2026年5月14日(木)に『経営の意志を全社員の誇りへ、中期経営計画のナラティブ設計』と題したセミナーを開催しました。株式会社揚羽のシニアコンサルタント/クリエイティブディレクターの板倉 マサアキが登壇し、中期経営計画における課題や社員に伝わる中期経営計画の構成、浸透のポイントついて解説しました。
本セミナーレポートでは、「緻密な中期経営計画を策定しても現場に伝わらず、他人事になってしまう」という課題を整理し、経営の「Why(なぜ行うのか)」を起点としたナラティブ(物語)設計の重要性、さらに社員の共感と自発的な行動を促し、全社員が誇りを持てる組織をつくるための具体的な浸透方法や動画(パーパスムービー)の活用視点について詳しくお伝えします。
中期経営計画の社内浸透を阻む「4つの壁」
どれほど精緻に中期経営計画を作り込んでも、社内へ浸透させる過程で以下の「4つの壁」に直面します。
自社の計画がこれらの状態に陥っていないか、まずは現状を振り返ってみましょう。
①ロジックの壁:数字は合っているが、心が動かない
戦略や数値目標に整合性があっても、それだけでは社員の感情は動きにくいものです。論理的には正しくても、「なぜこの目標を目指すのか」が伝わらなければ、自分ごととして受け止めてもらえません。
②現場の壁:現場から「他人事」として扱われる
経営層が丁寧に作り込んだ中期経営計画であっても、現場では自分には関係ないものと受け止められるケースがあります。全社員が中期経営計画を細部まで読み込むわけではないためです。
どれだけ内容が論理的でも、現場に伝わらなければ意味を持ちにくくなります。
③意思決定の壁:あれもこれも盛り込み、焦点がぼやける
「あれも必要」「これも重要」と情報を詰め込みすぎることで、結果として本当に伝えたいことが見えにくくなるケースも少なくありません。
④未来の壁:過去の延長の議論から抜け出せない
従来の実績や過去の成功体験をベースに議論を進めることで、未来に向けた大胆な変化や、新しい価値創出の視点が弱くなってしまうことも課題の一つです。
中期経営計画が社員に伝わらない「構造的理由」
一般的な中期経営計画は、以下のような構成で作成されるケースが大半です。
- 前期の振り返り
- 市場環境の変化
- 全体戦略/定量目標
- 事業部別の戦略・投資計画
こうした構成は論理的な整合性が高く、じっくりと読み込むことで内容を正確に把握できるという利点があります。しかし、論理的に正しく作られているにもかかわらず、なぜ多くの社員の心に届かないのでしょうか。
その大きな要因として、「すべての社員が中期経営計画を最後まできめ細かく読み込んでいるわけではない」という現実が挙げられます。数字や事実の羅列だけでは、日々の業務に追われる現場の関心を引き続けることが困難であると考えられます。
優れたリーダーは「Why」から伝える
社内コミュニケーションの質を変えるヒントとして、マーケティングコンサルタントのサイモン・シネック氏が2009年のTEDトークで提唱した「ゴールデンサークル理論」が参考になります。
この理論は「優れたリーダーはどうやって行動を促すのか」という問いに対し、人々の心を動かす普遍的なアプローチを示したもので、昨今のブランドコミュニケーションの基盤となっています。
物事を伝える順序には「Why(なぜ行うのか)」「How(どのように行うのか)」「What(何を行うのか)」の3つの層があります。優れたリーダーは、必ず「Why」から語り始めるとされています。

「Why」から伝える手法が効果的な理由は、人間の脳の意思決定プロセスに深く根ざしているためです。
脳の構造上、感情や意思決定を司る領域は、言葉では表現しにくい抽象的な「理由(Why)」に強く反応するようにできています。
そのため、まず「Why」を提示して感情に働きかけ、その後に具体的な情報を伝えた方が、人はより納得しやすく、自発的な行動を起こしやすくなります。
従来の中期経営計画に潜む構造的課題
この視点で、先ほど挙げた「一般的な中期経営計画の構成」を検証してみると、以下のような構造的課題が浮かび上がってきます。
- 前期の振り返り:過去に起こった事実の羅列であり、「What」に該当
- 市場環境の変化:自社を取り巻く外部の客観的状況であり、「What」に該当
