「採用ブランディング」とは、企業の経営ビジョンや価値観に共感する人材を採用し、定着させるための戦略的な取り組みのことです。自社ならではの価値や魅力を発信し、求職者から共感を得てファンになってもらうためのコミュニケーション活動ともいえます。
本記事では、採用ブランディングの基本的な定義から、具体的な進め方、成功事例、そして効果測定(KPI)の方法まで、企業の採用担当社が知っておくべき知識を網羅的に解説します。
採用ブランディングとは?(定義と背景)
揚羽では、採用ブランディングを「経営ビジョンとそれを実現し得る人物を“共感”でつなぐ活動」と定義しています。企業の成長・発展には、経営ビジョンの実現が不可欠であり、それを成し遂げられる人材の獲得こそが、最終的に企業の成長・発展につながります。
単に「応募者を増やす」ことだけが目的ではありません。企業のミッション・ビジョン・バリューに深く共感し、入社後に活躍してくれる人材(=ファン)を獲得するための戦略的な活動です。
採用マーケティング・採用広報との違い
これらは混合されがちな言葉ですが、目的と役割が明確に異なります。
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採用マーケティング(手法): 3C分析やファネル設計などのマーケティングフレームワークを用い、数値に基づいて効率的に人材を獲得する「手法」のこと。
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採用広報(手段): オウンドメディアやSNSなどを通じて、企業の情報を広く社会へ発信し、認知を獲得するための「手段」のこと。
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採用ブランディング(戦略): 「自社らしさ(ブランド)」を確立し、求職者に選ばれる必然性を作る「戦略」のこと。マーケティングや広報は、この戦略を実行するためのプロセスです。
なぜ今、採用ブランディングが必要なのか?
労働人口の減少による「超売り手市場」に加え、Z世代の就職観の変化が決定的な要因です。
給与や福利厚生などの「条件」だけでなく、「この会社で働く社会的意義(パーパス)は何か」「自分の価値観と合致するか」を重視する若手層が急増しています。数ある企業の中から選ばれるためには、他社にはない独自の価値(ブランド)を明確に打ち出す必要があります。
関連記事:Z世代の本音に迫る!なぜあの学生は内定辞退するのか!?
採用ブランディングの3つのメリット
ミスマッチの防止と定着率向上
自社の「リアルな姿」や「大切にしている価値観」をありのままに伝えることで、入社後のギャップを防ぎます。「入社してみたらイメージと違った」という早期離職を減らし、長く活躍してくれる人材の定着率を高める効果があります。
採用コストの削減(CPA改善)
ブランド力が向上すれば、求職者からの「指名検索」や「自然流入」の増加に寄与します。結果として、人材紹介エージェントや有料広告への依存度を下げることができ、一人あたりの採用単価(CPA)の抑制につながります。
既存社員のエンゲージメント向上
実は採用ブランディングは、インナーブランディングにも絶大な効果を発揮します。
対外的に「自社の魅力」を発信することは、既存社員が自社の良さを再認識するきっかけになります。「自分たちの会社はこんなに魅力的だ」という誇りが醸成され、組織全体のエンゲージメント向上にもつながります。
関連記事:従業員エンゲージメントを高めるには?具体的な6つの向上施策
採用ブランディングの進め方
効果的な採用ブランディングは、緻密な戦略設計から始まります。基本的の4ステップは以下の通りです。
- STEP1:調査・分析
- STEP2:採用ブランドコンセプトの導出
- STEP3:コミュニケーション計画立案
- STEP4:クリエイティブ施策
STEP1:調査・分析(現状把握)
まずは現状把握です。自社の採用ブランドの価値を形成するための調査・分析を実施します。
人事担当者の主観だけでなく、定量的なデータに基づいて「自社の強みと弱み」「競合との差別化ポイント」を洗い出します。イメージ調査や取材調査、また「3C分析」や「5つの軸」から切り口から自社の魅力を整理します。


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STEP2:採用ブランドコンセプトの導出
調査・分析から見えた結果を基に、「誰に(ターゲット)」「何を(メッセージ)」伝えるのかを定義します。そして「自社ならでは」の価値を採用ブランドコンセプト(キャッチコピーやスローガン)として策定します。
