皆さま、こんにちは。ブランドマーケティング部の齊藤です。

2023年7月27日(木)と8月2日(水)に、株式会社日経リサーチ社との共催セミナーとして「インナー&アウターブランディング実践のポイントを解説!~両輪でまわす?今さら聞けない基礎編~」を開催しました。

株式会社日経リサーチ 執行役員の大橋氏と株式会社揚羽 ブランドコンサルティンググループ グループ長の黒田が登壇し、大橋氏よりマルチステークホルダー対応の観点からインナー&アウター両面でのコーポレートブランド調査、データ分析・活用の重要性について解説いただき、弊社の黒田からは、事例を交えながらインナーブランディングの実践方法をお話しました。

本記事では、弊社黒田の講演内容『コーポレートブランドの構築プロセス徹底解剖』に加え、2日程のライブ開催時にいただいた質疑応答のサマリーをお伝えします。

株式会社日経リサーチ 大橋 知弘 氏
大橋 知弘 氏
株式会社日経リサーチ
執行役員
株式会社揚羽 黒田 天兵
黒田天兵
株式会社揚羽
ブランドコンサルティンググループ グループ長

インナーブランディングのゴールとKPIとは

まず、インナーブランディングを実施する際のゴールとKPIとは何か、お話しします。

インナーブランディングの究極のゴールは「社会へのインパクト」と「対価」

「インナーブランディングは何のためにやるか?」というと、結論、最終的なゴールは社会にどんな価値や影響を及ぼすか、そして、その影響度に合わせた対価です。対価は売上利益以外にも会社の評判を獲得することがゴールだと考えています。
インナーブランディングのプロセスはこの2つのゴールから逆算できます。

社会的インパクトや対価を得るためには、その企業の中でベストプラクティス、つまり過去最高のパフォーマンスを発揮すること、もしくは新しい価値を創出することが求められます。ベストプラクティスや新たな価値創造には、社内外の仲間との切磋琢磨が必要です。切磋琢磨するための前提には社員一人ひとりの創意工夫があり、そして、どのように創意工夫するのかという方針こそが企業理念です。

インナーブランディングには色々な分解の仕方がありますが、以下の5つの要素が本質だと考えています。

インナーブランディング 目的

インナーブランディングにおけるKPIの設定

昨今、従業員エンゲージメントが注目されていることもあり、よく「インナーブランディングの効果測定はエンゲージメントを見ればいいんですよね?」とご質問いただきます。
従業員エンゲージメントというのは、会社や仕事への自発的な貢献意欲、あるいは自分以外の何か誰かのための志です。エンゲージメントはあくまで数ある指標のうちの一つであり、Hopにあたる「意欲」を測る一つの指標となります。

KPI一覧

 

意欲を高めるために、エンゲージメントだけでなく、社員の「自律性」に注目したり、一人ひとりの「創造性」に注目したりする企業もあります。

他にも、数値化できるさまざまな指標が考えられます。Stepにあたる「仲間との切磋琢磨」は、社内での「多様性」や「異文化コミュニケーション能力」、さらに社外ではお客様と社員がどれくらい交流しているかという数値も見ることができると思います。Jumpにあたる「ベストプラクティス、新価値の創出」は社内の中での表彰された数やその質、また社外からの評価もKPIとして設定することができます。

エンゲージメント向上のポイント解説

ただやはり、数ある指標の中でも従業員エンゲージメントは売上利益との相関性が高いと言われていることもあり、「従業員エンゲージメントを向上させるにはどうすればよいか?」というご相談を非常に多くいただきます。ここからは、エンゲージメント向上のポイントを解説していきます。

エンゲージメントに影響があると言われる項目

エンゲージメントに影響があると言われる項目がいくつかあります。人間関係や上司の助け、称賛してくれる文化や自己成長できるか、仕事の意義、環境や制度、待遇や企業風土が自分にあっているか、そして理念・戦略に共感できるか、といった項目です。

その中でも「理念・戦略」は非常に影響力が強く、これらが悪いと他の項目が良くても従業員エンゲージメントが向上しないといった調査もあります。では、「経営理念をいい感じにすればいいんですか?」というとそんな単純なものではありません。

そこで、「理念・戦略」において、エンゲージメント向上に重要な以下の2つのポイントをご紹介します。
●Point 1 「社員の自発性の促し」
●Point 2 「理念実現の手応え可視化」

