コーポレートブランディングとは

近年、コーポレートブランディングという言葉に注目が集まっています。コーポレートブランディングと聞くと、まず企業広告や企業ロゴなどを思い浮かべるかもしれません。

 

コーポレートブランディングは、企業ブランドの全体構築を意味しています。インナー(従業員)、アウター(顧客・取引先・生活者)、採用(学生・求職者)、IR(株主・投資家)と、すべてのステークホルダーに関わってくる問題であり、企業経営に大きな影響を与えます。

 

ここでは、コーポレートブランディングが、どんなメカニズムで企業価値に貢献するのか、その仕組みと重要性を紐解いていきます。取り組むメリットだけでなく、事例とともに成功への鍵をぜひ見つけてください。

事業や企業価値、マーケティング、サービス、顧客との関係

図Aは、1994年にハーバードビジネススクール教授(当時)のジェームズ L.ヘスケットらがハーバード・ビジネス・レビューで提唱した「サービス-プロフィット・チェーン(Service-Profit Chain)」という考え方をもとに、現代に合わせて弊社で独自に作成した図です。コーポレートブランディングに欠かせない要素を体系的かつ、それぞれの因果関係をわかりやすく表しています。

 

図A:コーポレートブランディングの構成要素

コーポレートブランディングの構成要素

 

■経営資源→従業員エンゲージメント→提供価値UP

潤沢な「①経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報)」は、「②従業員のエンゲージメント」を強固なものとし、「③従業員の定着率」と「④従業員の生産性」の向上に大きく寄与し、その結果として、「⑤顧客への提供価値」を高めることにつながります。

 

これは、コーポレートブランディングの中でも、従業員をターゲットとした「インナーブランディング」という考え方です。

 

■提供価値→顧客満足&ロイヤリティUP→売上・利益UP

さらに、「⑤顧客への提供価値」が高まれば、「⑥顧客満足」とともに「⑦顧客ロイヤリティ」も向上し、顧客や取引先をターゲットとした「アウターブランディング」にもつながっていきます。

 

■売上・利益UP→株主の信頼→経営資源UP

そして、その結果「⑧売上」と「⑨利益」の増大をもたらし、最終的に「⑩株主からの信頼」を獲得することができ、企業はさらに「①経営資源」への再投資を行います。

 

コーポレートブランディングは、ステークホルダーにポジディブな影響を与え、経営資源を充実させ、経営基盤を強固にしていくものです。

人材獲得を目指す採用活動においても、ブランドが求められる

ここで、「①経営資源」の源となる「⓪採用力」にも触れておきましょう。コーポレートブランディングを体系的に捉えた場合、「⓪採用力」が企業価値向上のため、重要な位置付けであることがわかります。

 

多くの企業が優秀な人材を求めています。新卒・中途どちらの市場でも、企業の未来を託せるような人材は希少で、業界を越えて争奪戦が繰り広げられています。

 

これまでの採用活動は、求める人材を採用するため、プロモーション活動としてナビ媒体への掲載や説明会の開催、採用サイトの制作などを実施してきました。しかし激化する採用市場で戦う人事担当者からは、採用ブランディングが叫ばれています。

 

つまり、コーポレートブランディングを構成する「⓪採用力」向上においても、プロモーション活動ではなくブランディングの観点から、取り組むことが必要になってきています。次章では、コーポレートブランディングと採用ブランディングの関係を考察します。

コーポレートブランディングと採用ブランディング

採用ブランディングは、インナー・アウターにも波及

図Bのように、インナーブランディングは「従業員」、採用ブランディングは「学生・求職者」、社外へのアウターブランディングは「生活者・株主・取引先」等が、ターゲットとなっています。

 

図B:各ブランディングのターゲット

 

コーポレートブランディングの各ターゲット

多くの企業では、それぞれのターゲットに向けて、自社の企業価値を伝えていくプロモーション活動を行っています。

 

私たちもその活動をプロモーション戦略からクリエイティブ制作までお手伝いする中で、気づいたことがあります。「学生・求職者」は、採用ブランディングだけのターゲットではなく、インナーブランディングやアウターブランディングのターゲットでもあるということです。

 

採用活動において、自社の採用選考を通過した「学生・求職者」の一部は、「(未来の)従業員」になります。

 

残念ながらご縁がなかった「学生・求職者」は、他社の従業員となり、いずれは「(未来の)取引先」になる可能性が十分あります。そして、どちらも「生活者」であることは明白です。

 