採用ブランドコンセプトは、採用ブランディングを行う上での指針となるものです。コンセプトが導出できれば、採用担当者や採用に携わる社員が自社の魅力や求職者に伝えるべきメッセージについて共通認識を持てるようになり、採用活動を通して一貫したメッセージを発信できるようになります。
STEP3:コミュニケーション計画立案
求職者が認知から応募、内定に至るまでの行動・心理変容を描きます。そして、求職者に対し、「どのタイミングで」「どのチャネル(Web/SNS/イベント)を使って」「どんな情報を届けるか」という全体設計図を作ります。
コミュニケーション計画がないまま具体的な施策を実施してしまうと、魅力が思うように伝わらなくなってしまう恐れがあります。自社の魅力を十分に理解してもらい、共感を得るには、求職者に対して必要なタイミングで適切な情報を発信することが重要です。

STEP4:クリエイティブ施策
コミュニケーション計画に基づき、必要なクリエイティブ施策を実行します。必要になるクリエイティブは、コミュニケーション計画によってさまざまです。代表的なクリエイティブとして、下記が挙げられます。
| クリエイティブ |
特徴 |
| 採用サイト | ・求職者が求める情報発信に特化
・応募フォームも設置することで、情報収集から応募までのプロセスを集約できる |
| 採用動画 | ・企業説明会や合同説明会で活用
・短時間で多くの情報発信が可能 ・自社の雰囲気やリアルなイメージを伝達できる ・採用サイトに組み込むことも可能 |
| 採用パンフレット | ・必要情報を冊子にまとめており、効率的な情報収集が可能
・企業説明会や合同説明会など、オフラインでの採用活動にて活用 ・形に残るためリマインド効果あり |
参考記事:採用サイト事例10選!課題解決につながる活用方法をご紹介
参考記事:採用動画の成功事例8選!“リアルな情報”で学生の気持ちをガッチリつかむ
参考記事:採用パンフレット事例10選!目的別に活用方法を紹介
採用ブランディングの成功事例
採用ブランディングの進め方は、企業が持つ課題や採用目標によってさまざまです。ここでは当社の支援実績から、多様な人材を確保するため、自社の独自の強みを言語化し、正しく伝えることに成功した事例を紹介します。
ミスマッチ解消・内定承諾率向上に成功した事例:AGC株式会社様
● 背景
ガラスや電子、セラミックなどさまざまな分野の「素材の会社」として知られるAGC株式会社。製品シェアの高さから知名度はありましたが、内定承諾フェーズにおいて、技術系職は大手同業他社と、事務系職は他業界を含む大手グローバル企業とバッティングする傾向にありました 。
新たな価値創造に挑戦し続けるためにも多様な人材を確保すべく、「AGCだから入社する」という最後の決め手となるような、訴求力を高めるための採用ブランディングを支援。2022年より「AGC採用施策リニューアルプロジェクト」がスタートしました。
● 調査・分析~戦略策定
まずは、当社の採用ブランディング効果測定サービス「ビズミルサーベイ」を活用し、「学生の志向性及び企業イメージの大規模調査」(定量調査)を実施。同社が実施した「内定者および辞退者アンケート」(定性調査)をあわせ、競合他社と比較した採用ブランドの強み・弱みを可視化しました。
調査・分析の結果、選考の後期になると学生は同社に対して「意欲高く働く社員が多い」「挑戦を後押しする組織風土」など、社員活躍や社風に関する印象をもつ割合が高くなっていることがわかりました。その点をふまえ、他社との差別化要素として「大きな裁量権」を抽出しています。
そして、同社の強み、他社との差別化要素をふまえて採用コンセプトコピーを策定。100年以上の長い歴史の中で挑戦を重んじ、社会の発展と暮らしに寄り添い続けてきた同社だからこそいえる、「Your Dreams, Our Challenge その挑戦は、未来を加速させる」に決定しました。
「Your Dreams, Our Challenge」は、同社のブランドステートメントです。これを採用視点で再解釈し、「やりたいことに挑戦できる環境」=「自己成長・企業成長への期待」を求職者に向けたブランドの軸として、採用ブランディングの戦略を策定していきました。
● クリエイティブ施策
コンセプトを体現するため、新卒採用サイト、キャリア・第二新卒採用サイト、新卒採用パンフレット、2種の採用映像を制作しています。
【新卒採用サイト/キャリア・第二新卒採用サイト】
採用サイトは、挑戦によって未来を切り拓く勢いや前進するイメージを表現しました。挑戦の歴史や戦略事業の全容、時代の先端をいくチャレンジングなプロジェクトのストーリーをキーコンテンツとし、裁量権を持って挑戦できる風土が伝えられる内容です。
【新卒採用パンフレット】
「いまAGCが最も挑戦していること」をテーマとした特集を掲載。パンフレットの表紙には、同社のガラスや素材の世界観を表現するため、クリアフィルムを使用しています。コンテンツだけでなく、視覚・触覚からも同社をイメージできるようこだわりました。
