インナーブランディングの施策にはさまざまな種類がありますが、目的に応じて適切な施策を講じることがインナーブランディング成功のポイントです。そのためにも、施策の種類や具体例、その効果を理解する必要があります。

今回はインナーブランディングの施策の種類や具体例、成功させるポイントを詳しく解説します。

インナーブランディングの2種類の施策

「ファンクショナル」と「エモーショナル」

インナーブランディングで行われる施策は、「ファンクショナル」と「エモーショナル」の大きく2つに分類できます。

当社の場合、「言葉づくり」をインナーブランディングの第一ステップにしています。インナーブランディングは理念や思想、考え方などの概念的なものを社内に浸透させていく手段であり、その手段に「ファンクショナルな施策」と「エモーショナルな施策」があります。

それぞれの施策の特性を考慮し、目的に合わせてこの2つを組み合わせることで、インナーブランディングが高い効果を発揮することに期待できます。

ファンクショナルな施策

ファンクショナル(functional)は「実用的、機能的」という意味があり、「ファンクショナルな施策」とは、仕組み化された施策を指します。研修や制度、イベントが主な施策例です。ファンクショナルな施策には、以下のような長所と短所があります。

長所 短所
・行動変容が促せる
・強制力が強い
・一体感が醸成できる
・聞き流されてしまうことがある
・心に直接響きにくい場合がある
・一過性になる場合がある

エモーショナルな施策

エモーショナル(emotional)は、「感情的」という意味があり、「エモーショナルな施策」とは、心に訴えかける施策を指します。講話・講演や印刷物、映像やWeb、広告など施策の具体例はさまざまです。

場所・機会やコンテンツを通じて、従業員の感情に直接訴えかける点が特徴であり、エモーショナルな施策には以下のような長所と短所があります。

長所 短所
・多くの従業員に伝えられる
・想いを伝達しやすい
・深い理解を促せる
・心と記憶に訴えかけられる
・最新情報が発信できる
・拡散力や強制力がある
・聞き流されてしまうことがある
・即行動につながりにくい
・一過性になる場合がある
・伝達内容と現実とのギャップが生じる恐れがある

 

【お役立ち資料】インナーブランディングのための3つのステップ

ファンクショナルな施策の具体例

ファンクショナルな施策の具体例

ファンクショナルな施策は、インナーブランディングとして伝えたい言葉を仕組み化して浸透させる手段であるため、強制力がある点が特徴です。行動変容の促進、一体感醸成やモチベーションアップを目指したい場合に適しています。エモーショナルな施策に比べると即効性が期待でき、文化の変革にも有効です。

ここでは、ファンクショナルな施策の具体例をご紹介します。

研修

研修は、行動変容を促す効果に期待できる施策です。研修の具体例には、新入社員研修や一般職/管理職研修、幹部研修などが挙げられます。

研修を通じて企業理念やビジョンを再共有することで、自社の理解を深めることが可能です。とくに新入社員や中途社員など、組織の新たな仲間となる人に対して企業理念やビジョンを共有する機会は欠かせません。自社が目指す姿を実現させるために、どのような基準や価値観を持って業務を遂行すべきかを直接伝えられる機会にもなります。

 

【研修の事例:株式会社ミリアルリゾートホテルズ】

ディズニーホテルを運営する株式会社ミリアルリゾートホテルズでは、「社会人としての知識・スキル」「コミュニケーションスキル」「ディズニーフィロソフィー」の3つの研修カテゴリーを用意しています。

ディズニーフィロソフィーを学ぶプログラム「ディズニー・ユニバーシティ・プログラム」は、ウォルト・ディズニーの掲げたビジョンなどディズニーの哲学を通じて、ディズニーの「キャストらしさ」を学ぶ研修です。サービスの質向上はもちろんのこと、「ディズニー」という唯一無二の価値を創り上げるベースが構築されています。

制度

制度は、日々の行動の基準が作れる強制力の高い施策です。制度の具体例には、評価制度やインセンティブ、表彰制度などが挙げられます。

たとえば、評価制度は従業員の能力や会社への貢献度を評価するものであり、定められた評価基準を満たしているほど良い評価になる仕組みです。評価制度は、組織が従業員に対して「どうあってほしいか」を伝える手段であり、「評価基準=理想とする従業員のあり方」といえます。

つまり、企業理念やビジョンを評価制度と連動させることで、組織が目指したい姿になるために必要な行動を従業員に促すことが可能です。従業員の働きぶりやパフォーマンスを上げ、積極的に行動した結果が、組織全体の実現したい未来につながります。

