皆さま、こんにちは。揚羽のマーケティンググループの角尾です。

2024年1月17日(水)に、「人的資本を最大化させる!インナー&アウターブランディングをやり抜く秘訣とは」と題したセミナーを開催しました。グロービス経営大学院 副学長の田久保氏、株式会社ブイキューブ CHROの今村氏に登壇いただき、弊社ブランドコンサルティング部 部長の黒田とセッション形式でお話を伺いました。本記事では、講演内容のサマリーをご紹介します。

ロービス経営大学院
副学長
田久保 善彦 氏グロービス経営大学院
副学長
田久保 善彦 氏
株式会社ブイキューブ CHRO 今村 亮 氏株式会社ブイキューブ
CHRO
今村 亮 氏
株式会社揚羽 ブランドコンサルティング部 部長 黒田 天兵株式会社揚羽
ブランドコンサルティング部 部長
黒田 天兵

インナー&アウターブランディングの関連性

人的資本経営に欠かせない手段として、インナーブランディングへの注目が高まっていますが、インナーブランディングなきアウターブランディングは空虚であり、自社らしさを軸に、言行一致型の“インナー・アウター両輪”の企業ブランディングこそが今の時代には必要です。
揚羽 黒田:
元々「ブランディング」というと自社の認知を高め、ブランドポジションを獲得し、問合せや採用に繋げるなど、ビジネスの成長を目的とした「外向き」のアウターブランディング(下図右側)のことをイメージされている方も多いと思います。ただ、アウターブランディングとして発信している内容を従業員がきちんと理解していないことも多く、従業員が会社の方針を認知・理解し、そして共感を高めるための「社内向け」のインナーブランディングが注目されるようになりました。
インナーブランディングによって、従業員エンゲージメントを高め、従業員同士のコミュニケーションが活発になることでイノベーションが生まれ、サステナビリティ経営や人的資本経営が実現できます。そして、それを社外に発信し、対外的にも評価されることで従業員の誇りに繋がるという一連のブランドの流れがあるべき姿だと思っており、弊社では、インナー、アウターの言行一致型のブランドコミュニケーションを「バタフライモデル*」と提唱しています。
*揚羽の考える「バタフライモデル」:構築したブランド理念体系にまずは従業員が共感・体現し、そのプロセスから生まれる価値を社外へと発信。インナーとアウターが矛盾しない、言行一致型のブランドコミュニケーションを実現支援。
バタフライモデル

ブイキューブ「ピープル・サクセス」について

「ピープル・サクセス」とは

揚羽 黒田:
一貫したブランドコミュニケーションを実現していくためには、人と組織の成長(インナー)とビジネスの成長(アウター)の両輪で取り組むという弊社の「バタフライモデル」について説明しましたが、ブイキューブさんの「ピープル・サクセス」という言葉や「ピープル・サクセス サイト」について教えていただけますか。
ブイキューブ 今村氏:
「ピープル・サクセス」とは、ブイキューブが掲げる「Evenな社会の実現」というミッションについて必要不可欠な、カスタマーのサクセスと会社メンバーのサクセスの総称です。
事業が踊り場になってきた時、改めて人的資本の重要性を痛感し、人にフォーカスして拡大していく方針を定めました。カスタマーサクセスという言葉がある通り、お客様はもちろん、自分たちの成功や自己実現にも繋がらないと、お客様に提供できないのではないか、お客様と自分たちの両軸でサクセスに導いていくことが大事であるという考えに至りました。
「エンプロイーサクセス」という考え方もありますが、働き方の多様化によって企業と雇用される関係だけではないことから、エンプロイーの概念を広げ、ブイキューブでは「ピープル・サクセス」として発信していこうと決めました。
サイトについては、我々のミッションである「Evenな社会の実現」を掲げている中での取り組みとして、失敗も成功も世の中の人の役に立つのではないかという考え方があり、その発信の為に、「ピープル・サクセス サイト」を制作しました。

