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はじめに:なぜ今、ブランドブックが見直されているのか

多くの会社には、その会社が大切にする理念や目指す方向性(ビジョン)があります。それらを社員に伝え、組織としての一体感を生み出すために作られてきたのが「ブランドブック」です。

しかし、現代のように変化が激しく、将来の予測が難しい時代においては、会社の理念は単に「知っている」だけでは不十分になりました。社員一人ひとりが、会社の理念を「判断の拠り所」として、日々の仕事の中でどう行動すべきかを自分で考えて動くことが、変化に強い組織を作る上で欠かせなくなっています。

つまり、インナーブランディング(社内に向けた取り組み)のゴールは、社員の「行動を変える」ことにあります。社員の行動が変わることで、会社への愛着や貢献意欲(エンゲージメント)が高まり、それが結果として会社の成長に繋がるのです。

この記事では、従来のブランドブックの考え方を見直し、社員の行動を変え、会社の成長を後押しする「行動を促すブランドブック」について、その重要性から具体的な作り方、成功に導くステップ、そして活用方法までを分かりやすく解説します。

「行動を促すブランドブック」が会社の成長に繋がる3つの理由

ブランドブックが、単なる「読み物」から「行動を促す」ための道具へと変わることで、会社には多くのメリットが生まれます。

理由1:「人」の価値を最大限に引き出す

近年、「人的資本経営」という考え方が注目されています。これは、従業員をコストではなく「資本」として捉え、その能力や経験を最大限に引き出すことで、会社の価値を高めていこうという考え方です。

「行動を促すブランドブック」は、この「人的資本経営」を進める上で非常に役立ちます。社員が会社の理念や将来の姿に共感し、「自分の仕事が、会社の未来や社会に繋がっている」と実感できるようになるからです。

この実感は、社員のやる気を引き出し、新しいことに挑戦する社風を作る土台となります。社員が自律的に学び、成長しようとする意欲も高まるでしょう。

理由2:社員の意欲と生産性を高める

社員が会社の理念に共感し、「やらされている仕事」ではなく「自分たちの目標のための仕事」として主体的に取り組むようになると、会社への愛着や貢献意欲、すなわち「エンゲージメント」が高まります。

ある調査では、エンゲージメントが高い会社は、そうでない会社に比べて収益性や生産性が高いという結果も出ています。離職率が低下し、優秀な人材が定着しやすくなるという効果も期待できます。社員の意欲を高めることは、会社の業績を向上させる上で、非常に効果的な投資と言えるでしょう。

理由3:「言行一致」が会社の信頼を作る

社外に向けてどれだけ立派な理念を掲げても、社内の社員たちの行動が伴っていなければ、その言葉は空々しく聞こえてしまいます。最悪の場合、「言っていることとやっていることが違う」と社会からの信頼を失いかねません。

本当の信頼は、社内で育まれた理念への共感が、社員一人ひとりの普段の行動となって表れることで生まれます。顧客への対応、製品開発、日々の電話応対など、あらゆる場面で社員が理念に沿った行動をすることで、会社全体としての一貫性が生まれ、社会から「信頼できる会社」だと思われるようになるのです。

行動を促すブランドブックの具体的な内容とは?

では、社員の行動を実際に促すには、ブランドブックにどのような内容を盛り込めばよいのでしょうか。ここでは4つの重要な要素を、より詳しく解説します。

1.行動の「お手本」を示す

理念が抽象的なままだと、社員は行動に移せません。大切なのは、理念を具体的な「行動の指針」にまで落とし込んで、分かりやすく示すことです。

・具体的な行動例を挙げる

例えば「挑戦を大切にする」という指針なら、「前例のない提案をしてみよう」「失敗を恐れず、まず試してみよう」「もし失敗したら、原因を考えて次に活かそう」といった具体的な行動例を挙げます。営業職なら、開発職なら、管理部門なら、と職種ごとの具体例があるとさらに親切です。

・「望ましくない行動」も示す

逆に、「他人の挑戦の邪魔をしない」「現状維持にこだわらない」といった望ましくない行動を示すことも、社員がどう振る舞うべきかを理解する助けになります。これにより、「やっていいこと」と「やってはいけないこと」の境界線が明確になります。

2. 共感を呼ぶ「物語」を伝える

人は、単なる理屈よりも、感情に訴えかける「物語」に心を動かされます。社内に眠っている物語を発掘し、ブランドブックで共有しましょう。

・物語の見つけ方

社内公募でエピソードを募集したり、様々な部署の社員にインタビューを行ったりして、物語の「種」を探します。特に、長く勤めている社員や、様々な部署を経験した社員の話は貴重な財産です。

・社員の物語を主役にする

難しい仕事をやり遂げたチームの話や、お客様にとても感謝された社員の話など、身近な社員の体験談は、他の社員にとって「自分も頑張ろう」と思える良い刺激になります。物語の主人公にインタビューし、その時の気持ちや苦労を語ってもらうと、よりリアリティが増します。

