インナーブランディングは、従業員の企業やブランドへの理解・共感を深め、エンゲージメントを向上させることで、組織全体の活性化と持続的な成長を目指す重要な取り組みです。しかし、その具体的な進め方や施策の立案に悩む企業も少なくありません。

この記事では、インナーブランディングの施策について、これまで当社が支援してきた実績から成功事例を厳選して詳しく解説します。課題・目的からどういった施策を実施することがインナーブランディングの成功につながるのかを押さえてみましょう。

目次

インナーブランディングにおける「成功」とは何か?

まず、インナーブランディングにおける「成功」とは具体的に何を指すのか、その本質を理解することが重要です。これは単に施策を実行することではなく、企業と従業員双方にとって価値ある状態を生み出すことを意味します。

インナーブランディングとは、簡潔に表現すれば「従業員へのブランド価値浸透活動」であり、企業理念やビジョンを従業員と共有するための投資活動といえます。人的資本経営が重視される現代において、従業員をコストではなく重要な資本と捉え、その能力を最大限に活かすための有効な施策の一つとして位置づけられています。

具体的な施策としては、企業理念の浸透プログラム、インセンティブ制度や表彰制度の導入、各種教育・研修などが挙げられます。

従業員エンゲージメント向上が真の目的

インナーブランディングにおける真の目的は、従業員のエンゲージメントを高めることにあります。エンゲージメントとは、従業員が企業や自社のブランドに対して抱く愛着や誇り、そして貢献意欲を指します。このエンゲージメントが高まる結果として、企業が持つ本来の価値(質・量ともに)を顧客に対してより一層発揮できるようになり、最終的に企業の利益へと結びついてこそ、インナーブランディングの「成功」といえるでしょう。

施策の実施には費用と時間を要するため、インナーブランディングは長期的な視点での持続的な投資効果として捉えることが重要です。

施策が「従業員に響くか」が成功のポイント

インナーブランディングの成功を別の角度から見ると、実施する施策が「従業員に響いているか」どうかが極めて重要なポイントとなります。

インナーブランディングを成功させる上で重要なのは、その投資活動が「従業員に響くか」であり、実現するためにはすべての活動の軸となる「コンセプト」を明確に設定することが欠かせません。「何のためにこの施策を行うのか?」「その内容は自社らしさを反映しているか?」「企業として何を目指しているのか?」といった問いに対し、どの取り組みにおいても一貫した回答を従業員が共有できる状態が理想です。

企業や組織がこのような状態であれば、従業員のエンゲージメントは自然と高まり、インナーブランディングを成功へと導くことができるでしょう。

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【事例1】株式会社ニッセイコム:企業ブランド強化のためのコミュニケーション戦略

新しいコミュニケーションを生み出すブランディング(株式会社ニッセイコム)

最初の成功事例として、企業ブランド強化という明確な目的のもと、インナーブランディング施策を実施した株式会社ニッセイコムのケースをご紹介します。

クライアント 株式会社ニッセイコム
工程 調査 / 戦略策定 / コンテンツ制作

背景と目的:急速な社会変化に対応するためのブランド再構築

株式会社ニッセイコムは、2015年にコーポレートブランドをリニューアル。その後、DX推進やAIなどの技術発達、新型コロナウイルスの感染拡大など、急速な世の中の変化により企業も大きな変革が求められる時代に突入したことを実感し、10年後、20年後の未来を見据えて社会貢献できる企業を目指すためには、企業ブランドの強化が必要と認識したことを背景にインナーブランディングを実施しました。

施策と進め方:価値の可視化から多角的な浸透策まで

企業ブランドの強化にあたって、まずはニッセイコムの提供する価値を整理して従業員が認識しやすいスローガンとして落とし込み、可視化させ、社内にスムーズに浸透させることを目指しました。

ニッセイコムの価値を正しく洗い出し、ブランドの核となるコアバリューを導出するために、経営者の方々へのインタビューやワークショップを開催。そこで出たワードやフレームワークから「ニッセイコムの価値」を洗い出し、導出したコアバリューをブラッシュアップしてブランドメッセージを創出しました。さらに、メッセージを視覚からも直感的に理解してもらうため、キービジュアルも制作。

言葉・ビジュアルとして形になった「ブランド」を、新たに制作した特設ブランドWebサイトやブランド映像、ストーリー映像を用いて、社内での浸透を図りました。

株式会社ニッセイコムのインナーブランディングの詳細はこちら

【事例2】ぺんてる株式会社:ビジョンを物語るブランドブック制作と展開

インナーブランディング_ルーツから未来までをストーリーで描いたブランドブック(ぺんてる株式会社)

