大手企業を中心に「人的資本経営」が活発化

2023年3月から有価証券報告書を発行する大手企業約4000社に、人的資本の情報開示が義務化されました。これを機に、企業の人的資本経営に対する取り組みが活発化しています。

人的資本経営の実践には、社外への情報開示はもちろんのこと、従業員の理解と企業への共感が欠かせません。インナーブランディングを通じて、従業員が企業の姿勢や方針を自分事と捉えて日々の行動や挑戦に生かし、従業員と企業が共に持続的に成長できる環境を整えることが大切です。では、人的資本経営の取り組みを、社内外へどのように訴求すべきでしょうか。

今回は、人的資本経営に立脚した取り組みを社内外へ戦略的に発信するポータルサイトのプロジェクトに、当社が伴走した事例をご紹介します。

【ケーススタディ】株式会社ブイキューブ

オンラインイベント、ウェビナー、ウェブ会議サービスを通じて、企業のデジタルコミュニケーションをサポートする株式会社ブイキューブ。テレワークに必要不可欠な個室型ワークブース「TELECUBE」も展開し、新たな働き方を提案しています。

創業から2013年まで、同社はIPO(Initial Public Offeringの略。新規公開株式)に向けて急成長・急拡大を図り、「会社の成長ありきで、人が成長してきた」という状態でした。しかし13年の上場以降、改めて自社の存在意義や強みを見つめ直し、創業以来大切にしてきたカスタマーサクセスとともに、「働く仲間それぞれの成長によるサクセスが今後の会社の成長に不可欠」という結論に至りました。

そして18年には全社を巻き込み、「Evenな社会の実現~すべての人が平等に機会を得られる社会の実現~」というミッションを策定。さらに20年には、「Evenな社会の実現」に必要不可欠な、同社サービスを利用する顧客、求職者、従業員、株主、地域社会といった“すべてのステークホルダーのサクセス”の総称として、「ピープル・サクセス」という考え方が生まれました。この言葉には、同社の「一人でも多くの人が幸せを感じて、働くことが楽しいと思える会社、誇りに思える会社にしたい。その結果、顧客や株主、社会のサクセスの最大化につながる」という想いが込められています。

また、組織として「ピープル・サクセス」を推進するために、ピープル・サクセス室という部署を新たに設置。人材育成施策や働き方関連施策など、さまざまな取り組みを実施することになりました。

多くの施策を実施する中で、「ピープル・サクセス」の取り組みを広く発信するには、ウェブサイトの構築が必要不可欠となります。これについても検討され、新たなプロジェクトが始動しました。

自社の取り組みの考えを確立し、社内外へ発信するプラットフォームを構築

プロジェクト開始当初、当社がご相談を受けたのは、「ピープル・サクセス」の取り組みを広く発信するためのウェブサイト構築についてでした。しかし状況を整理する中で、同社が目指すものは、求職者だけを対象にした一般的なウェブサイトではありませんでした。そこで、「ブイキューブの新しく自由な働き方や、それがもたらす効果などを、世の中に率先して発信することで、世の中全てのピープル・サクセスを実現するサイト」というコンセプトを設定。そして本プロジェクトの目的を、全てのステークホルダーに対して「ピープル・サクセス」の取り組みを発信するブランドコミュニケーションと定めました。

コミュニケーションのプラットフォームとして、まずオウンドメディアを立ち上げました。サイト内のコンテンツには、企業として未来に向けた取り組み、社会課題を解決する施策、従業員同士で切磋琢磨する様子など、多岐にわたる社内施策を掲載。具体的なプロジェクトを「見える化」することで、同社に関わる全てのステークホルダーに対して、誠実に取り組みを訴求する構成としました。

また、ステークホルダーがこのサイトを閲覧することも想定して、企業紹介動画を埋め込んだり、現在までの沿革をストーリー形式で見せたりするなど、コーポレートサイトでは伝えきれない想いを盛り込み、訴求力高く同社を紹介するサイトとすることを目指しました。

なお、「人的資本経営に関する情報開示」は、同社の人的資本経営の戦略と人材データを、簡潔かつ視覚的に表現。当社がデザインを支援した「ブイキューブの人的資本経営レポート2023」も、同記事内に掲載しました。戦略の全体像、具体的な施策、⼈的資本に関する指標を、8ページにまとめています。

ブイキューブの人的資本経営リポート

「ブイキューブの人的資本経営レポート2023」の一部

「ピープル・サクセス サイト」は採用強化の役割も担っているため、全体的にスタイリッシュでクールな演出を意識しました。そして、コーポレートロゴに合わせたオレンジを差し色として使い、「ピープル・サクセス」の考えが多くの方に伝わるようなデザインを採用しています。

加えて、求職者を意識したコンテンツ「ピープル・サクセス ポリシー」も公開。「当社に強く共感する人材の採用を実現したい」という思いから、このポリシーの中には「求める人物像」だけではなく、「望ましくない人物像」についても明記しているのが大きな特徴となっています。そして生き生きと働く従業員の写真をふんだんに使い、従業員の人柄をダイレクトに伝えるデザインにしました。下層ページでは、写真や画像を全面に打ち出すなど、ビジュアルを大胆に使い、同社のビジョンである「Evenな社会」への大きな広がりを表現しています。

ピープル・サクセスポリシー

「ピープル・サクセス ポリシー」の解説記事

人的資本経営に欠かせないインナーブランディングとアウターブランディングの関連性

今回の事例のように外向きのブランディングを実施する際は、発信している内容を従業員が深く理解することがとても重要です。従業員同士のコミュニケーションが活性化してイノベーションが生まれ、人的資本経営の実現へとつながるからです。

自社の取り組みを社外に発信し、対外的に評価され、従業員の誇りにつながるという一連の流れを生むことが、ブランディングのあるべき姿ではないでしょうか。社内に向けたインナーブランディングと、社外に向けたアウターブランディングにおいて、言行一致型のブランドコミュニケーションを実施することが、非常に重要と言えます。

人的資本の情報開示においても、ただ数値情報を示すだけではなく、企業の個性、つまり、「その企業らしさ」を世の中に訴えかけ、メッセージ性のある情報を打ち出すべきでしょう。それはアウターのステークホルダーに対して効果があるのはもちろん、従業員のモチベーションアップや誇り醸成へとつながり、従業員エンゲージメントの向上も期待できます。

今回紹介した事例の詳細は、こちらからご覧いただけます。

※本記事は、月刊会員情報誌「コミュニケーション シード」2025年10月号に掲載されたコンテンツの転載です。

■月刊会員情報誌「コミュニケーション シード」について
一般社団法人 経団連事業サービス 社内広報センターの会員情報誌。社内広報事例や社内報講評、担当者インタビュー、企画、レイアウト、文章の書き方や校正・校閲のポイントなど、社内報編集に役立つ情報を掲載する「社内広報の部」と、歳時記、海外情報といった記事やパズル、占いなど、会員が発行する社内報に転載が可能なコンテンツを掲載する「編集資料の部」の2部構成の冊子を毎月発行。