Point 1 「社員の自発性の促し」の秘訣

1つ目は「社員の自発性の促し」です。従業員サーベイを実施すると、あれやこれが足りないといって社員にどんどん『やってあげよう』となる節があるかと思います。また、世界的なエンゲージメント調査では日本は「仕事への熱意が低い」という結果も出ています。受け身になっている社員が多い中、自発性を持ってもらうことがとても重要です。

社員の自発性を促す効果的な方法として、「ブランド策定段階から携わらせる」ことがあります。自分たちがつくったという感覚を持ってもらうことが、経営理念に最も効く手法であり、社員の自発性を促します。つまり、策定の段階から浸透活動は始まっているのです。

ブランドの策定にはいくつか手法がありますが、日本の従業員エンゲージメントが低いという現状や人的資本経営への注目などから、多くの社員を巻き込んだ実施方法でやっていくことが特に注目されています。さらには、社員だけでなくお客様などさまざまなステークホルダーを巻き込んでブランドをつくりたいというご要望も多くいただいております。

策定の巻き込み度合い一覧

コーポレートブランド構築の流れ
では、どう巻き込むとよいのでしょうか?
ブランド構築には、策定をする(そもそも自分たちが何者かを考えて言語化する)フェーズと、それを浸透させるフェーズの大きく2つに分かれます。それぞれのフェーズにおける巻き込み方を解説します。

“コーポレートブランド

【策定フェーズでの巻き込み方】
策定フェーズは、ブランドの価値を棚卸ししてブランド価値構造のファクトを集めることから始まります。このファクトを集めるタイミングでは、取材という方法もありますが、ワークショップなどより多くの社員を巻き込む方法も有効です。

「自分たちでどんな会社にしていきたいか」といった思いを抽出し、集まったファクトを弊社が整理。そして、ブランドの核となるコアバリューの意思決定を皆さんと一緒に行っていく。といった巻き込み方もあります。

最終的には、決まったコアバリューからブランドコンセプトを開発していくのですが、弊社がご提案した複数の案から決定するまでの過程でも、社内投票を実施したり、皆さんと議論をしたりといった方法を実施しています。

策定フェーズでの巻き込み方一例

【浸透フェーズでの巻き込み方】
「もうブランド策定はしてしまった」という企業様も、浸透のフェーズで巻き込む手法はあります。

まずはインナーブランディングの考え方や手法、最新事例を学んでいただきます。次に、どういったことで社員の心が動き、それが社外のお客様や社会に対しての価値につながっていくのか、という「アイデア拡散ワークショップ」を実施します。そして、社員から集まったアイデアをもとに計画を練り、やるべきことの優先度をつけてジャーニーマップに落とし込むという「アイデア収束ワークショップ」を通して、施策を具体化していきます。

アイデアの拡散を自由にやってもらうと、温泉施設に行きたい、マッサージルームが欲しいといった話になってしまうので、初めにブランディングとはどういうものなのかをインプットいただくことが非常に大切です。また、アイデア拡散の際には弊社が持つインナーブランディングノウハウ集である「インナーに効く打ち手100」を参考にしていただきながらワークを実施します。弊社では、このようなインナーブランディングの勉強会やワークショップを通じて、社員を巻き込んだ浸透活動の伴走をさせていただいております。

社員 浸透 方法

また、このように社員を巻き込んだプロセスそのものをPRにつなげることもできます。

弊社にも次世代を担う若手中堅社員が10人程度集まり次の20年を構想する「HABATAKI会議」というプロジェクトがあります。このように、「新しいブランドを自分たちがつくっていくんだ!」という意識で、プロジェクトの名前もつけながら進めていくこともおすすめします。

Point 2 「理念実現の手応え可視化」の秘訣

エンゲージメント向上に重要なポイントの2つ目は、「理念実現の手応え可視化」です。

パーパスやビジョンを策定し、社外向けに発信するだけでは社員はついてきてくれません。綺麗な言葉を策定しても、そこから半年、1年経っても何も行動や変化が無いという状況では、かえってエンゲージメントが下がってしまうこともあります。

重要なのはパーパス、ビジョンの実現に向かって今どんな努力をしているのかという「プロセス」を開示することです。弊社が提唱する“共創を実現するパーパス運用論「3P」®”というフレームワークがあります。多くの企業がパーパスやビジョンを掲げるようになった今、大事なのが経営者の本気度という“パッション”。そして、パーパスを実現するためのシンボリックな“プロジェクト”。また、プロジェクトの進捗を発信する“プロセス”の開示です。苦戦している部分も含めた勇気ある開示が非常に大切です。