新たに策定した企業ビジョンを社内外へ効果的に浸透させ、ブランド全体の価値向上を図る目的でインナーブランディングに取り組んだ、ぺんてる株式会社の成功事例を紹介します。

クライアント ぺんてる株式会社
工程 企画構成 / 制作進行 / ディレクション / 取材・撮影 / コピーライティング / デザイン

背景と目的:新ビジョンの浸透と社内外のファン獲得

ぺんてる株式会社では2013年に新たなビジョンを策定し、ビジョン浸透のために「コーポレートレポート」を作成。2016年には創業70周年を迎え、2018年にビジョンのさらなる浸透を目的に「コーポレートレポート」の全面刷新を検討されていました。揚羽では、従来の冊子とは一味違った、ビジョンをどう具現化してどのような未来の姿を描いていくのかを伝える「ビジョンブック」の制作を提案いたしました。

施策と進め方:ルーツと未来を繋ぐストーリーと「らしさ」の表現

ビジョンブックは「従業員がビジョンを自分事化し、ぺんてるの向かうべき方向をイメージできること」「社内外のステークホルダーに、ぺんてるのファンになっていただくこと」の2つを大きなゴールに設定。このゴールに向かって、まずはビジョンの浸透度や「コーポレートレポート」の現状を正しく理解するためのリサーチを実施しました。

そして、企業のルーツから現在、未来につながるストーリー構成でビジョンメッセージを再定義。創業時のものづくり精神が現在の製品にどう受け継がれ、さらに未来に向けてどのような変革にチャレンジしていくのかを解き明かす構成にしたことで、自社の製品や取り組みがビジョンと密接に繋がっていることが理解できるような内容を作成。

また、冊子のビジュアルは「アナログ」「カラフル」をテーマに、ビジョンに込められた想いを誌面上で表現。ぺんてるの強みである「色」と個性豊かな筆跡を採用し、アナログならではの世界観でぺんてるの独自性を全面に押し出しています。

コンテンツの内容だけでなく、ビジュアルにもビジョンや想いを詰め込んだことで「ぺんてるらしさ」をふんだんに取り入れたビジョンブックが完成しました。

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【事例3】LIXIL労働組合:10周年記念事業による理念浸透と一体感の醸成

インナーブランディング_結成10周年記念事業支援(LIXIL労働組合)

労働組合の結成10周年目の節目に、改めて理念を見つめ直して絆を深めることを目的に実施した周年事業の事例です。

クライアント LIXIL労働組合
工程 コミュニケーション設計 / コンテンツ制作 / イベント運営

背景と目的:周年を機とした理念の再確認と絆の深化

12,000人を超える組合員が参加するLIXIL労働組合は、2022年に結成10周年を迎えました。これを機に改めて組合理念の見つめ直し、組合活動の意味を理解して絆を深めるための周年記念施策を検討。10周年記念事業をインナーブランディング強化の一つと捉え、揚羽では企画案の検討段階からプロジェクトに参画し、企画運営まで支援しました。

施策と進め方:体験型コンテンツによる理念の直感的訴求

すでに策定されていた周年事業全体をくくるコンセプト「未来につなげる、無限のWA」を形にすべく、ロゴから映像、オンラインイベントを一貫してプロデュースしました。「笑」「話」「羽」「輪」「和」など様々なWAが感じられる周年にしたいという想いを具現化するための各種制作物をご提案。とくに、記念誌は対外的な広報の役割も兼ねていることから、基本情報を入れつつ、同組合らしさが感じられる内容を厳選して年表を作成し、10年間の活動軌跡から会社の変化を訴求しています。

周年ロゴはコンセプトを元に人と人とのつながりを表現したビジュアルに、特設サイトや周年サイトを彩るキービジュアルはロゴを中心にワクワク感が醸成されるような表現を入れ込みました。イベントという体験型のコンテンツであるからこそ、直感的に理念や想いを感じられるよう細部までこだわり協働した結果、10周年記念事業を成功に導くことができました。

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【事例4】旭化成株式会社:学びのプラットフォーム「CLAP」の社内浸透支援