- 全体戦略/定量目標:具体的なアプローチである「How」と、目指す数字という結果の「What」の組み合わせ
- 事業部別の戦略・投資計画:それぞれの現場が遂行する具体的な手法であり、「How」に偏っている
このように、従来型の中期経営計画の多くは「事実(何をするか)」と「手法(どうやるか)」ばかりで占められています。肝心な「なぜこの企業が存在し、なぜこの計画を成し遂げなければならないのか」という「Why」の部分がほとんど語られていない、あるいは伝える構成になっていないという実態です。
伝える計画から「共鳴する物語」へ:ナラティブ型への転換
社員の心にしっかりと響き、一人ひとりの行動変容をもたらす中期経営計画へ進化させるためには、情報の「共有」にとどまっていた従来のアプローチから、物語の「共鳴」へとスタンスを大きく転換させる必要があります。

従来の説明型の中期経営計画は、事実や数字を客観的に並べ、会社が「何を(What)」やるかを一方的に伝える伝達スタイルでした。これでは、社員は単なる計画の「受け取り手」にとどまってしまい、自分自身の仕事として捉える「自分ごと化」には至りません。
一方で、これからの時代に求められているのが、企業の歩みを一つの物語として描く「ナラティブ型中期経営計画」です。
これは、事実の網羅を目的とするのではなく、組織が目指す「意味」や「志」を伝えるストーリー仕立てとし、「なぜ(Why)」その挑戦を行うのかに対する納得感を最優先に設計する手法です。
具体的には、以下のように構成を再構築することが推奨されます。
- 前期の振り返り
- 市場環境・社会課題の変化、パーパス・存在意義・志(Whyの部分)
- ありたい姿、全体戦略、定量目標
- 事業部別の戦略・投資計画
構成の初期段階に、自社の存在意義や目指すべき世界観という確固たる「Why」を組み込むことで、社員自身が「物語の主役」として自分の役割を認識し、自律的な行動が生まれます。
もちろん、数字や事実をないがしろにするわけではありません。それらの重要なデータをしっかりと内包した上で、「いかに社員に熱意を持って動いてもらえるか」「いかに株主や投資家の方々にファンになってもらえるか」という、関わる人々のエンゲージメントを重視することが大きなポイントです。
ナラティブ型中期経営計画の真のゴール:「具体」と「抽象」のバランス
ナラティブ型への転換において目指すべき真のゴールは、社員が「会社から指示されたことを理解している」という状態から、一歩進んで「自分たちがなぜこの事業を行うのかを誇れる」という状態へシフトすることです。
現場を動かすためには、具体的な業務内容の把握も当然重要ですが、それ以上に、経営の「なぜ」という抽象的な理念や想いに深く共感し、自社の存在を誇りに思える状態をつくることが求められます。
つまり、中期経営計画には「具体」と「抽象」の高度なバランスが必要不可欠です。
実態として、多くの計画書では具体的な数値や事業手法(具体)は緻密に書き込まれている一方で、根本にある志や理由(抽象)はおざなりにされがちです。
経営トップや計画策定メンバーにとっては当たり前の前提であっても、現場の社員一人ひとりがそれを同じ深さで理解・共有しているとは限りません。
だからこそ、中期経営計画という公式文書の中で、その抽象的な「想い」を明確に、かつ丁寧に伝えていく必要があります。
ナラティブ型中期経営計画作成のポイント
ナラティブ型の中期経営計画を実効性の高いものにするために、押さえておきたい具体的な3つのポイントを解説します。
①パーパス(Why)が言語化されているか
言葉にされていない想いを他者に伝えることは不可能です。
「言葉だけで本当に共通認識が生まれるのだろうか」と疑問を持たれるケースもありますが、実際には言葉以外の手段で組織全体の共通認識を築くことの方がはるかに困難です。
そのため、まずは自社の存在意義であるパーパスやそれに準じる経営理念を、誰もが理解できる明瞭な言葉として定義することが大前提のステップとなります。
②共感を促す仕掛けができているか
言葉を定義することは重要ですが、テキスト情報だけでは具体的なイメージが湧きにくいケースも多々あります。ビジョンが実現した先の情景や提供したい価値を多角的に想起させ、社員の共感を促すための視覚的な仕掛け(ビジュアルや関連施策など)を並行して用意することがポイントです。