株式会社ブイキューブ ピープル・サクセス

株式会社ブイキューブ:「ピープル・サクセス サイト」

「ピープル・サクセス」の歩み

ブイキューブ 今村氏:
「ピープル・サクセス」の取り組みとして、2020年に「ピープル・サクセス室」が発足し、2022年ぐらいまでは人を体系的に育てることや、人事制度の刷新、キャリアの考え方を根付かせるなどの仕組みづくりを中心に行ってきました。また、インナーブランディング施策として、「ブイの日」と呼ばれる社内イベントで活性化を推進し、2024年にはCHROを設置するなど人的資本経営を本格化させようと取り組んでいます。
揚羽 黒田:
「ピープル・サクセス」に取り組まれた2020年頃は、人的資本経営についてはどれくらい意識されていましたか?
ブイキューブ 今村氏:
人的資本経営、伊藤レポートなどの話は「ピープル・サクセス」の後になると思いますが、この時はブイキューブとしての「人」に対する方針や考え方、ブイキューブらしさを出すことを先行していました。その後に人的資本経営という考えが出てきて追い風になったと感じています。
揚羽 黒田:
私たちも今、人的資本経営ということで人に対する経営、インナーブランディングについて多くご相談をいただくのですが、ブイキューブさんは、それを以前から考え、取り組まれてきたという事ですね。先進的な取り組みだと感じますが、田久保さんはこういったブイキューブさんの取り組みについてどう思われますか?
グロービス経営大学院 田久保氏:
ブイキューブさんには、「人事部」という言葉がないんですよね。部署の名前を「ピープル・サクセス室」に変えたということでしたが、皆さんが日々「人事部」と言わず「ピープル・サクセス室」と言っていること自体がインナーブランディングの第一歩であると感じます。
インナーブランディングは何のためにやるのかというと、私は、働く人が自分の仕事に意味づけできるようになることだと思っています。つまり働く人が、誰の為に、何の為に、誰の笑顔が見たくて働いているのかを理解することがインナーブランディングを実施することの究極の意味だと思います。ブイキューブさんがすごいなと思ったのは、部署の名前を「ピープル・サクセス室」としたり、「ピープル・サクセス サイト」内にある記事も社内の方が書いているということです。書くということにコミットメントすることでエンゲージメントは上がりますし、分かりやすく見える形でサイトとして公開、運用している企業はなかなかないのではないかと思います。
揚羽 黒田:
先ほど田久保さんから「働く人への意味づけ」といったお話がありましたが、ブイキューブさんでも「ピープル・サクセス」という文脈の中で、一人ひとりと向き合うことなど何かやっていらっしゃいますか?
ブイキューブ 今村氏:
「ピープル・サクセス」を始める前の2018年にちょうど創業20周年を迎え、ミッションやバリューを刷新しました。2013年の株式上場以降、従業員が増え続けていた課題感として「志が言語化されていない」ということがありました。全社が同じ方向を向いていくための意味づけとして、「きちんと言葉に落とし混むために全員で作ろう」ということで全社の考えなど、共通する思いなどを再確認できたことは良かったと思います。

「ピープル・サクセス ポリシー」 望ましくない人物像

揚羽 黒田:
他にもサイトにはエンゲージメントスコアなどが掲載され、結構赤裸々に情報が開示されているのですが、採用や人財開発、人事制度の基本方針である「ピープル・サクセス ポリシー」には「望ましくない人物像」も公表されています。求める人物像は当然ながら、「望ましくない人物像」も明示されている背景を教えていただけますか。