人は、真剣に働いている人を見ると心が打たれるという部分があると思います。現場の社員たちの真剣度合いや熱意といった、熱い想いの共有を通じて仲間を集めていくことができるはずです。そういった現場のプロセスの公開は、社員にはもちろん、社外の方にも刺さるコンテンツになります。

インナーとアウターは一体型へ

「結ぶ」伴走支援の形:バタフライモデル

ブランディングというと、かつては社外に自分たちが伝えたいイメージを持ってもらうにはどうしたらよいかという、「社外」向けのコミュニケーションを指していたことが多くありました。しかし、人的資本経営が重視される今、「社内」の中の活動を可視化して見せていかなければいけない時代となっています。

社内では、『パーパスやビジョンの策定から始まり、浸透の中で一人ひとりに真剣に考えてもらい、行動して良い活動を社内の中でイントラネットなど共有しながら切磋琢磨する』、といったいろいろな活動をしていると思います。それらの取り組みがうまくいくこともあれば失敗することもありますが、そのプロセスをすべて社外に発信していくことで社外から共感を生み、ビジネスアライアンスにつながったりPRの記事で取り上げられたり、社外から評価されることが社員の誇りにもつながっていくのです。

弊社では、こういった、社内から社外、そして社外から社内、というインナーとアウターとの連携こそが今後のコーポレートブランディングの新しい形だと考えています。下図のように『バタフライモデル』という形で表現させていただいております。

“バタフライモデル

(セミナー当日は、インナーブランディング起点でアウターブランディングも実施した事例をご紹介しました。)

『バタフライモデル』における左の社内活動は社内広報や人事の方がメインで担当され、右の社外活動は宣伝や販売促進の方など別の方が担当されている企業様も多く、縦割りのため横の連携が取れてないというご相談も多くいただきます。弊社はこの両翼を結び、各部署が連携する体制づくりからご支援することも可能ですので、ぜひご相談ください。

まとめ

今回の黒田の話のまとめとして、以下3つがポイントとなります。
①インナーブランディングの究極のゴールは「社会インパクト」と「対価」である。
ゴールまでのKPIは複雑だが、その中でもエンゲージメントへの注目度が高まっている。

②エンゲージメントを高める秘訣は「自発性の促し」と「プロセスの開示」である。
「自発性の促し」は策定・浸透計画の段階から多くの社員を巻き込むことが効果的。

③今の時代、インナーとアウターは表裏一体の関係となっている。
インナーの取り組みをアウターへ、アウターからまたインナーへ、部署をまたいで連携し、施策を実施していくことが今後のコーポレートブランディングの新しい形になる。

質疑応答

(7/27の質疑応答)

Q.定期的に外部のブランド調査を実施していますが、インナーブランディングはまだ取り組んでいません。一方で毎年、人事がエンゲージメントサーベイをやっています。人事管轄のエンゲージメントサーベイがある中で、どのような工夫をすればインナーブランディングに一緒に取り組めるでしょうか?部署間の問題もあり上手くいきません。社内の理解を得るにはどうした良いかアドバイスをお願いします。

外部のブランド調査ということで恐らく広報の方かと存じますが、まずは2つの調査データを見られる状態にし、双方のデータにどういった関係性があるか仮説を立てるのがよいかもしれません。また、その上で部署間でコミュニケーションを取っていくためには、委員会やタスクフォースチームを作ることをおすすめします。「一緒に話す場」を定期的に作ることで解決の糸口が見えてくることがあるはずです。

また、インナーブランディングやエンゲージメントは経営そのものであるため、経営層をいかに巻き込み、どういう風にコミットメントしてもらうのかが重要です。例えば何か問題があった時に「その原因は何か」を経営層と一緒に考えることがインナーブランディングの活動になります。その活動の中で経営層に他部署との調整やタスクの融合をしてもらい、問題をクリアしていくことも有効です。

 

Q.インナーブランディングを進めていく場合、主幹部署はどういう部門が多いですか?どの部署が中心になるとうまくいく…などありますか?

