企業競争力を高めるためには、企業の未来像や大切にしたい価値観を従業員に理解してもらい、全社で同じ方向を向いて仕事に取り組んでいく必要があります。また、株主や投資家に対して社会にどのような価値を提供するのかを説明し、共感や支持、協力を得ることも必要です。
企業は「何のために自社は存在するのか」というパーパスを明確にして、社内外のステークホルダーに伝えることで良い商品やサービスの提供、企業競争力の強化につながります。
 
本記事では、注目を集めている「パーパス経営」についての概要や実施のメリット、成功事例などについて解説します。

パーパス経営とは

パーパス経営とは
パーパス経営とは、「何のために自社は存在するのか」「顧客や社会に対してどのような価値を提供するのか」という企業の存在意義を明確に掲げ、それを軸に企業経営を行うことを指します。
 
パーパスを軸に経営を行うことで、従業員・株主・投資家といった社内外のステークホルダーから共感が集まり、その結果、賛同や協力を得やすくなり、顧客に良質な商品・サービスを提供することにつながります。
 
企業の未来像を体現するために、パーパスの要素となる「企業のなりたい姿」「社会に提供する価値」「顧客に約束する提供価値」を掲げる必要があります。

パーパス経営が必要な理由

企業活動においてパーパス経営が必要な理由は数多くありますが、中でも主な理由を3つ取り上げます。
 

めまぐるしい時代変化に対応するため

現代は、グローバリゼーションや常に更新される最新技術など、さまざまな物事が目まぐるしく変化しており、VUCAの時代(Volatility:変動制、Uncertainty:不確実性、Complexity:複雑性、Ambiguity:曖昧性)と呼ばれています。企業として、これからも続く時代の変化に対応するためにも、確固たるブレない軸が必要になります。そのためパーパスを掲げることが重要です。
 

多様化する価値観の中で同じ方向を向くため

企業においてもダイバーシティが推進され、ワークスタイルや仕事に対する考えなど、異なる文化や価値観を持つ人材が集まっています。そんな中でも、同じ企業で働く従業員が共通認識を持ち、全従業員が同じ方向を向いて企業活動を行うことが欠かせません。そのためにもパーパスを掲げることは重要です。
 

コモディティ化する中で自社を選んでもらうため

昨今では新たな技術や高付加価値の製品やサービスが市場に溢れ、技術力や製品で他社との差別が困難なコモディティ化が進んでいます。コモディティ化が進む中、差別化戦略としても各社独自のブランディングが欠かせません。したがって、企業が目指す未来像を従業員に伝え、共感・信頼を獲得し、一人ひとりがブランドを体現しながら商品・サービスを提供するためにもパーパスは重要な役割を果たします。

パーパス経営のメリット

パーパス経営に取り組むメリットについて、5つ紹介します。
 

自社商品・サービスに付加価値を付けられる

コモディティ化する中で、自社商品に付加価値を付ける必要性が高まっています。
パーパスを掲げて共感を集めることができれば、以下のような付加価値が付けられます。
 

  • 自分の業務が社会貢献につながっていることを実感しやすくなり、従業員が仕事に対して意欲的に取り組むようになる。
  • 商品・サービスを通して社会貢献に取り組んでいる姿に共感が集まり、応援したいと思うファンが増え、ブランドで自社商品、サービスを選択してもらえる。
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    このようなメリットがあるため、自社独自の魅力が伝わるパーパスを掲げましょう。
     

    他社と協業体制がつくれる

    パーパスの内容だけでなく、パーパスに込められた想いやストーリーをトップの言葉や企業のHP等で発信することで、他企業の目に留まることがあります。
    パーパスを目にした他企業が、そのパーパスを通じて、共通の考え方や共感する部分が見えてくることで両社がつながり、協業体制を築くというケースも増えています。
     
    たとえば、クラウドファンディングサイト「Makuake」を運営する株式会社マクアケと、ソーシャルリクルーティングサービスを展開するウォンテッドリー株式会社の2社は、企業の思想部分に共感できることが多いことへの気付き、根底に流れている思いや事業の考え方に関する共通項を見出すことが出来た結果、2023年1月より業務提携を開始しました。
     
    パーパスを掲げることで、想いに共感してくれる企業との協業の機会につながる可能性があります。
     
    参考:ニュースイッチ,「共感」を軸に業務提携する2社に聞く、「共感の経済圏」とは何か?