株式会社ブイキューブ:「ピープル・サクセス ポリシー」

株式会社ブイキューブ:「ピープル・サクセス ポリシー」
ブイキューブ 今村氏:
そうですね、この「ピープル・サクセス ポリシー」を役員陣で作った時に、求める人物像とは逆に、「こういう人物はブイキューブには合わないね。」という意見がありました。元々外部に発信する想定でしたので、求職者がこれを見て「自分には合わない」と思ったらエントリーしないことで採用のミスマッチもなくなりますし、はっきりと表明しておくことが私たちの特徴になるかなと思い、掲載しました。人的資本開示の点でいうと、女性管理職比率が高くないということがあります。なぜ高くないのかという理由も含めて途中段階、その状態を開示するようにしています。
揚羽 黒田:
田久保さんはどう思われますか?
グロービス経営大学院 田久保氏:
自社の考え方や大事にしていることを、シャープに打ち出すことはマーケットや求職者に対して強いメッセージとなると思います。特定のメッセージに対して嫌悪感を抱く人は自動的にスクリーニングがかかりますし、反対に「嫌なモノは嫌」という会社としての強い個性を出すことに共感した人たちだけが集まって来ます。また、既に在籍している従業員の方も、自分の会社がどういう会社かを再認識できるので、このやり方はインパクトがあってすごく上手だなと思います。
揚羽 黒田:
たしかに、企業によっては良いことばかりを伝えるコミュニケーションが増えている中で、人的資本の情報開示が単純に数字的な開示だけでなく、会社の個性を世の中に訴えかけるメッセージがあるのは、すごくいい流れだと思います。
ブイキューブ 今村氏:
そうですね、この「ピープル・サクセス サイト」に様々な角度で記事を増やしていき、一つの見方だけではなく、共感できるところとできないところも含めて人的資本経営の開示の方法と捉えています。

企業理念について

揚羽 黒田:
私は個性の根源というのは企業理念が大事だと思っていますが、田久保さん、その点はどうでしょうか?
グロービス経営大学院 田久保氏:
その通りだと思います。私は、企業の理念の原点は創業者の志だと思っています。創業者が「こういうことをしたい」という個人の感情が志として存在して、志を少しパブリックにして、他の人にも受け止めやすいものにしたのが理念やパーパスということです。MVVなどを作り、そこに共感した人が集まってくる。やはり原点は、志と理念だと思います。
加えて言うと、私は唯一、競合が真似しようと思わないものは「企業理念」で、最大の差別化要因だと思っています。そういう意味で、企業理念やミッション、ビジョン、バリュー、パーパスはとても大事ですが、企業によっては額縁理念になってしまったり、M&Aなどを通じて、大事なことが抜けてしまっているということもよく聞きます。常に、理念に立ち返るようなインナーブランディングや仕組み、仕掛けは大事ですよね。
揚羽 黒田:
そうですね。全員が納得・共感する理念を作るのはすごく大変であると感じています。特にブイキューブさんは創業社長から現在の社長に変わり、創業社長の志とさらに次へ、というお考えがあると思います。2018年にミッションとバリューを策定されたとのことですが、どういう内容だったのでしょうか?
ブイキューブ 今村氏:
その時期に入社する人が変わってきたというのがあります。創業者の想いや理念自体の考え方についてはある程度理解できている方も多いですが、創業者である間下の次の世代のためにも言語化しておく必要性を感じていました。創業20周年という節目もあり、ミッションとバリュー策定に取り組みました。

ミッションの「Evenな社会の実現」については、以前に創業者の間下がインタビューで答えた言葉の中にありました。その言葉に共感する人が多いことがわかりミッションとして格上げしました。バリューについては、全員にアンケートをとり、そこでディスカッションやワークショップをしながら凝縮していきました。その中には共通して現れる言葉があり、それは既に仕事の中でみんなが感じている自社の良さや向かうべき方向性を指し示していたため、出てきた言葉を皆が体現しやすいように策定しました。
揚羽 黒田:
やはり、企業の個性に昇華していますよね。それが創業者だけの思いではなく、会社のさらなる成長に関する概念になっているところから「ピープル・サクセス」という言葉にもたどり着いているのですね、素晴らしいですね。
弊社でも言葉の策定支援をする際、プロセスの中で出来上がる言葉をどう紡いでいくか、そのプロセス自体にどのように従業員を巻き込んで策定していくのかを弊社は大切にしています。コピーライターではなく、そこで働く人たちから出た言葉にいかに魂をこめるかというのが難しいところであり、本気でやらなければならない部分だと思います。
グロービス経営大学院 田久保氏:
理念というのは文字面を覚えるためにあるものなのか、浸透しているというのはどういう状態なのかという問いを大学院でもよくするのですが、私個人は、理念というのは使い倒すものだと思っています。使い倒すというのは、その理念に従って日々の行動判断が行われているかという意味で、言葉一文字一文字をちゃんと言えるかという問題ではないと思います。
社員が理念と違う行動をとっていれば、理念は浸透しておらずインナーブランディングも失敗ということになりますし、言葉はうる覚えだけど、皆が最後には「そこに戻る」ということであれば成功だと思います。そしてその原点は何かというと、トップがそういう行動を見せていることに尽きると思います。社長自らが理念と関係のない行動をしていたらやはりそんなものか、となりますからね。

