先日、採用市場に大きなインパクトを与えるニュースが報じられました。政府が2029年春に入社予定の学生(※2025年4月大学入学者)から、就職活動の日程ルールを見直す検討に入ったというのです。

具体的には、長らく「紳士協定」として存在していた「大学3年の3月広報解禁、4年の6月選考解禁」というスケジュールの前倒しや、より柔軟な日程設定が議論の遡上に載っています。

出典:日本経済新聞『就活日程の前倒し検討 29年春卒業の学生から、政府の関係会議で確認』

まだ検討の段階でもありますし、「29卒採用の事はまだ先の話」と思われるかもしれません。しかし、この動きは単なるスケジュールの変更にとどまらず、日本型雇用慣行の転換点を示唆していると考えています。

本記事では、このニュースの背景を紐解きます。すでに加速している「就活の早期化・自由化」の実態と、これからの企業がいかにして優秀な人材に「選ばれる」べきか、その本質的な戦略について解説します。

第1章:29年卒ルール変更が検討される2つの背景

なぜ今、政府は就活ルールの見直しに動いたのでしょうか。その背景には、大きく分けて「ルールの形骸化への追認」と「人材獲得競争の激化」という2つの要因があると考えています。

1. 形骸化する「6月解禁」と「インターンシップ」の定義変更

現行の「6月選考解禁」というルールは、すでに実態と大きくかけ離れています。 「採用と大学教育の未来に関する産学協議会」の合意により、一定の要件を満たしたインターンシップで得た学生情報を、採用選考に活用することが可能になりました。

これにより、大学3年生の夏や秋から実質的な選考が始まることが、事実上「公認」されつつあります。 政府としては、形骸化したルールを維持するよりも、実態に合わせてルールを再設計し、学生が学業と就職活動を両立できる新たな枠組みを作る必要があると判断したのです。

2. グローバル競争と「高度専門人材」の争奪戦

もう一つの要因は、AIやDX人材などの「高度専門人材」をめぐる獲得競争です。 外資系企業や海外企業は、通年採用や早期オファーによって優秀な学生を青田買いしています。

一方、日本企業が横並びのスケジュールに縛られていては、こうしたグローバルな人材獲得競争に勝てないという危機感が、経済界・政府の間で強まっています。

29年卒からの変更検討には、日本企業がより柔軟に、かつ早期に優秀層へアプローチできる環境を整えたいという狙いが見えます。

データで見る「就活トレンド」の現在地

29年卒の話は未来のことですが、足元の採用市場環境を正しく認識する必要があります。25卒、26卒の動向を見ると、「早期化」と「学生優位」の傾向は極まっています。

加速する早期化:大学3年生の年内に決まる勝負に

就職活動の早期化は、年々加速の一途をたどっています。株式会社リクルートの「就職白書2025」によると、2025年卒学生において3月時点での内定率は49.8%に達しました。つまり、就活が正式に「解禁」された直後のタイミングで、既に2人に1人が内定を持っているのが現実です。

かつては「3月に就活スタート」と言われていましたが、今や3月は「就活の折り返し地点」あるいは「終盤戦」となりつつあります。サマーインターンシップが実質的な一次選考となり、年内に内々定を出す企業も珍しくありません。

出典:株式会社リクルート 就職みらい研究所『就職プロセス調査(2025年卒)』

「終わらない就活」と内定辞退の増加

早期に内定を出せば採用が成功するわけではありません。ここに近年の大きな課題があります。

株式会社マイナビの調査では、3月上旬時点で内々定を保有している学生のうち、約7割が就職活動を継続するというデータが出ています。学生は「安心材料としての内定」を確保した上で、「本当に自分に合う本命企業」を探して就職活動を継続します。

出典:株式会社マイナビ『マイナビ 2025年卒 大学生活動実態調査』 

彼らが求めているのは、単なる就職先ではなく、自分のキャリア観や価値観にフィットする「納得できる一社」です。そのため、企業側がどれだけ早くオファーを出しても、入社直前まで辞退のリスクにさらされ、欠員補充に追われる「終わらない採用活動」が常態化しています。

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「会社」ではなく「ジョブ」で選ぶ

また、学生の志向も変化しています。「総合職として入社し、配属ガチャを受け入れる」という従来のスタイルを嫌い、「職種別採用(ジョブ型採用)」や「配属確約」を求める声が強まっています。 「この会社に入れば安泰」という帰属意識よりも、「この仕事を通じてどんなスキルが得られるか」というキャリア自律の意識が高まっているのです。