     

    既存社員の意識改革ができる

    既に活躍している全従業員に対しても、改めて企業が目指す姿、未来像を理解してもらい、長期ビジョンを叶えるための戦略や組織文化の浸透活動を行うことが重要です。
    「私たちの会社は、こういった方法で社会やお客様に貢献している」「私たちは将来なりたい姿を目指して、仕事に取り組んでいる」など、意識改革を進めていくことが可能です。
     
    このように、自社の従業員を対象に、企業が目指す姿や社会に提供したいこと、大切にしたい価値観を共有し、共感を持って行動してもらうために実施するブランディング活動をインナーブランディングといいます。
     
    インナーブランディングについて詳しく知りたい方は、下記の記事をご参考ください。
    関連記事:『インナーブランディングとは?手順や注意点、企業の成功事例などを紹介』
     

    パーパス実現に向けた人材の採用につながる

    企業のHP等で自社のパーパスを公開することで、その思想に共感した求職者からの採用応募が増え、企業側が求める人物像とも一致するメリットがあります。企業はより魅力的で独自性のあるパーパス(存在意義)を掲げることで、“同志”の採用がしやすくなります。
     

    意志決定のスピードが上げられる

    パーパスは企業の存在意義や姿勢を言葉で表現したものです。これらが明確になっていると、「私たちの会社は、何のために存在しているのか?」「私たちの会社はどこに向かっているのか?」など、目的を共有できます。
    組織全体でパーパスを理解し、共通認識が持てていれば、判断基準が明確になり、意思決定のスピードが上がり、ひいては生産性向上にもつながります。

    パーパス経営を実施する上でのポイント

    パーパス経営を実施する上で、社内外のステークホルダーから共感を集めて支持されるようになるためには、4つのポイントを押さえることが重要です。
     

    企業の独自性を出す

    パーパスとして企業の未来像を表現するときは独自性を意識しましょう。
    誰にでもわかりやすい言葉で表現すること自体は間違っていませんが、どの企業でも言えてしまうような言葉でパーパスを掲げた場合、他社との違いが分かりづらくなってしまいます。
     
    パーパス経営とはパーパスを軸に経営することで、従業員、株主、投資家から共感を集めて、協力を得やすくするために行うものでもあり、ステークホルダーの心に響かなければ意味がありません。そのため自社独自の魅力が伝わるパーパスを掲げましょう。
     

    経営層が社内外へメッセージを伝える

    企業の経営方針を明確にして社内の組織文化を形成したり、顧客や投資家に企業の存在価値を理解してもらい企業評価の向上につなげるためにも、経営層がパーパス経営に対する本気度を直接伝えることが効果的です。
     
    パーパスを社内に浸透させるために社内報の発行やポスター掲示などに取り組んだとしても、それだけでは目に留まらなかったり、理解に時間がかかるといった可能性もでてくるでしょう。
    そのため、経営層が熱意・覚悟を持ってメッセージを伝えることで、ステークホルダーの関心を引き、パーパス(存在意義)理解を促進することができます。
     

    シンボリックな取り組みを促す

    パーパス経営での失敗例として、パーパスを策定したにも関わらず何も行動しなかった結果、ステークホルダーから不信感を抱かれてしまうことがあります。「パーパスに共感して応援していたけれど、実態が伴っていない」といった不満がでると、企業のブランド価値の毀損につながりかねません。
     
    このような事態を避けるためにも、パーパスを掲げたら象徴となるような取り組みを行うようにしましょう。企業の未来像に向かって具体的に取り組む姿勢を示して、信頼を獲得していくことが大切です。
     

    プロセスを報告する

    パーパスを掲げて具体的に取り組む企業の中には、成果だけを報告する企業が多く見受けられます。パーパス経営においては、成果だけではなくプロセスを報告することが重要です。今現在の具体的な取り組みを伝えることで、透明性も高まります。

    課題も含めたプロセスを報告することで共感が生まれ、ファンを増やしていくことにもつながります。

    パーパス経営の成功事例

    パーパス経営の必要性は理解して頂けたと思いますが、実際の企業はどのような取り組みを行っているのでしょうか?パーパス経営の成功事例を見ていきましょう。
     

    株式会社セブン銀行

    パーパス経営の成功事例_株式会社セブン銀行

    株式会社セブン銀行はセブン&アイ・ホールディングス傘下の銀行です。
    2021年の設立20周年を機に【お客さまの「あったらいいな」を越えて、日常の未来を生み出し続ける。】というパーパスを新たに策定しました。パーパスを掲げるだけでなく社内外に発信・浸透させ、セブン銀行の商品・サービスを利用する顧客はもちろん、そうでない人や社員などファンを増やしていくための取り組みを日々行っています。
     