つまり、図Cのように人事部が主導している採用ブランディングのターゲットは、「時間軸」を加えると、インナーブランディング、アウターブランディングのターゲットでもあると言えるのです。

 

図C:時間軸を加えたターゲット

コーポレートブランディングの時間軸を加えた各ターゲット

そのため、企業のインナーブランディング、アウターブランディングの担当者は、それぞれの部署が担っているミッションだけでなく、企業全体のコーポレートブランディングという観点で、採用ブランディングについても注目している企業が増えています。

 

同様に採用ブランディングの担当者は、コーポレートブランディングを意識した上で、採用プロモーション活動を行う必要があるとも言えるのです。

採用ブランディングが持つ意味(1)インナーブランディングへの効果

採用ブランディングにおいて、インナーブランディングを意識した施策を考える上での切り口は、大きく分けて二つあります。

 

1つ目は、「(未来の)従業員」として、入社前にしっかりと自社のコーポレートアイデンティティを理解させるコミュニケーションを行うことです。

 

採用担当者は、学生・求職者の学歴やキャリア、備える能力だけでなく、企業理念との共感性が高いかどうかをコミュニケーションによって見定めます。そうしたコミュニケーションは、入社後の「従業員の定着率」や「従業員の生産性」にもつながっていきます。

 

2つ目は採用活動を通した、現従業員へのインナーブランディングです。特に新卒の採用活動においては、企業が学生を集め「会社説明会」を行いますが、その説明会において学生からの人気が高いコンテンツは「座談会」です。

 

採用担当者から依頼を受けた従業員は、座談会に参加した学生とコミュニケーションをとりながら「仕事内容」だけでなく「仕事のやりがい」、「会社の魅力」を整理して、自分の言葉で伝えます。他にも採用パンフレットや採用サイトに掲載されることもあるでしょう。

 

採用活動における従業員の協力は、「もう一度会社を見つめ直し、好きになってもらう」きっかけでもあるのです。

採用ブランディングが持つ意味(2)アウターブランディングへの効果

自社の選考を受けていて最終的に他社に入社をした場合、同じ業界や自社ビジネスに関連する企業など、「(未来の)取引先」となる可能性は小さくありません。BtoBの企業の場合は、メディアの露出が少ないため、就職活動を通じて感じた企業へのイメージが、良くも悪くも「会社のブランド」として、定着し続けることになります。

 

また、アウターブランディングについては別の観点もあります。新卒採用では、毎年40万人を超える学生が就職活動に汗を流します。活発になる時期には、40万人以上の“社会人予備軍”が、さまざまな情報にアンテナを張って、街中を動き回っているのです。

 

彼らをターゲットに、あらゆるアウターブランディングを行うことも、企業にとって将来の大きなメリットになるのではないでしょうか。

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コーポレートブランディングを成功に導くために

コーポレートブランディングを機能させよう

企業にとって強いブランド⼒があれば、顧客がマーケットで製品やサービスを購入する時だけでなく、人事部門における従業員採⽤やI R部門における資⾦調達の場面でも、強い優位性が期待できます。またIPOを目指す企業にとっては、企業価値の向上も期待できます。(図D)

 

図D:コーポレートアイデンティとブランディング

コーポレートアイデンティティとブランディング

 

そうした理由により、コーポレートブランディングの強化を目的として、多くの日本企業でさまざまな施策が行われています。にもかかわらず、その効果を実感している会社は少ないようです。

 

サービスや商品のコモディティ化が進み、企業として差別化しづらい時代、数ある競合の中で埋もれることなく、マーケティング、人事採用、I Rなど部門を越えて機能するコーポレートブランディングを推進するためには、どうすべきでしょうか。

なぜ会社はコーポレートブランディングに失敗するのか

コーポレートブランディングの確立に成功する企業がある一方で、残念ながらうまくいかない企業があります。売上は順調に伸びているのに、新卒採用では人気がない。商品名は有名なのに社名の認知度が低い。こうした部分的に成果を発揮するも、部門を越え全社的にブランディングが機能しない理由は、どこにあるのでしょうか。

 

■各部門によって向き合う対象者が異なっている

企業価値を⾼めるという⽬的は同じにもかかわらず、担当する各部門で求める成果やコミュニケーションをとるべきターゲットが異なるため、効果的に相互の意思疎通が図れていない企業が多いようです。

 

