2026年7月2日(木)に『形だけのホールディングス経営から脱却する「第2・第3の柱」構築法~グループシナジーとブランディングの実践フレームワーク』と題したセミナーを開催しました。

株式会社船井総合研究所 ポートフォリオ・マネジメント支援部 ディレクターの佐野 暢彦氏をゲストにお迎えし、株式会社揚羽 執行役員 ブランディングコンサルティング部長の黒田 天兵が登壇しました。

本記事では、ホールディングス経営のもとで第2、第3の柱となる事業を育成する考え方と、グループシナジーを創出するブランディングの実践事例について解説します。

形だけのホールディングスに陥る3つの要因

中堅企業では、ホールディングス体制に移行しても、成長のエンジンとなる「第2、第3の柱」を生み出す仕組みがない状態になっているケースが少なくありません。

新しい体制で新規事業を創出しながら成長するという本来の目的を果たせていない状態が「形だけのホールディングス」です。

この状態に陥る要因は、主に以下の3点です。

  • 経営トップに全権限が集中し、中長期的な成長戦略や事業開発(M&A)に時間が割けない
  • M&Aを推進しても経営トップ中心の属人的な対応になり、ノウハウの蓄積や仕組み化ができない
  • M&A後のPMI(買収後の統合プロセス)の仕掛けが弱い、または無い

第2、第3の柱を構築する3つのポイント

では、どうすれば形だけのホールディングス経営から脱却できるのでしょうか。

ポイントは次の3つです。

  • ポイント1:経営トップの役割転換(事業執行からグループ経営への移行)
  • ポイント2:グループ経営機能の強化(円滑なPMIのために)
  • ポイント3:経営人材を継続的に育成し登用する仕組みの確立

ポイント1:経営トップの役割転換:事業執行からグループ経営へ

グループ経営とは、事業開発、事業ポートフォリオマネジメント(事業の評価と組み換え)、経営人材の育成、ガバナンス強化、ブランディング構築といった、グループ全体の戦略推進を指します。

経営トップが事業会社(部門)の事業執行に関わり続けると、評価する側とされる側を兼ねることとなり牽制が働きにくくなります。また、最も重要な事業開発に時間を割けなくなってしまいます。

そこで、事業執行を委譲できる幹部とグループ経営を推進できる人材を確保し、経営トップにしかできないことに集中できる体制へ移行することが重要です。

「人材がいないから任せられない」というジレンマに陥りがちですが、ある程度幹部に権限を任せ、実務を通じて育てていかない限り、移行は進みません。

ポイント2:グループ経営機能の強化(円滑なPMIのために)

グループ経営機能には、理念・方針の共有、経営資源の管理、事業の評価と投資管理、システム基盤やコーポレートブランドなどのプラットフォーム整備、ガバナンス、M&A・PMIを含む事業開発など多くの要素が含まれます。

事業執行部門にどこまで権限を任せ、親会社が何を担うのかを整理したうえで、保有機能を棚卸し、ありたい姿とのギャップを埋める優先順位を付けることが強化のステップです。

そもそも第2、第3の柱が必要な理由は、主に以下の3点です。

  • 既存事業の成長率鈍化(成長マーケットの取り込み)
  • 生産性向上の必要性
  • カルチャー浸透と多様性許容による持続可能性の向上

そのうえで、事業開発(M&A)を進める際の検討ポイントとして、次の3つが挙げられます。

  • 成長性と収益性が既存事業を上回るか
  • 社長やキーパーソンの継続を含めたカルチャーフィット
  • 仕事の質とシナジー創出の可能性

また、M&A後のPMI(統合プロセス)は、段階を踏んで進めることが成功の鍵となります。

  • 第1ステップ:社名、オフィス、経営陣はそのまま維持し、まずはグループに馴染んでもらう
  • 第2ステップ:必要に応じて組織再編や社名変更、オフィス統合を行い、カルチャーを浸透させる

このプロセスにおいては、バックオフィスの整理など、基盤整備の方針策定が欠かせません。

ポイント3:経営人材を継続的に育成し登用する仕組み

経営人材は、日々の通常業務の中だけで自然に育つものではありません。

「次世代のグループ経営者」「コーポレート機能を担うグループ本部人材」「事業会社の経営者」など、ポジションごとに人材要件を明確にする必要があります。そのうえで、育成目的と具体的な育成内容を整理し、継続的に経営人材を輩出できる仕組みとして確立することが求められます。