    社外への取り組みとして、セブン銀行のファンを増やすためにホームページリニューアルを行い、パーパスを全面に押し出してブランディングを重視した構成にしています。
    社内向けの取り組みでは、同社で働くあらゆる部署の人たちに、パーパスを実現する具体的な手法を共有してほしいという想いから、全部署・全社員参加型コンテストである「パーパスアワード」を開催。誰もがパーパスについての想いを話し合い、共有していることから「社員一人ひとりがパーパスの考えが深まり、浸透度が高まった」と述べられてます。
     
    参考:セブン銀行【社長×社員対談】パーパスを作っただけでは終わらない 社外・社内にパーパスを広げていく

     

    SOMPOホールディングス株式会社

    パーパス経営の成功事例_SOMPOホールディングス株式会社

    SOMPOホールディングス株式会社は、国内損保、海外保険、国内生保、介護・シニア、デジタルという5つの事業を展開する保険・金融グループです。
     
    同社は、「ステークホルダーとともに実現したい社会」と「目指す社会の実現に向け、社会に提供する価値」を掲げ、両方で「SOMPOのパーパス」を表しています。
     
    このパーパスを浸透させるために、社員一人ひとりの意識改革を重視しており、経営陣自らが従来の「会社の中の自分」から「自分の中の会社、仕事」という考え方のパラダイムシフトを図る重要性を社員に発信してきました。
     
    また、グループの社員一人ひとりに、自分自身の人生の意義や目的、働く意義であるMYパーパスの策定を促進。社員がMYパーパスを実現するために働くことで、自律・自走の状態が生まれ、エンゲージメント向上、さらにSOMPOのパーパス実現に繋がるという考えから、MYパーパスを軸とした企業文化変革を実行しています。
     
    参考:SOMPOホールディングス|SOMPOのパーパス

    共創を実現するパーパス運用論「3P」🄬

    共創を実現するパーパス運用論「3P」®︎
    弊社は、さまざまなステークホルダーを巻き込み、サステナビリティ経営への取り組みとビジネスを加速させるためのフレームワークである、共創を実現するパーパス運用論「3P」®を公開しています。
     
    SDGs・ESG・CSVといったテーマへの関心が世界的に高まっており、多くの日本企業もその活動の根幹としてパーパスを策定したものの、具体的な取り組みは遅れを取っているというのが現状です。
     
    世界中の企業に求められるサステナビリティ経営は、自社だけでは実現できず、お客様・サプライヤー・従業員・求職者・投資家など、すべてのステーホルダーとの「共創」による価値創出が欠かせません。現在多くの企業が掲げるようになった「パーパス(存在意義)」ですが、共創を実現するためには、パーパスに沿った3つのP(パッション、プロジェクト、プロセス)を意識した行動により、「共感」を生むことが重要です。
     
    “共創を実現するパーパス運用論「3P」🄬”は、本記事で解説しているパーパス経営に関する内容も含まれていますので、フレームワークとしてご活用ください。
     
    ※共創を実現するパーパス運用論「3P」は株式会社揚羽の登録商標です。
    >>【サステナビリティ経営をさらに加速する】“共創を実現するパーパス運用論「3P」🄬”を公開。

    >>パーパス運用論「3P」事例付きワークシートのダウンロード

    まとめ

    パーパス経営とは、企業の存在意義を明確に掲げ、それを軸に経営を行うことを指します。パーパスを軸に経営することで、従業員、株主、投資家から共感を集めて、協力が得やすくなります。その結果、顧客に良質な商品・サービスが提供できるようになります。
     
    多くの企業がパーパス経営に取り組んでいますが、「自社独自の魅力をどのような言葉で伝えれば良いのだろうか?」「どうやってパーパスを理解してもらい、浸透していけば良いのだろうか?」と悩んでしまうこともあると思います。パーパス経営に関する課題がございましたらブランディング支援会社の弊社までお気軽にご相談ください。
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