい」へとシフトさせる取り組みであると捉えると良いでしょう。

「意義」でつながる組織が、生産性と挑戦性を生む

社員の入社動機や働くモチベーションは、大きく以下の3つに分類できます。

  • ヒト重視:尊敬する上司やロールモデルとの関係性を重視する
  • モノ重視:給与やオフィス環境などの条件面を重視する
  • イギ・コト重視:企業の存在意義や、成し遂げたい事業内容を重視する

このうち、「ヒト重視」の社員はロールモデルの退職や異動によって、「モノ重視」の社員はオフィス移転や給与変動といった「自分ではコントロールできない外部要因」によって、エンゲージメントが下がりやすい傾向があります。

一方、企業の「意義」に共感し、志を共有する仲間とともに理念を体現する社員は、モチベーションが外部環境に左右されにくくなります。結果として、売上やLTV(顧客生涯価値)の向上、新規事業の開発、優秀な人材の定着・獲得といったポジティブな成果を生み出していくのです。

理念浸透を阻む壁:4つのフェーズで起きる「つまずき」

揚羽では、理念の浸透活動を「認知」「理解」「共感」「行動」の4段階のフェーズで捉えています。理念策定に力を注ぐあまり、作ったこと自体がゴールになってしまうケースが多く見られますが、各フェーズには陥りやすい特有の失敗パターン(壁)が存在します。

フェーズ 求める状態 よくある失敗例
認知 理念や会社の方向性をまず知ってもらう 1度発信して終わりになっている。推進者の本気度が見えない。
理解 理念や方向性を深く知り、自分でも説明ができる 理解するための場がない。理解を深めるツールがない
共感 理念や方向性と日々の業務をつなげ、自分ごと化できている 自分の役割に落とし込めていない。感情や心に響いていない
行動 理念に沿った行動をとり、周囲にも好影響を及ぼしている 具体的な行動例がない。行動が評価につながらない

壁を越える7つの実践ポイントと支援事例

ここからは、各フェーズの壁を超えるために有効な具体的な打ち手を、企業の支援事例とともに解説します。

① 認知:ビジュアル化とタッチポイントづくり

理念や目指す未来は抽象度が高く、人によって抱くイメージが異なります。だからこそ、言葉や概念をビジュアル化し、共通認識をつくることが第一歩です。

マーケティングの「単純接触効果」を応用し、1回で終わらせず日常業務の中で何度も触れる機会を作ります。

例えば、ステッカーや卓上ノボリ、日めくりカレンダーなど、タッチポイントはいくらでも広げられます。

・支援事例(三井金属株式会社):パーパス策定と同時にビジュアル化に着手。社内ポスター、オンライン会議の背景、社内資料テンプレート、スペシャルサイトなど、一貫した世界観で展開しました。

② 認知:リーダーの「想いと背景」を語る

理念浸透には、企業の進むべき方向性や社員の持つべき姿勢を示す役割があります。そのため、経営トップやリーダー自身が「意思や想い」を発信することが重要です。語る内容の正しさよりも、「この人の船に乗ろう」と思わせる求心力が求められます。

・支援事例(株式会社レゾナック・ホールディングス):人事制度が大きく変わるタイミングに合わせて、社長とCHRO(最高人事責任者)のインタビュー動画を制作・発信しました。

③ 理解:レクチャーだけでなく対話の機会を

「自分の言葉で説明できる状態」を一人で目指すのは困難です。一方的なレクチャーにとどまらず、役割や年代の垣根を超えて一緒に考える「対話の機会」を設けることが効果的です。

・支援事例(三菱地所レジデンス株式会社):挑戦風土の醸成を目的に、「幸せのためにできる挑戦とは何か」をテーマにしたワークショップを開催。社員の発表をグラフィックレコーダーがビジュアル化し、ポスターとして掲示したことで、副次的な社内コミュニケーションが生まれました。

④ 共感:自身で「働きがい」を言葉にする

前向きな共感と自分ごと化を促すには、自分自身の「納得と腹落ち」が必要です。会社の向かう先と自分自身の未来を重ね合わせ、働きがいを言語化するプロセスが有効です。

・支援事例(三井金属株式会社):会社のマイパーパスをインプットしつつ、個人の「マイパーパス(なりたい姿)」を言語化する研修を実施。作成されたマイパーパスはスペシャルサイトで社外にも公開されています。

⑤ 共感:直感的に印象を残す

抽象的な存在意義や価値観を共通の世界観で捉えてもらうには、絵・音楽・声で五感に訴えかける映像コンテンツが有効です。企業の想いや温度感が直感的に伝わり、記憶に残りやすくなります。