 

【制度の事例:サントリーホールディングス株式会社】

サントリーの企業理念のひとつに「やってみなはれ」があります。これは「新しい価値創造」を理念とするサントリーを表す言葉であり、創業者・鳥井信治郎の口癖でもあった言葉です。

2015年、サントリーグループ全従業員を対象に「やってみなはれ」を実践したチームを表彰する「有言実行やってみなはれ大賞」を創設しました。この表彰制度によって「やってみなはれ」に取り組む動機づけにもなり、結果的に企業理念の体現につながっています。

イベント

イベントは、一体感醸成やモチベーションアップに有効な施策です。イベントの具体例には、周年イベントやキックオフ、全社総会や表彰式などが挙げられます。

イベントが企業理念やビジョン、価値観の再共有の場となることで社風や文化を浸透させられるだけでなく、コミュニケーション活性化にも有効です。イベントを通して同じ時間を共有することは一体感の醸成にも効果的であり、帰属意識の向上にも期待できます。

周年イベントや総会といった大きなイベントだけでなく、BBQや納会など気軽に参加できるイベントの実施もおすすめです。

 

【イベントの事例:LIXIL労働組合】

LIXIL労働組合は、10周年という節目で改めて労働組合の活動理念を浸透させるとともに、これまでの感謝を伝える機会として周年イベントを実施。インナーブランディングだけでなく、対外的な広報も目的としています。組合結成当初の想いやこれまでの活動を振り返ることで、今後のさらなる活躍へのモチベーションを高めるだけでなく、イベントのキーワードである「WA」をコンセプトにイベントを作り込むことで労働組合の一体感が醸成されました。

LIXIL労働組合の周年記念のイベントの詳細はこちら

エモーショナルな施策の具体例

エモーショナルな施策の具体例

エモーショナルな施策は、心に訴えかける効果があります。深い理解を促すことができ、印刷物や映像などを通じて言葉を直に伝えられるため、認知・理解・共感の過程に大きく貢献できる施策です。

ここでは、エモーショナルな施策の具体例をご紹介します。

講話・講演

講話・講演は、多くの従業員に言葉を伝えることができ、想いも直に伝えられる施策です。講話の具体例には、年頭挨拶や全社朝礼などが挙げられます。

経営者が直接、想いや企業理念、ビジョンを話すことは高い説得力があり、「認知」において高い効果が期待できます。しかし、理解・共感・行動は時間の経過とともに薄れてしまうため、インナーブランディングを高める上では他施策との併用が欠かせません。

 

【講話・講演の事例:株式会社揚羽】

当社では毎週の全社朝礼で社内の行動指針について考え、共有する時間があります。その指針を「羅針盤」と呼んでいます。企業文化や行動指針の浸透・定着を目的とし、中途社員からは「揚羽での在籍歴が浅くても、判断基準になる」との声もあがっています。社内で実施するインナーブランディング施策と従業員のエンゲージメントへの影響の調査でも、9割以上がエンゲージメント向上を実感しており、「羅針盤」は3番目に高いスコアを獲得しています。

株式会社揚羽の朝会や羅針盤についての詳細はこちら

印刷物

印刷物は形として残すことができるため、読み返して理解を深めることが可能です。制度やイベントと合わせて活用することで、理解を深めながら行動を促す効果に期待できます。社内報や理念冊子・クレドカード、理念ストーリー本などが印刷物の具体例です。

印刷物は作成して終わりにならないよう、その後浸透させる仕組みづくりが重要です。また、曖昧な内容では本当に伝えたいことと従業員の理解に乖離が発生する恐れがあるため、内容をしっかりと作り込むことが欠かせません。

 

【印刷物の事例:住友化学労働組合】

住友化学労働組合は、「新しい運動方針」の作成を機に、より共感を生み、主体的な行動につながることをめざしてビジョンの策定とビジョンブックを制作。ビジョンに込められた想いやストーリーを表現することに注力し、内容はもちろん、イメージに合うデザインも検討するなど視覚的な面からもビジョンを具現化しました。多くの組合員の方が制作に参画したことでより共感を生み、行動につながるビジョンブックとして浸透につなげられています。

住友化学労働組合のビジョンブックの詳細はこちら

映像

映像は心と記憶に訴えることが可能な施策であり、深い理解と共感を生み出す効果が期待できます。企業の創業時からのヒストリーやビジョン、従業員エピソードなど、映像の具体例はさまざまです。