経営企画をされる部署が中心となることが多いです。経営方針を決めていく立場の方がコミットするという状態を作ることが大切です。

 

Q.福利厚生など費用的になかなか厚遇できない反面、マインド面ばかりを求めるとやりがい搾取になりそうです。期限を決めてやるべきでしょうか。

未来に向けての投資という意味で、今に合わせるのではなく、将来あるべき姿に向けて自分たちが活動をするというマインドはとても大事です。それをどう上げていくかを人材投資の一つの考え方として捉えていただければと思います。

マインドに投資をした結果、社会インパクトと対価を得られるようになるため、対価が得られたら給料や福利厚生などの待遇に返していくことになると思います。そのためにやっているんだよというようなメッセージを発信していくことも非常に重要かと思います。

また、3カ年計画でここまで行こう!という目標を立てて期限を決めて取り組むということも大切です。今だと例えば2030年も一つ区切りとなり、短期、中期、中長期というような形で目標を決めてどう社員を巻き込んでいくのかが重要になってきます。

 

(以下8/2の質疑応答)

Q.自律的に行動・対話できるように組織風土を変革する方法としてはどういったものがあるとお考えでしょうか。

“共創を実現するパーパス運用論「3P」®”の中でいうパッション、つまり経営の覚悟が重要かと思います。自律的に行動できない背景には、心理的安全性が担保されてないということがあるのではないでしょうか。心理的安全性を作っていくためには経営がいかにコミットメントしていくかが非常に大切です。

また、最近はオフラインで施策を実施される企業様も増えてきましたが、オフラインで社員同士顔を合わせる機会を作られるのもよいかと思います。実際に先日、とある企業様の大きな周年イベントをご支援しましたが、トップの方と現場の社員の方が会話される姿や、なかなか会えなかった社員同士が対面し笑顔が溢れる様子を見て、心理的安全性がすごく高まっていると感じました。

オンラインで仕事がしやすい環境になりましたが、同時にオフラインのイベントも上手く復活させながら、組織風土改革のための施策を検討されるのも効果的かと思います。

 

Q.企業理念ほど大きくないテーマの社内浸透コンサルティングを揚羽さんはされているのでしょうか?(例えば、学習風土・女性活躍・働き方など)

企業理念以外にも幅広くご支援させていただいております。例えば、昨今ご相談が増えているキーワードとして「キャリアオーナーシップ」があります。キャリアオーナーシップをより一人ひとりに持ってもらうために、そのためだけのメッセージやスローガンを策定し、ロゴや社内プラットフォーム、映像などのコミュニケーションツールに落とし込むといった設計をするという事例があります。また働き方やキャリア自律というご相談が増えています。

 

Q.インナーブランディング、浸透が難しそうです。期間が数年と書いてありましたので根気強くやる必要があると感じましたが、時間をかけずに浸透がうまくいく場合もあったりするのでしょうか。

実際に行った支援で、グローバルを含め1万人以上の従業員の方々に従業員調査を実施し、そこから集めたデータをもとにパーパスを策定した事例があります。 調査からパーパス策定まで約1年程でしたが、策定の時点から従業員を巻き込んでいたので、浸透は早かったです。ただ、「定着」するまでにはなかなか時間がかかりますが、社員を巻き込むプロセスを実現できると、こちらで作ったものを渡して浸透させるよりは早い印象を受けました。

ですが、やはりご質問の通り実際に根気強く時間をかける必要はあります。 リストラクチャリングも含めて一気に抜本的に事業の環境を大きく変えようという場合には、時間をかけずに浸透させるケースもあります。 しかし働き手が減ってきている中でそうはいかないケースも多いと思いますので、やはり中にいらっしゃる社員とコミュニケーションとりながら、既に前向きな人たちをどんどん巻き込みながら継続していかれると、少しずつに変化が起こるはずです。

 

Q.インターナルブランディング、そしてそれが社外に伝わることによる企業イメージの高度化は非常に重要だと考えています。一方で、お話にもありましたような従業員が出るコンテンツを社外に発信する場合、個人情報やプライバシーの保護の観点も考慮する必要があると感じています。インター&アウターブランディングと従業員の個人の保護の両立について、何か所感やお考えの点があれば教えていただきたいです。

とても悩ましい問題ですよね。例えばある企業様で社員のマイパーパスをWebサイトで一般公開するという際には、一人ひとりに掲載の許可をもらい、「マイパーパスは出してよいが顔はNG」という方はアイコンで代用するという方法をとりました。やはり プライバシー保護という観点は大切にし、すべての方にパーミッションを取っていくということが必要かと思います。

 

以上、2023年7月28日、8月2日開催「インナー&アウターブランディング実践のポイントを解説!~両輪でまわす?今さら聞けない基礎編~」のセミナーレポートでした。