「人的資本経営レポート2023」について

揚羽 黒田:
ブイキューブさんが開示されている内容で、「人的資本経営レポート2023」というのがあり、企業理念などをまとめられていると思いますが、どのようにまとめられたのか教えていただけますか?
ブイキューブ 今村氏:
「ピープル・サクセス サイト」を作る時点では、人的資本開示を意識していたので、ブイキューブらしさと、これまでの取り組み、途中の段階、他の開示情報を盛り込みました。ただやはり「ブイキューブだったらどう考えるか」を一番に考えて取り組みましたね。
株式会社ブイキューブ:人的資本経営レポート2023

株式会社ブイキューブ:人的資本経営レポート2023
揚羽 黒田:
これは他の企業でもとても参考になるのではないかなと思います。私もこれまで多くの人的資本に関するレポートを見てきましたが、まずは理念があり、それに紐づいた人材戦略があり、その戦略に基づいた重要KPI、そのための取り組みといった流れの内容が多いのですが、まさにその流れでまとまっていると思いました。田久保さんは、人的資本の開示やレポートについて何かご意見ございますか?
グロービス経営大学院 田久保氏:
そうですね。女性管理職比率の必須の数字と、理念や戦略に基づいて独自に出すものがありますよね。それがどれほど財務的価値の向上に繋がるのかを説明してほしいというのがマーケットの要望だと思うのですが、私個人は、すぐに財務価値の向上につながるものを求めすぎなくてもいいと思います。

人に関する情報というのは従業員にとっては重要な情報で、採用においても多くのことを、価値ある意味づけをしつつ公表している企業と、必要最低限のデータだけを公表している企業だと、どちらに興味を持つかは明らかだと思います。目先の指標より、独自の指標も含めながら人に関する情報を公表している企業の方が、中長期的に考えても、優秀な人材が集まって来るのではないかと感じています。

多様性について

揚羽 黒田:
これまでの日本の企業は新卒大量採用で、企業理念に皆を同じ色に染めるというのが基本的には多かったのですが、時代が変わり、会社が持つ企業理念を従業員一人ひとりがどうやって価値に反映していくのかについては以前と変わってきたと思います。「多様性」について田久保さんにお伺いしたいと思います。
グロービス経営大学院 田久保氏:
ダイバーシティ、D&Iという言葉を語らない会社はないくらいですが、時間の流れを考えると、会社存続の一番の原点は、初めは「こういうことをしたい」という個人の想いから始まり、次にその人の考えに共感した人が集まってきます。そうなると一時的にクローン集団のようになり、皆を同じ色に染めて、似たような事しか考えないといった課題がでてきます。そこで出てきたのが「多様性」を担保しようという話です。

どのように担保するのかというと、下図に書かれた四角の箱が理念、ビジョン、ミッション、バリューといった私たちが大切にしたい枠と捉えることができます。そしてこの箱からはみ出た多様性を持っている人というのは必要か不必要かでいうと、おそらく不必要だと思います。大事なことはこういった理念やビジョンに基づくこの箱の中でいかに個人を多様化させるかだと思います。まずはこの図の左下にあるように「賢い集団」になりうる人を集め、インナーブランディングによって皆が同じ方向を向きつつ、向き方などを多様化していく必要があると思っています。