中期経営計画実現のための重要施策に位置付けられた、従業員の自律的なキャリア形成や成長を後押しする学びのプラットフォームの社内浸透施策の事例です。

クライアント 旭化成株式会社
工程 コンセプト策定・言葉づくり / コンテンツ制作

背景と目的:「人財」トランスフォーメーションと自律的成長の促進

旭化成株式会社は新たに中期経営計画を策定し、2022年度4月より始動。変革に向けて取り組むテーマの1つに「人財」のトランスフォーメーションを掲げました。その支援策として、新たなラーニングマネジメントシステム「CLAP(Co – Learning Adventure place)」を導入。旭化成株式会社が目指す組織風土や終身成長の実現のためにはCLAPを社内に広く認知させ、利用促進を図る必要があることから、スローガンやロゴ、キービジュアルの策定、浸透映像を制作することになりました。

施策と進め方:共感を呼ぶスローガンとビジュアルによる浸透策

浸透のための第一ステップとしてまずは認知が必要であったことから、導入の目的やそこに込められている想いに理解・共感してもらうため、スローガンやブランドロゴ、キービジュアルや浸透映像の制作をご支援。

スローガンは、本プロジェクトのメンバーや社長へのインタビューを元に決定。そして、スローガンに込められた想いを視覚的にも浸透させるためにブランドロゴやキービジュアルを制作しました。コンセプト映像は使用イメージや社長インタビューの映像を取り入れることで、代表の想いと具体的な活用方法をわかりやすく伝えられるよう工夫しています。映像は実際の社員の写真を使用することで、イメージ素材だけでは表現できない当社らしさを演出。スローガンをベースに、一貫したイメージを与えられる制作物から、プロジェクトメンバーや社長の想いが直感的に理解・共感できるアウトプットを通じて浸透活動に寄与しました。

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【事例5】株式会社メフォス:MVV策定からのブランドコミュニケーション計画

インナーブランディング_MVV策定から、ブランドコミュニケーション計画まで構築(株式会社メフォス)

新規顧客の獲得や、株主、従業員、取引先といった多様なステークホルダーとのエンゲージメント向上を主な目的に、インナーブランディングに取り組んだ事例です。

クライアント 株式会社メフォス
工程 調査 / 言葉づくり / 戦略策定 / クリエイティブ制作

背景と目的:ブランド価値の明確化とエンゲージメント向上

新規顧客獲得を目的とした企業プロモーションを検討していた株式会社メフォスは、揚羽と訴求内容や方向性を整理していく過程でブランド価値が不明瞭であることに気づきました。そこで、プロモーションに取り掛かる前に、自社らしさを定義するMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)の策定を実施。MVVは組織の核となる概念であり、行動や意思決定を導く重要な要素です。プロモーションは組織の想いを反映させることが重要であることからも、まずはインナーブランディングにより自社らしさを導き出すことから始めました。

施策と進め方:「らしさ」の定義から多メディア展開まで

「組織的なブランド要素」は、現場で活躍する社員の「姿勢」や「想い」といった「一人ひとりのブランド要素」と株式会社メフォスの文化を形成するヒストリーから構成されるものです。組織的なブランド要素を抽出するため、まずは同社の社員や役員、社長へのインタビューを実施しました。抽出されたブランド要素から“らしさ”を構造化し、MVVの核となるコア・バリューを決定。取材から約4ヶ月をかけて、全体の要素をMVVとして落とし込みました。

あわせて、MVVを直感的に理解してもらうためにビジュアルも策定。MVVを具現化できるテーマ・表現方法を見つけてイメージとマッチする作家をキャスティングし、同社の姿が直感的に感じられるような表現が完成しました。MVVはブランドサイトやポスター、コンセプトムービーに落とし込み、ステークホルダーに向けたコミュニケーションツールとしても機能させることに成功しました。

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インナーブランディングを着実に成功させるための進め方

インナーブランディングを成功に導くためには、一連の施策を計画的に実行し、その効果を検証しながら改善を続けるPDCAサイクルを回していくことが極めて重要です。ここでは、その基本的な進め方のステップを紹介します。

インナーブランディングを成功させるための3ステップ

ステップ0:現状調査で課題を明確にする

インナーブランディングの最初のステップは、自社の「現状」を正確に把握することです。従業員が自社の理念やビジョンをどの程度理解し、共感しているのか。また、組織としてどのような課題を抱えているのかを明確にしなければ、効果的な施策を立案することはできません。現状の課題認識や理念の浸透度合いによって、本当に実施すべき施策の内容は大きく異なるため、このステップは不可欠です。

従業員を対象としたサーベイ(アンケート調査)や、経営層・管理者・一般社員との直接対話(インタビューやワークショップ)などが有効な調査手段となります。

ステップ1:活動の軸となる「言葉づくり」

揚羽の考えるインナーブランディング施策の実施手順では、ステップ1を「言葉づくり」としています。ここで言う「言葉」とは、従業員に伝えたい企業の核となるメッセージ、すなわち活動のコンセプトやスローガンなどを指します。