【採用映像】
・同期座談会映像
職種の異なる5人の同期社員の座談会映像を制作。それぞれが違う道でどのような挑戦をしてきたのか、実体験に基づき挑戦できる環境であることを証言する内容としています。異なる職種のメンバーを集めたことで、幅広い求職者を対象に映像が活用できます。
・仕事密着映像
職種の異なる2人の社員、それぞれの1日に密着した映像です。日々、業務の中でどのような挑戦をしているのか、インタビューコメントよりそれぞれの想いを伝える内容となっています。1日のスケジュールに密着することで、日常的に挑戦できる環境である点を訴求しています。
事例紹介:AGC株式会社の採用ブランディング支援実績はこちら
採用ブランディングの効果測定(KPI設定)
ブランディングは「やって終わり」ではなく、効果を測定しPDCAを回すことが重要です。効果が出るまでには時間がかかるため、短期と中長期の視点を持って指標を設定しましょう。
定量的指標(数値で測れるもの)
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母集団形成: エントリー数、説明会参加数、採用サイトのPV数
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選考効率: 書類通過率、一次面接通過率、内定承諾率、内定辞退率
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コスト: 採用単価(CPA)、求人媒体費の削減額
定性的指標(質で測るもの)
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候補者の質: 面接での志望動機に「理念への共感」が含まれているか、ターゲット層からの応募が増えているか
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社内の変化: 既存社員が自社を推奨したいと思うか(eNPS)、リファラル採用への協力度
採用ブランディングにおける3つの注意点
採用ブランディングを成功させるためにも、あらかじめ注意点を押さえておきましょう。
人事部以外の協力が必要
採用ブランディングは全社的に取り組むべき施策です。なぜなら、実際に働く社員と求職者に発信される情報に乖離があると、入社後にギャップが生じてしまう可能性があるからです。入社後のギャップは、内定辞退や入社後の早期離職につながる恐れがあります。
求職者に発信する情報やメッセージに一貫性を持たせるためにも、社内でブランド価値の認識を統一することが必要です。そのためにも、採用ブランディングは人事部だけで進めず、新卒・第二新卒・キャリア採用に関わる部署をはじめ社内全体で協力して進めていきましょう。
効果が出るまで時間がかかる
採用ブランディングは、実施してすぐに効果が出る施策ではありません。なぜなら、採用ブランドを確立してから浸透し、応募増加につながるまでのプロセスには時間がかかるからです。一般的には、効果が出るまで数か月から数年かかることもあります。
効果が出るまではPDCAサイクルを回し続け、継続的に情報発信していく必要があります。長期的な取り組みになることを踏まえ、すぐに成果が出ないからと焦ることなく、じっくりと就職・転職市場に自社のブランド価値を浸透させていくことが大切です。
自社を良く見せすぎない(誇大表現を避ける)
自社の良い面ばかりを訴求しないよう注意しましょう。自社を良く見せるために誇張したり、美化させすぎると、入社後のミスマッチが生じる原因にもなってしまいます。
良い面だけの情報発信によって、目標の応募や採用人数を達成できたとしても、本当の意味でマッチした人材が確保できたとはいえません。採用ブランディングにおいて重要なのは、入社後に経営ビジョンを実現し得る人材を確保することです。自社に対して真の共感を獲得できるよう、企業がもともと持っている魅力や価値を正しく伝えることが大切です。
まとめ
採用ブランディングは「調査・分析」から始まり、「コンセプト策定」「コミュニケーション設計」「クリエイティブ施策」へと続く一連の戦略です。
なかでも、採用ブランディングの核となる採用ブランドコンセプトの導出は、重要なステップです。自社ならではの魅力を確立し、必要なタイミングで適切に発信できてこそ、採用ブランディングの効果が高まります。そのためには、緻密な調査・分析や戦略策定、クオリティの高いクリエイティブ制作も重要です。
揚羽では、採用活動から内定後のフォローまで採用全体のブランディング支援を行っています。採用ブランドコンセプトの導出から戦略の策定、クリエイティブ施策まで一貫した支援が可能です。採用ブランディングに取り組みたいが、何から始めたら良いかわからないという方は、お気軽にご相談ください。