映像は一度に多くのメッセージが発信できるだけでなく、視覚的な訴求があることで高い共感性を生み、テキストでは伝わりにくい想いや熱量まで伝えることができます。イベントや研修など、活用シーンが豊富な点もメリットです。

>関連記事:インナーブランディングで動画を活用するメリットと2社の事例を解説

 

【映像の事例:日本ケンタッキー・フライド・チキン株式会社】

ブランド理念の共有・伝達、それらの体現力を更に高めることを目的としたブランド映像を制作。創業より培ってきた価値観や世界観を第一線で働くスタッフに正しく伝え、KFCのホスピタリティの体現を目指しました。

ブランド映像は新人アルバイトの初期研修や店舗従業員の年次研修、店長会議などで活用。その結果、従業員のブランドへの愛着の高まりが実感でき、サービスや商品の品質への満足度向上などの成果にもつながりました。

日本ケンタッキー・フライド・チキン株式会社のブランドムービーの詳細はこちら

Web

Web施策は常に最新情報が発信でき、かつ情報を繰り返し発信できる点が特徴です。イベントや映像など、一過性の高い施策と併用することで理解を深める効果に期待ができます。社内SNSや従業員情報共有サイト、イントラネットやコーポレートサイトなど、Webの具体例はさまざまです。

たとえば、社内SNSはコミュニケーション活性化にも有効であり、一体感の醸成にも役立ちます。一方、コーポレートサイトはWeb上に公開される会社の顔としての役割を持つため、社外向けのアウターブランディングと思われますが、社内にも情報が届くよう制作することで実は、インナーブランディングにも有効です。

 

【Webの事例:日本たばこ産業株式会社(JT)】

JTグループの中核事業である国内たばこ事業を活性化させるために社内SNSを活用。他事業に関わっている従業員も多いからこそ、グループ内で新製品の存在や特徴を知ってもらうなど、インナー向けの告知活動や製品改善につながる意見収集を実施しています。幅広く事業を展開する企業では、他事業部との関わりが少ないことによる一体感の希薄化が起こりやすくなります。社内SNSを活用することで社内コミュニケーション活性化による一体感醸成のほか、革新的なアイデアが発信されるなどさまざまなメリットが期待できます。

広告

広告は、拡散力や強制力の面で効果を発揮する施策です。具体例には、CMや新聞広告、Web広告、雑誌広告などが挙げられます。

自社の理念やビジョンなどを社外に発信することは、強制力につながります。なぜなら、自社の理念やビジョンといった目指す姿の「結果」を伝えているため、それを実現するために行動しようという動機づけになるからです。

しかし、理念やビジョンが社内に浸透していない状態で広告を出してしまうと、発信内容と現実にギャップが生まれることで、従業員が不信感を抱いてしまうリスクもあります。そのため、広告施策は実施のタイミングを見極めることが重要です。

 

【広告施策の事例:三井金属鉱業株式会社】

2024年に創業150周年を迎えることを機に、これからも持続可能な成長を続けるための判断軸となるパーパスを策定。策定したパーパスは社内外に浸透させていくため、ビジュアル化や映像化にも対応しています。社外への認知向上施策として、パーパスやビジュアルを駅や空港などの交通広告として露出。そして、ストーリー映像は同社のエントランスで公開するほか、2023年には関東・九州地区でテレビCMとして放映しました。

三井金属鉱業株式会社のブランディング支援の詳細はこちら

インナーブランディングの施策を成功させるポイント

インナーブランディングの施策を成功させる上で重要なのは、施策前に目的を明確にすることです。「何を伝えたいのか」「伝えた上でどうなってほしいのか」をゴールとして設定することで、実施すべき施策がみえてきます。

また、施策成功のためには、自社が抱える課題に的確にアプローチできているかも重要です。理念などの浸透における課題には、下記4つの段階があります。

理念浸透における4段階の課題

課題のレベルに応じて打ち手や論点が異なるため、まずは4つの段階のうち自社の課題がどこにあるかを把握することがポイントです。その上で、課題を解消して目指す姿を実現するために適した施策を実行してこそ、インナーブランディングの施策が高い効果を発揮します。ファンクショナルな施策とエモーショナルな施策のそれぞれの特性を考慮して、目的に応じた施策を選択することがインナーブランディングを成功へと導くでしょう。

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