この「言葉」があることで、インナーブランディングを通じて企業が何を目指しているのか、従業員に対して何を期待しているのかを明確に伝えることができます。この「言葉」が、以降の全ての施策の判断基準となり、一貫性のある活動を展開するための基盤となります。

ステップ2:言葉を浸透させるための施策実行

策定した「言葉」(コンセプトやメッセージ)を従業員一人ひとりに深く浸透させるための具体的な施策を計画し、実行に移します。施策の内容は、企業の文化、従業員の特性、予算、そして最も重要な「目的」に応じて多岐にわたります。

例えば、研修プログラムの実施、ワークショップの開催、社内報やイントラネットを通じた情報発信、ブランドブックやクレドカードの制作・配布、社内イベントの企画、動画コンテンツの配信などが考えられます。大切なのは、先のステップで定めた「言葉」を最も効果的に伝えられる施策を選択し、組み合わせることです。

ステップ3:相互理解を深める場の設定と継続

施策を実行して終わりではなく、その効果を継続的に高めていくためには、従業員の理解と共感をさらに深めるための取り組みが必要です。特に、経営層と従業員間、あるいは従業員同士がオープンに対話し、お互いの考えや想いを共有することで相互理解を促進する場を設けることが重要です。

これにより、浸透した「言葉」が単なる知識としての理解に留まらず、個々人の「共感」へと繋がり、さらには組織全体の「共通認識・共通価値観」へと昇華していくことを目指します。また、定期的な効果測定とフィードバックを通じて施策を改善し続けることも、インナーブランディングを定着させ、成功へと導く鍵となります。

【お役立ち資料】インナーブランディングのための3つのステップ

インナーブランディング推進に役立つ視点とツール

インナーブランディングの取り組みをより効果的かつスムーズに進めるためには、役立つ考え方とツールが存在します。ここでは、そのいくつかを紹介します。

従業員視点を取り入れるエンプロイージャーニーマップの活用

インナーブランディングを実施する上で、従業員の視点に立った施策検討を助けるツールの一つとして「エンプロイージャーニーマップ」の活用がおすすめです。エンプロイージャーニーとは、一人の従業員が企業に入社してから、日々の業務を経験し、キャリアを重ね、最終的に退職してOB・OGになるまでの一連の道のり(経験や感情の変遷)を指します。エンプロイージャーニーマップはその過程を可視化したものです。

インナーブランディングの主要な目的が従業員エンゲージメントの向上であるため、このマップを活用することで、従業員が企業と関わる各接点での体験価値を詳細に分析・検討し、エンゲージメントを高めるための具体的な改善策を見つけ出す効果が期待できます。特に、「従業員エンゲージメントに関する課題がまだ明確になっていない」「従業員の“働く”というトータルな体験をより良いものにしたい」といった課題意識や目的を持つ場合に、このツールの活用を検討してみましょう。

【お役立ち資料】エンプロイージャーニーマップはこちら

他社事例に学ぶ成功のヒントとアイデア

インナーブランディングで取り組むべき施策や進め方は、業の規模、業種、文化、抱える課題、そして目指す目的によって千差万別です。そのため、一概に「この施策がすべての企業にとって正解」とは言い切れません。このような状況において、他社の成功事例は、自社の課題や目的に対して、どのような施策が考えられるのか、どのようなアプローチが有効だったのかを具体的に把握するための貴重な情報源となります。さまざまな企業の事例を知っておくことは、インナーブランディングの施策を検討する上でのヒントやアイデアを見つけるために有効です。

【資料ダウンロード】インナーブランディングの支援実績集はこちら

まとめ:企業の目的達成と成長のためのインナーブランディング

この記事では、インナーブランディングの基本的な定義やその重要性から始まり、企業の目的を達成するための具体的な進め方のステップ、多様な施策の選択肢、そして実際にインナーブランディングを成功させた5つの企業の貴重な事例について詳しく解説しました。従業員一人ひとりのエンゲージメントを高め、組織全体の力を最大限に引き出すインナーブランディングは、現代企業にとって持続的な成長を実現するための不可欠な経営戦略です。

今回ご紹介した情報や成功事例が、皆様の企業におけるインナーブランディング活動を推進する上での一助となれば幸いです。最も重要なのは、自社の置かれた現状と真摯に向き合い、明確な目的意識を持って、従業員と共に成長できるインナーブランディングを着実に目指していくことです。

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