脱却のカギはグループ経営機能の整備にある

形だけのホールディングス経営から脱却するための要点として、次の3つが挙げられます。

  • 明確な目的:顧客、株主、従業員などステークホルダーにとってプラスになるかという視点
  • 成長を実現できる仕組み:事業開発(M&A)によるサービス拡充、第二本業の育成、経営幹部育成など
  • 親会社とグループ会社の役割と権限の明確化:グループ経営機能の整備

グループ経営機能と各機能が担うタスクを明確にすれば、人材要件が定まり、登用や育成の筋道も立てられます。

具体的には、以下の6つが実施項目として挙げられます。

  1. グループビジョンの明確化
  2. グループ経営機能の明確化
  3. 明確な権限委譲と責任範囲の設定
  4. 経営人材を輩出する仕組みづくり
  5. 組織文化と意識改革の推進
  6. 継続的な進捗状況のモニタリング

そして何より、経営トップが改革を決意していることが非常に大きな推進力になります。

明確なビジョンの提示と共感の醸成、現場との丁寧なコミュニケーションが、成功に導くうえで重要な要素です。

ホールディングス経営を加速させるグループブランドという視点

次のテーマは、ホールディングス経営を推進する手法としての「ブランディング」です。

ブランドには商品、ファミリー、事業、コーポレートといったカテゴリがあり、その最上位にグループ全体の製品やサービスに共通する「グループブランド」が存在します。

グループ経営を行う企業が重視するテーマは、SDGs、DX、パーパス、人的資本経営と変遷してきました。そして現在、コーポレートブランド周辺の大きなテーマとなっているのが「M&Aの急増」です。

M&A後のグループブランド戦略は3つ

M&A後のグループブランドの在り方には、大きく分けて3つの戦略があります。

戦略 概要
マスターブランド戦略 買収した企業のブランドを廃止し、親会社(HD)のブランドに統一する
エンドースドブランド戦略 買収した企業のブランド名は残しつつ、「〇〇グループ」と親会社の名前を添える
フリースタンディングブランド戦略 親会社(HD)の名前は一切出さず、それぞれのブランドを完全に独立して展開する

事業内容やターゲットが大きく異なる場合、無理なブランド統一は逆効果になることもあるため、どの戦略を選ぶかは重要な検討ポイントです。

また、M&Aによって業容やエリアが拡大すると、戦う市場や競合が変化します。それに伴い、「自分たちは何で選ばれるのか」という理由の再定義が必要になります。

揚羽ではこれを「何屋の再定義」と呼んでいます。自分たちはどこで戦うのか、競合は誰で、競争優位性は何か。顧客だけでなく、求職者や今後のM&Aの相手に対しても、この問いに答えを持つことが求められています。

事例:数千名規模のグループ社員を巻き込んだ大手不動産企業のブランディング

同社は半世紀以上にわたり安全で安心な住まいを提供してきましたが、住宅市場が「量から質の時代」へ変化するなか、以下の背景と課題を抱えていました。

  • 背景:主力だった新築住宅事業は売上が半分ほどとなり、ストック事業やまちづくり、海外、ウエルネス事業が成長
  • 歴史:多角化、国内グループ会社の再編、海外企業の買収など、時代ごとに性格の異なるM&Aを重ねてきた
  • 課題:イノベーション創出の鈍化や若手の離職といった内部課題の発生
  • 危機感:統合報告書の開示を進める競合が増えるなか、協業先や就職先として選ばれなくなる懸念

そこで揚羽では、グループ全体の未来像を再定義するべく、数千名にのぼるグループ社員すべてを巻き込んだ理念の再構築をご支援しました。

過去資料の整理、経営者への取材、社員アンケート、ワークショップを通じてブランド価値構造を整理し、バリュー、パーパス、ビジョンを策定しています。

経営層の宣言から始めるインナー浸透

理念は、つくっただけでは機能しません。

同社では、社員一人ひとりが理念を自分事化し、自らの提供価値を宣言するインナー浸透プロジェクトを立ち上げました。

浸透を成功させるポイントは、いきなり全社員に展開するのではなく、順序立てて進めた点にあります。

  1. まず、経営層やグループ会社社長、部門長といった中核人材が自組織の方針を宣言する
  2. それを踏まえて、社員一人ひとりが自分の宣言を策定する

この流れを「周知」「浸透」「自分事化」の3フェーズで設計しました。ブランドブックや映像、アプリ、社内ポータル、評価制度への反映など多様な施策を展開し、全社員向けにはワークショップのチュートリアル動画を活用することで、最終的にグループ社員の9割以上が自分の宣言を策定するに至っています。