3.頑張りが報われる「仕組み」を見せる

「理念に沿った行動をすれば、きちんと評価される」。この安心感が、社員が行動を続けるための大きな動機付けになります。ブランドブックの中で、会社の「本気度」を伝えましょう。

・評価との繋がりを明確にする

人事評価の項目に、行動指針に関する内容(例:「挑戦」「協力」など)を加え、その評価基準をブランドブックで説明します。評価する側の管理職が、部下のどのような行動を評価すればよいのかを理解する助けにもなります。

・表彰制度を紹介する

理念に沿った素晴らしい行動をした社員やチームを表彰する制度があれば、ぜひ紹介しましょう。表彰された人のエピソードを共有することも、他の社員の良い目標になります。「次は自分も」という気持ちを育むことができます。

4.社員同士が「対話」するきっかけを作る

ブランドブックは、会社からの一方的なメッセージで終わらせてはいけません。その内容について社員同士が話し合い、考える機会を作ることが、理解を深める上でとても重要です。

・話し合いの場を設ける

ブランドブックをテーマにした研修やミーティングを開き、「私たちの部署でこの理念を実現するには?」「この行動指針についてどう思う?」といったテーマで、社員が自分の言葉で意見を交わす場を作ります。

・上司と部下の面談で活用する

定期的な面談の際に、上司がブランドブックの内容に触れながら「最近、この指針を意識して取り組んだことはある?」などと問いかけることで、理念を日常の仕事に結びつけることができます。これは、部下の成長を促す良い機会にもなります。

失敗しない!ブランドブック制作の具体的な6つのステップ

では、実際にブランドブックを作るには、何から手をつければよいのでしょうか。ここでは、制作を成功に導くための具体的なステップをご紹介します。

ステップ1:目的の明確化とチーム作り

まず、「何のためにブランドブックを作るのか」という目的をはっきりさせます。

「社員のやる気を引き出したい」「部門間の連携を良くしたい」「会社の進むべき方向を一つにしたい」など、目的によって作るべき内容は変わってきます。

目的が決まったら、制作チームを作ります。経営層だけでなく、様々な部署や年齢の社員に参加してもらうことが、成功の鍵です。

ステップ2:現状の把握と課題の洗い出し

次に、会社の現状を把握します。

全社員を対象にアンケート調査やインタビューを行い、「会社の理念を知っていますか?」「仕事でやりがいを感じるのはどんな時ですか?」「会社の課題は何だと思いますか?」といった声を集めます。

ここで集まった社員の正直な声が、ブランドブックの土台となります。

ステップ3:理念や行動指針の「言葉」を作る

ステップ2で集めた声をもとに、会社の「あるべき姿」や「大切にすべき価値観」を言葉にしていきます。

このプロセスは、経営層だけで決めるのではなく、社員参加型のワークショップ形式で進めるのが理想です。付箋に意見を書き出したり、グループで議論したりしながら、みんなが納得できる言葉を探し出します。

時間はかかりますが、この過程こそが社員の当事者意識を育む上で最も重要です。

ステップ4:心に響くコンテンツの企画と制作

言葉が決まったら、それを伝えるための具体的な内容(コンテンツ)を企画します。

ステップ2で紹介した「物語」や「行動例」などを集め、読者が興味を持ってくれるような構成を考えます。

写真やイラストを効果的に使うことも大切です。社員の笑顔の写真や、仕事風景の写真が入ることで、親しみやすさが格段にアップします。

ステップ5:デザインとアウトプット形式の決定

内容が決まったら、デザインやアウトプットの形式を決めます。

冊子にするのか、Webサイトにするのか、あるいは両方作るのか。会社の文化や、社員がどのような形式を使いやすいかを考えて選びましょう。

デザインは、会社のイメージに合っているか、そして何より「読みやすいか」という視点を忘れないようにしましょう。

ステップ6:完成後の「活用計画」を立てる

ブランドブックは、完成がゴールではありません。どうやって社員に届け、日々の業務で活用してもらうか、という「活用計画」をあらかじめ立てておきましょう。

全社説明会の開催、部署ごとの勉強会、社内報での連載など、様々な方法を組み合わせて、継続的にブランドブックに触れる機会を作ることが重要です。

ブランドブック作りで陥りやすい3つの失敗例

ここで、改めてブランドブック作りでよくある失敗例とその対策を確認しておきましょう。

失敗例1:見た目ばかりで、中身が伴わない

デザインは綺麗だけれど、書いてあることが一般的な言葉ばかりで、自分たちの会社らしさが感じられないケースです。

対策:見た目以上に、「自分たちの言葉」で語ることを大切にしましょう。制作の過程で多くの社員から意見を聞き、現場の正直な気持ちや言葉を盛り込むことが重要です。

失敗例2:一部の人間だけで作ってしまう

経営層や担当部署だけで制作を進め、完成してから全社員に「これが新しい理念です」と報告するケース。

対策:企画の早い段階から、プロジェクトの目的を全社員に伝え、様々な部署や役職の社員に参加してもらうようにしましょう。制作の過程をオープンにすることが、社員の当事者意識を高めます。