例えば、IRであれば株主・投資家、マーケティング・広報・PRであれば取引先・⽣活者、社内広報であれば従業員、⼈事であれば学生・求職者。それぞれが課題解決に向け戦略を練ってしまい、コーポレートブランディングの⾜並みが揃いません。その結果、コーポレートブランディングの方向性が定まらずメリットや効果を十分享受できないといった現象が起こっています。

 

■経営部門がすぐに成果を求めてしまう

コーポレートブランディングはメリットやスペックが明確な商品やサービスと違い、理念や志、価値観といった目に見えないものでもあるため、確立に時間がかかります。費⽤対効果も計測しづらく、経営部門はすぐに成果を求めてしまいがちです。

 

コーポレートブランディングを浸透させるには、一度の接触ではなく、何度も体験が必要です。インナーもアウターも経験を重ねていくことで、理念や志、価値観がリマインドされ定着していきます。

 

⻑期的な取り組みとして3年から5年程度を要すべきであり、中期経営計画策定や周年のタイミングで、⾃社の課題解決策のひとつとして、経営部門を巻き込み検討すべきと考えます。

 

■コーポレートブランディングの根幹が定まっていない

いわゆるミッション・ビジョン・バリューが固まっていない場合もあります。打ち出すメッセージがコロコロと変わっているように見え、企業活動に一貫性がないように感じられます。

 

またミッション・ビジョン・バリューの内容が適切ではなく、従業員をはじめステークホルダーに“しっくり”きていない時も、ブランドがボケやけてしまい浸透しづらくなります。そのような時には、新たな策定や再定義を行うべきです。「企業が存在する社会的目的」や「そこへ向かう姿勢」を明確に示します。

 

IR、マーケティング、広報・PRの根幹をなす統一した企業理念や志を根付かせられれば、それぞれの活動にも一本筋が通ってきます。同じ価値観から出発したコミュニケーションには、一貫性のあるメッセージが生まれ、相乗効果も期待できます。

 

“しっくり”くるコーポレートアイデンティは、外部からの評価だけでなく、従業員の自社に対する誇りや仕事の充実感を与えるという効果も見込まれます。

コーポレートブランディングの成功事例

ここで、コーポレートブランディングの成功事例を見てみましょう。

 

某総合商社では、BtoB企業にもかかわらず、コーポレートブランディングの⼀環として、テレビCMを大々的に放映しています。それ自体は変わったことではありませんが、実はその放映時期に注⽬すると、新卒採⽤の就職活動期間と合致。その内容も「働く魅⼒」を謳っており、⼊社意欲を湧き⽴たせるものになっています。

 

急成⻑中の某ITサービス企業においては、コーポレートブランド強化を担うブランド戦略室が「採⽤⼒強化」を重要なKPIに設定し、採⽤活動を通したコーポレートブランディングに⼒を入れています。

 

BtoB企業においては、会社の知名度が、学⽣・求職者からの志望度に直結する場合が多く、このようなアウターブランディングの施策が、採⽤ブランディングにとっても大きな追い⾵となるのは間違いありません。

 

某健康器機メーカーでは、企業ブランドが確⽴する前は、どちらかというと地味で堅実なメージの企業でした。そこで「人々の健康づくりに貢献する」という社会的意義を⼤きく掲げ、この活動の⼀貫として⾷堂やレシピ本などのメディアやツールを展開。ターゲットに“健康”という自社の社会的意義を実感させることで、コーポレートブランディングの打ち出しに⼤成功しました。

 

某外資系家庭用品メーカーでは、環境保護をはじめ、貧困層の生活改善、再生可能エネルギーの利用割合の増加、持続可能な農産物の調達といった活動を行っています。その社会的意義を通した企業ブランディングは、従業員に誇りを与え、モチベーションを向上。さらにポジティブな情報を積極的に外部へ発信し、顧客層やステークホルダーの取り込みも期待されます。

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コーポレートブランディングを成功させる3つのポイント

コーポレートブランディング成功のためのポイントは、これまでの内容をまとめると以下の3つが挙げられます。

 

  1. ⼈事、広報、マーケティングなど各部⾨が⾜並みをそろえ、相乗効果を狙う。
  2. すぐに結果を求めず、中期経営計画などと連動させ3年から5年をかけて定着を試みる。
  3. コーポレートブランディングの根幹を固める。

 

3つ全てを完璧におさえる必要はありませんが、考慮する価値は⼗分にあるはずです。弊社では、この3つのポイントをおさえるだけでなく、プランニング、リサーチ、コンタクトポイント、クリエイティブ制作まで、⼀気通貫で高いクオリティのサービスを提供していますのでご気軽にご相談ください。

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