理念構築から実行力強化のフェーズへ

本プロジェクトは、2023年の理念再構築、2024年のインナー浸透と段階を踏み、2025年にはエリア戦略と資本経営を推進するマーケティング部設立の方針策定をご支援しました。

理念をつくって終わりにするのではなく、実行力強化のための体制づくりへと、フェーズに応じた伴走を続けています。

グループ経営を機能させる現場レベルの課題と対策

ここからは、経営人材の育成やカルチャーの浸透、成果の測り方について解説します。

経営人材の育成法:キャリアパスの意図的な設計

経営人材の育成は、キャリアパスの設計に尽きます。

グループ経営者は、各事業を理解したうえで、事業開発から人材育成、ガバナンスまでを担う存在であり、自然発生的に育つことはありません。だからこそ、業務をタスクとして整理して人材要件を定義し、その要件を満たす経験を意図的に積ませる必要があります。

また、本業にあたる事業の経験がなければ投資家目線の管理に陥ってしまい、グループカルチャーを育てることはできません。

異文化企業の統合:共通化できる部分に価値観を織り込む

M&Aで取り込んだ異文化の会社を、いかにグループに馴染ませるかも課題になりやすいポイントです。

事業内容やターゲットが大きく異なるグループでは、共通化できる部分とそうでない部分を明確に分け、共通化できる部分にシナジーを生む概念を織り込むことが重要です。

たとえば、グループ行動規範を禁止事項の羅列にするのではなく、自社らしい価値観を織り込む方法があります。

実際に、「人として正しいか」という判断軸であるインテグリティをグループ規範に掲げて浸透させ、グループ全体のシナジーを支えている企業事例もあります。

人材不足でもグループ経営が必要な2つの理由

人材不足は大きな課題ですが、それでもグループ経営が必要な理由は以下の2点です。

  • 複数の事業を持ち組み換えられる体制そのものが、技術革新などで勝ち筋が急変する時代のリスクヘッジになるため
  • キャリアパスを通じて経営者を育てる仕掛けはグループ経営の仕組みの中にしかなく、グループ経営をしなければ経営者は育てられないため

ホールディングス経営とブランディングの成果を測るKPI

成功を測るKPIについては、「何社買収したか」ではなく、買収した会社がグループに根付き、シナジーを生み、事業領域の拡大や社会貢献につながっているかが本質です。最も重要なのは、グループトップが描くビジョンを達成できたかどうかで測ることです。

また、ブランディングの効果も、お客様のビジョンを起点に因数分解して捉えることが基本です。そのうえで、重視している指標が2つあります。

  • インナー指標:社員が自社を自信を持って語れるかを示す「eNPS」
  • アウター指標:価格が高くてもこの会社から買いたいという状態をつくれているかを示す「LTV」や「WTP(支払意思額)」

まとめ|仕組みとブランドの両輪で、第2、第3の柱を育てる

形だけのホールディングス経営から脱却するには、経営トップが事業執行からグループ経営へと役割を移し、グループ経営機能や経営人材を育てる仕組みを整える必要があります。

一方で、M&Aによって多様な企業が集まっても、組織や制度を整えるだけでは十分なシナジーは生まれません。グループとして目指す姿や大切にする価値観を明確にし、各社の違いを尊重しながら浸透させていくことが重要です。

まずは、自社がホールディングス経営によって何を実現したいのかを改めて確認し、そのために必要な機能や人材、グループブランドの在り方を整理することが第一歩です。仕組みとブランドの両輪を動かすことが、第2、第3の柱を継続的に生み出せるグループ経営につながります。


M&Aによる事業拡大やホールディングス体制への移行において、組織の成長を加速させる「グループブランド」の構築は、単なるロゴや社名の統一にとどまりません。

グループ全体の理念やパーパスの再定義から本質的に取り組むことで、「M&A後の円滑なカルチャー統合(PMI)」や「グループシナジーの創出」、ひいては「求職者や協業先から選ばれ続ける企業価値の向上」など、経営層の皆様が目指す強固な組織づくりのための強力な基盤となります。

ホールディングス化に伴うグループブランディングや、M&A後の理念構築・インナー浸透にお悩みがございましたら、以下の問い合わせフォームよりお気軽にご連絡ください。

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