多様性には本当に意味があるのか?
揚羽 黒田:
この図を見て、今村さんのお考えはどうでしょう?
ブイキューブ 今村氏:
多様性と言っても、何の多様性かを考えていかなければいけないですよね。例えば、人的資本開示の話で、女性管理職の比率のような統計学的なところについて会社の姿勢として出している場合もあると思いますが、そこではないと感じています。事業を続けていくには、先ほどの四角の箱の理念の中で選ばれた人たちが、自分たちが抱える問題に対してそれぞれのスキルやバックボーンといった多様性を持った人たちでカバーしていこうという話なので、そこはブラしたくないと思いますね。
揚羽 黒田:
表層的ダイバーシティと深層的ダイバーシティという言葉もあって、表層的とは年齢や性別、深層的とは価値観です。企業理念への思いは同じだけど、価値観が違うもの同士がお互いに意見をし合って賢い集団になれるのがベストだと私も思っているのですが、ダイバースするというのは難しいことだとも感じています。お互いの意見がぶつかることをどう価値に変えていくかですよね。
ブイキューブ 今村氏:
そこはやはり難しいところですね。違った価値観をうまく受け入れられないといった課題はあります。ただ、それぞれ個人のスキルや自分のバイアスに気づき、対話の術みたいなものを学ぶ意識をしたり、実際に研修で皆に体験してもらい改善していくしかないという気はしています。
揚羽 黒田:
「ブイの日」の取り組みも理解しあうためのイベントですよね。
ブイキューブ 今村氏:
はい、オンライン上で誰でもイベントを作っていい日を決めて、“誰でも発信できる場”として実施しています。
グロービス経営大学院 田久保氏:
多様性については多分悩んでない人はいないと思うのですが、やはり上図の四角い箱が大事だということだと思います。これが明確であれば何を目指すかが明確になり、その中で個人の力を最大限発揮できる。良い状態の集団というのはやはり、インナーブランディングが成功してるということに他ならないですね。
揚羽 黒田:
成功している企業というのは、この四角の箱である企業理念がしっかりあって、箱の中では違う価値観の人同士で意見がぶつかったりしていても、頑張っていけている、インナーブランディングが成功しているということですね。たしかに世の中に大きな価値やインパクトを与える企業は、企業理念があり、企業自体が個性を発揮できる場所になっていたり、そうなることを目指してやっていると思います。
グロービス経営大学院 田久保氏:
リーダーシップで有名なアメリカの大学教授が、「リーダーの唯一の仕事は企業文化を作ることである」とおっしゃっていて、いい企業文化とはインナーブランディングの極地のような話だと思います。企業文化を作ることは、リーダー・経営者以外に委ねられないですよね。

企業理念、企業文化の中で多様性を活かすためにも、インナーブランディングは大事だということになりますね。

まとめ

今回のセミナーのまとめです。

  • 人的資本経営が注目される今の時代、アウターだけではなく、インナーを交えた「インナー・アウター両輪」「言行一致型」の企業ブランディングが必要。
  • 多様な個性を価値創造にどう繋げるかが、持続的な企業価値向上の鍵。

 

質疑応答

Q.ブイキューブさんのWebサイトの記事は社員様が書かれているということでしたが、社員からの協力を得るためにされていることなどありますでしょうか?

ブイキューブ 今村氏:
記事で出したい内容をリストアップして、誰にでも書いてもらっているのではなく、いくつか動いている社内プロジェクトごとで書いてもらうように割り振っています。プロジェクトに依頼した際に嫌がることなく対応してもらえているのは良い事だと思っています。
Q.本社から離れれば離れるほどミッションやビジョンが浸透しない。現場からは本社を敵対視するような風潮が出る時もある。こうした状況に対して打てる手は何かありますでしょうか。
グロービス経営大学院 田久保氏:
大事なのは物理的に同じ空気を吸う回数を増やすことだと思います。いくら正しいことを本社から伝えても「所詮見ていないでしょ」という反応になるので、少なくとも立ち上がりの時期や最初の頃は同じ空気を吸う機会を作ることが大事だと思います。
ブイキューブ 今村氏:
弊社でもコロナ化を経て、オンラインでの1対1の関係性が増えてしまったので、逆に物理的に集まるという機会を増やしています。
揚羽 黒田:
私もダイレクトコミュニケーションを推奨する派です。これまでの弊社の支援実績として効果があったのは、行脚やキャラバンといった直接訪問するケースで、満足度も高いですね。
Q.田久保様が理想と思われる理念の企業はございますか?
グロービス経営大学院 田久保氏:
会社の理念は創業者が心からやりたいこと、実現したいと思っていることなので、これがいい理念でダメな理念というのは一切無いと思っています。その理念に一番共感した人が入社して、コミットメントすればいいと思うので、A社がよくてB社が良くないというのはないはずです。
ただ、印象に残っている理念の例として、ヤマト運輸さんの「ヤマトは我なり」という社是ですね。
2011年の東日本大震災の後にヤマトの社員の方たちに話を聞いたのですが、「ヤマトは我なり」は「私はヤマトの代表者である」ということで、それは「ヤマトの社員として恥ずかしくない行動をとれ」という背中押しがあったそうです。被災地で誰の指示もなくても、倉庫の管理を自発的に行うといった行動に繫がったと聞いて、すごく印象に残っている言葉の一つですね。
ブイキューブ 今村氏:
自分ごと化する究極の言葉ですね。
揚羽 黒田:
ミッション、ビジョン、バリュー、最近ですとパーパスアンドバリューと言われていますが、体系立ててフレームに沿って作るのも大事ですが、それだと「ヤマトは我なり」は出てこないでしょうね。企業の魂がこもった言葉、差別化になるものは大事ですよね。
Q.ブイキューブさんのサイトにある「望ましくない人物像」や女性役員比率の公開の際、何か議論・葛藤されたことなどありましたでしょうか。