失敗例3:作って満足してしまう

時間と費用をかけて立派なブランドブックを作り、全社員に配ったことで満足してしまうケースです。

対策:ブランドブックは完成がゴールではなく、スタートです。完成後にどうやって社内に広め、活用していくかの計画をあらかじめ立てておくことが大切です。

デジタル技術を活用した新しいブランドブックの可能性

最近では、デジタル技術を使ってブランドブックをより魅力的に、そして便利にすることができます。

動画や音声で、より豊かに伝える

紙やPDFだけでなく、Webサイトや社内アプリの形にすれば、創業者のインタビュー動画や、社員の生の声を収録した音声などを盛り込めます。文字だけでは伝わらない想いや熱量を、より直接的に伝えることができます。

いつでも、どこでも見られる便利さ

デジタルであれば、会社の最新情報や新しい成功事例などを簡単に追加・更新できます。また、スマートフォンなどからいつでも見ることができれば、社員は日々の仕事で迷ったときに、すぐに理念や行動指針を確認できます。

一人ひとりに合わせた情報提供

社員の役職や部署に応じて、表示する情報を変えるといった工夫も可能です。例えば、新入社員には会社の基本的な理念を、管理職には部下に理念を伝えるためのヒントを、といったように、それぞれの立場に合った情報を提供することで、より活用されやすくなります。

成功の鍵は、社員を巻き込んで「一緒に作る」こと

最も効果的なブランドブックは、一部の専門家が作るものではなく、多くの社員が関わって「一緒に作る」ものです。制作の過程に社員を巻き込むことには、非常に大きな効果があります。

「自分たちのもの」という意識が生まれる

ワークショップなどで自分も制作に関わった社員は、完成したブランドブックを「会社から与えられたもの」ではなく「自分たちが作り上げた大切なもの」だと感じます。この意識が、理念を行動に移す強い動機になります。

現場の実態に合った、現実的な内容になる

経営層だけでは気づかない、現場の課題やお客様の本当の声。様々な立場の社員の意見を取り入れることで、ブランドブックはより現実的で、共感を呼びやすい内容になります。

理念を広める「伝道師役」が育つ

制作に深く関わった社員は、完成後、その内容や背景にある想いを熱意をもって語れる「伝道師役」になります。彼らが自分の部署の仲間たちに話をしてくれることで、理念はより自然な形で組織全体に広がっていきます。

ブランドブックを「一過性のイベント」で終わらせないために

ブランドブックは、作って終わりではありません。その価値を保ち、会社の文化として根付かせるためには、継続的な働きかけが不可欠です。

定期的な振り返りと改善

定期的に従業員アンケートなどを実施し、「理念は浸透しているか」「行動は変わったか」といった点を確認します。その結果を見て課題を見つけ、「計画→実行→評価→改善」のサイクルを回しながら、研修内容を見直すなど、次の打ち手を考えていくことが重要です。

社内の取り組みを、社外にも発信する

社内で生まれた良い取り組みや成功事例を、会社のホームページやSNS、採用活動などを通じて、積極的に社外へも発信していきましょう。社内の良い動きが社外での良い評判に繋がり、その評判がさらに社員の誇りややる気を高める、という「良い循環」が生まれます。

例えば、理念に共感した優秀な人材からの応募が増えたり、社員が自分の会社にさらに誇りを持てるようになったりします。この循環が、会社全体の価値を高めていくのです。

まとめ:ブランドブックは会社の未来に向けた重要な投資

ブランドブックは、単に会社の理念をまとめた冊子ではありません。社員一人ひとりの意識と行動を変え、組織全体を活性化させるための、「会社の未来に向けた重要な投資」です。

社員が理念を「自分ごと」として捉え、日々の行動に移せるように工夫された「行動するブランドブック」。その効果は、社員を巻き込んで一緒に作り、デジタル技術なども活用し、そして何より、完成後も継続して活用していくことで最大化されます。

この記事が、貴社のブランドブックを見直し、社員と会社の成長に繋げるための具体的なヒントになれば幸いです。

弊社では、ブランドブックを含めさまざまなインナーブランディング施策をご支援しています。ブランドブック制作では企業のニーズにあった企画・構成をご提案し、自社らしさを導出するためのブランドブック制作のご支援が可能です。ブランドブックを通して高いインナーブランディング効果を発揮するためにも、ブランドブックの制作は支援実績が豊富な弊社に一度ご相談ください。

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