③繰り返し伝え続けているか
パーパスを一度策定すると、3〜4年後の中期経営計画の更新タイミングにおいて、その原点であるパーパスの意義を改めて発信しない企業が散見されます。
一度発信したから伝わっているだろうと考えがちですが、受け手側である社員は想像以上にその内容を日常の中で忘れてしまうものです。また、発信が一過性のもので終わってしまうと、企業としての方針の一貫性が揺らぎ、不信感に繋がるリスクも懸念されます。
そのため、あらゆる機会を捉え、繰り返し伝え続ける姿勢が求められます。
パーパスの策定・浸透がもたらす具体的な経営効果
近年、自社の存在意義を言語化し、パーパス経営を実践する企業が急速に増えています。
たとえば、プライム上場企業の中でパーパス(存在意義)を掲げる企業数は、2025年には337社まで増加しています。調査対象となった1,634社全体の約20.62%がその必要性を認識し、自社の志を言葉にする取り組みを行っています。

パーパスを策定し、組織へ浸透させることで得られる実際の効果として、社内(インナー)に向けては「組織としての一体感が生まれた」「社員のエンゲージメントが目に見えて高まった」という声が多く聞かれます。
さらにその好影響は社内にとどまらず、「採用時における価値観のミスマッチが減った」というように、外部向けの採用活動においても強力な効果を発揮していることが分かっています。
このように、企業の想いや方針を正しく言語化して浸透させることは、単なる社内施策にとどまらず、組織の一体感醸成や強固な経営基盤の構築に直結しています。
パーパスや中期経営計画の浸透を加速させる「パーパスムービー」の有効性
パーパスや中期経営計画などの抽象的な概念を、より素早く深く社内に浸透させるための具体的な解決策として有効なのが、「パーパスムービー」の活用です。
実際に映像を導入している企業では、メッセージの浸透スピードと理解度が大きく向上する傾向があります。
テキストだけでは伝えきることが難しい「企業が目指す世界観」や「日々の業務の先にある空気感」「経営陣の熱量」などを一瞬で伝える上で、映像の果たす役割は非常に大きいです。
ムービーがこれほどまでに高い効果を発揮する背景として、非言語情報の重要性を示す指標である「メラビアンの法則(3Vの法則)」が参考になります。
メラビアンの法則が示すように、感情や熱意などを相手に伝える際、言葉そのもの(言語情報)以上に、声のトーンなどの聴覚情報や、表情などの視覚情報が受け手に極めて大きな影響を与えるとされています。
動画というメディアは、この視覚情報と聴覚情報をフルに活用できるため、テキスト情報と比較して約5000倍もの情報量を受け手に届けることができると言われています。
文字だけでは想像しにくい情景や、感情に直接訴えかける音楽、経営陣の熱意を伝えるナレーションを組み合わせることで、読み手を深い共感へと導くことが可能になります。
中期経営計画という抽象度が高く複雑なテーマだからこそ、こうした映像の力も活用することが浸透を加速させる鍵となります。
まとめ:中期経営計画は「共感を生むナラティブ設計」が重要になる
中期経営計画は、単なる経営管理資料ではありません。
社員が会社の未来を理解し、自分自身の役割や存在意義を感じるための「重要なコミュニケーション」でもあります。
だからこそ、数字や戦略だけを並べるのではなく、「なぜこの挑戦をするのか」「どんな未来を目指しているのか」を伝えることが重要です。
社員が「やらされ感」を抱くのではなく、自発的に動きたくなる状態をつくるためにも、これからの中期経営計画には「Why」を起点としたナラティブ設計が求められています。
中期経営計画のナラティブ設計やパーパスムービーを活用した浸透施策は、本質的に取り組むことで、「社員一人ひとりの自分ごと化と自律的な行動の促進」や「組織の一体感醸成」、「従業員エンゲージメントの向上」など、経営層や社内コミュニケーション担当者様が目指す強固な経営基盤の構築を実現するための強力な基盤になり得ます。
中期経営計画の策定や、社内への浸透・共感施策にお悩みがございましたら、以下の問い合わせフォームよりお気軽にご連絡ください。