ブイキューブ 今村氏:
「望ましくない人物像」については正直、葛藤のようなものは無かったです。女性役員比率などはまだ高く無いのですが、3か年計画として伸ばしていく想定で今取り組んでいる最中です。途中経過の開示も必要という認識があり、個人が輝くために何をしていくかという点が大事だと思っていますので、数値が低いから公表が恥ずかしいということは無かったです。
揚羽 黒田:
長期的な視点でということですよね。現時点のものが足りていないから公表しないのではなく、長期的にこういう風にしていきたいという想いがあれば、恥じずに出していけばいいということですね。
グロービス経営大学院 田久保氏:
今低い数値であっても、伸びしろしかないですよね。「現在は高くないです」と公表し、だんだん上がっていく方がいいですよね。
Q.ブイキューブさんの人的資本経営レポートですが、HP上の公開以外で活用されているシーンがあれば教えていただけますでしょうか?(採用、社内イベント、株主総会など?)

ブイキューブ 今村氏:
最近できたコンテンツではあるのですが、採用時に見られることはあると思います。あとは投資家向けのIR情報として活用し、更新してお伝えしていきます。
Q.インナーブランディング、アウターブランディングを行う部署がそれぞれ別部署なのですが、上手く連携させるコツがありましたらお伺いしたいです。

揚羽 黒田:
解決策として弊社がご支援しているのは部署ごとでタスクフォースチームを作ることです。部署間の連携ができていない企業は多いので、皆さんに集まっていただき、アイスブレイク等で関係性を作るところから始めて、タスクフォースチームを作り、期間を設けて取り組んでいただきます。理念やビジョンの言葉の策定など、方針を作るというのが一番魂が入り、タスクフォースチームで進めていくのは良い方法かなと思います。
Q.理念、ミッション、バリューと段々と細分化していき、やること、志すことが多くなっていき、心苦しい気持ちになっていくと感じますが、バリューを立てる時に大事なことは何でしょうか?

グロービス経営大学院 田久保氏:
理念やミッション、ビジョン、バリュー、パーパスといった言葉がものすごく増えたという事実はあると思いますが、私は上から下へストーリーとして頭の中に入りやすい状態にするのが、理念やミッションを作る時のポイントだと思います。このパーパスがあるからこのミッション。このミッションを達成するためにはこういう行動をしないといけない、というのがストーリーとして下りてくれば、細かいことは抜けてしまうかもしれませんが、全体としては入りやすいと思います。それぞれが独立して動き始めると、矛盾やバランスの悪さが生じ、頭に入らず額縁に入ってしまうことになるのかなという気がします。
揚羽 黒田:
多分、心苦しくなるのは「覚えなきゃいけない」になっているからだと思うのですが、企業が掲げている理念と100%一致した人物になることは望ましくないと思っています。逆にそれだと多様性が欠けたクローン集団になってしまいます。一人ひとりがその理念を受け、自分なりにどういうことが大切なのかを言語化し、体現していくことが大事だと思います。
以上、2024年1月17日開催「人的資本を最大化させる!インナー&アウターブランディングをやり抜く秘訣とは」のセミナーレポートでした。

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今後も皆さまのお悩みを解消できるようなセミナーを随時開催していきますのでご期待ください。
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