・支援事例:三井金属株式会社のパーパスムービーと、株式会社東京ソワールのブランドムービーをセミナー内でご紹介しました。前者はアニメーションで原点から未来までを描き、後者は「大切な想いのすぐそばに」というミッションを実写で表現しています。

⑥ 行動:皆がとるべき行動を示す

行動フェーズにおける最大の壁は、「どのような行動が推奨されるのか分からない」という状態です。推奨行動だけでなく、NG行動も対比構造で示すことで解像度が上がります。

・揚羽自社事例:自社の行動指針「羅針盤」において、NG行動である「あおむしくんの行動」と推奨行動である「揚羽の行動」を併記して運用。毎週月曜日の朝会で1項目ずつ読み合わせ、少人数に分かれて話し合うショートワークショップを実施しています。行動基準をボトムアップ形式で考えることで、認知と理解を同時に進ませることができます。

⑦ 行動:ロールモデルを褒める

社内表彰の目的は、「会社が求めている行動レベル」を明確に示すことにあります。単に褒めるだけでなく、「どこを評価されたのか」「普段どのような働き方をしているのか」まで可視化することで、周囲への触発効果が高まります。

・支援事例(東京建物株式会社):推奨行動を体現した社員を年1回表彰。その社員の働き方をドキュメンタリー映像にまとめ、表彰式で上映しています。

インナーブランディングに関するQ&A

セミナーの事前アンケートで寄せられた、インナーブランディング推進におけるよくある質問とその回答をご紹介します。

Q1:どういった体制で推進すると成功しやすいのか?

部署を横断した「タスクフォースチーム」の結成と、経営トップ(社長)のプロジェクトオーナーへの就任が有効です。

推進担当者が本業務との兼務や他部署との調整で疲弊し、孤立してしまうケースが多々見られます。人事、採用、経営企画、営業、広報など複数部署からメンバーを集め、全社的なプロジェクトとして位置づけることが重要です。また会議体の運営や客観的な現状分析などの実務を外部パートナーに委託することで、リソース不足の課題を解決できます。

Q2:経営トップに本気で取り組んでもらうためにできることは?

インナーブランディングが「会社の利益・成長に直結する投資」であるという認識を共有し、経営者自身が「未来の姿とそこへ向かう道筋」を言語化するプロセスが効果的です。

揚羽では、経営陣による合宿型ワークショップを支援しています。現在の組織の強みや顧客・社会への提供価値を棚卸しし、未来のビジョンや事業戦略・組織戦略へと落とし込むことで、トップ層のコミットメントを引き出します。

Q3:浸透活動はどう評価すべきか?終わりはあるのか?

定期的な社内サーベイを実施し、4つのフェーズ(認知・理解・共感・行動)ごとに数値を定点観測して評価します。

【事例:三井金属株式会社の社内サーベイ結果】
半年に1回の社内サーベイで浸透度を把握しています。
2022年度上期:認知78%、理解26%、共感53%、行動33%
2024年度上期:認知98%、理解45%、共感67%、行動37%

出典:三井金属統合報告書2025

認知は比較的早く高水準に達する一方、理解・共感・行動の数値は初期段階では低く出る傾向にあります。しかし、施策を継続することで、1~2年後には明確な数値の向上が見られます。継続こそが成果につながるポイントです。

まとめ:インナーブランディングを成功に導くポイント

理念浸透における「認知・理解・共感・行動」の4つのフェーズには、それぞれ特有の壁が存在します。これらの壁を乗り越えるための実践的なポイントは以下の通りです。

  • 言葉や概念のビジュアル化
  • 経営層やリーダーからの継続的な発信
  • 双方向の対話の場づくり
  • 社員自身の「働きがい」の言語化
  • 映像を用いた直感的な訴求
  • 推奨行動の明示と共有
  • ロールモデルの具体的な表彰

インナーブランディングの成果が出るまでには一定の時間が必要です。孤立しない推進体制を構築し、根気強く取り組みを継続することで、組織のパフォーマンス向上という確かな成果を得られます。まずは自社の現状と課題を棚卸しすることから始めてみてはいかがでしょうか。

揚羽では、インナーブランディングに関する「壁打ち相談会」を実施しています。現状の課題を伺いながら、何から始めればよいか、どのような施策を取り入れるとより良くなるかをお話しさせていただくことも可能です。ぜひお気軽にご相談ください

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