早期化の影響で置き去りにされる「学業」と「学生の疲弊」

早期化・長期化が進む一方で、見落とされがちなのが「学生側の負担」です。 企業側が優秀な人材を早く確保しようと躍起になる中で、学生たちは学業と就職活動の板挟みになり、疲弊しているのが実態です。

学生は「就活疲れ」を感じている

大学3年生の夏からインターンシップに参加し、冬の早期選考、春の本選考と、休みなく走り続けるような状態となっており、学生の精神をすり減らしています。また、インターン参加のために授業を休むなど、本来学業に取り組むべき時期に就職活動に追われ、本末転倒になってしまっているという声も少なくありません。

「配慮」ができる企業が選ばれる

こうした状況下で、学生は企業の対応を冷静に見ています。 「学業に配慮して日程を調整してくれるか」「無駄な拘束時間はないか」といった点は、学生にとって企業の「社員への向き合い方」を判断する重要な材料となります。

これからの採用において、企業には以下の2つの視点が求められます。

・スケジュールの配慮:「いつでも選考できる」という自由化のメリットを活かし、学生の学業スケジュールを優先した柔軟な選考日程を提示すること。これが「学生を大切にする企業」というブランディングにつながります。

・精神的な「寄り添い」:ただ合否を判定するだけでなく、リクルーターやメンターが学生の不安に寄り添い、キャリアの相談に乗るスタンスを見せること。こうした「心理的安全性」を提供してくれる企業の存在感は、相対的にその企業への志望度が高まるきっかけになります。

ルールが変われば「採用ブランディング」の重要性はさらに増す

政府が検討している日程の前倒しが実現すれば、企業と学生の接触期間はさらに長期化し、自由度が高まります。しかし、自由になるということは、同時に「選ばれる企業」と「選ばれない企業」の二極化が加速することを意味します。これまでのように「解禁日に合わせて一斉に母集団を集める」という一律の手法は通用しなくなります。

いつでも選考ができる自由な市場において、企業は何を武器に戦うべきでしょうか。 答えは、小手先の採用テクニックではなく、企業の「存在意義(パーパス)」と「実態」を一貫させる「採用ブランディング」にあります。

「認知」から「共感」へのシフト

早期化により接触期間が長くなることは、学生に「見定められる期間」が長くなることを意味します。 給与や福利厚生といった「条件」は重要ですが、それだけで長期間の動機付けを維持することは困難です。他社との条件競争に巻き込まれれば、より好条件の企業へあっさりと乗り換えられてしまうからです。

学生を惹きつけ続けるには、条件面での訴求を超え、企業のMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)、そしてカルチャーへの深い「共感」を生むことが不可欠です。「なぜこの会社が存在するのか」「どこを目指しているのか」という物語を語り、その価値観に共感する学生を「ファン」にするブランディングが求められます。

「言行一致」が信頼を作る

Z世代を中心とする若手人材は、企業が発信する情報の「真偽」を敏感に察知します。採用サイトで綺麗な言葉を並べても、実際の面接官の態度が高圧的だったり、インターンシップの内容が薄かったり、口コミサイトでの評判が悪かったりすれば、一瞬で信頼を失います。

採用広報で語るメッセージと、実際の組織の実態や選考プロセスでの体験を一致させること。この一貫性こそが、学生からの信頼を獲得し、内定辞退を防ぐための最適な施策となります。

揚羽が提唱する「言行一致のブランディング」の重要性はここにあります。

選考プロセス自体をブランディングする

日程が自由化されるこれからの時代、選考プロセスは単なる「学生を見極める場」ではありません。インターンシップや面接の一つひとつが、学生に自社の魅力を伝え、志望度を高める「動機形成の場」である必要があります。

・インターンシップ:業務体験だけでなく、社員との対話を通じて「働く意義」を感じてもらう

・面接:学生のスキルを判断するだけでなく、学生のキャリア観を引き出し、自社との接点を一緒に探る対話の場にする

 「この会社の選考を受けてよかった」「面接官との対話で自己分析が深まった」。

そう学生に思わせる体験を提供できるかどうかが、採用の成否を分ける鍵となります。

まとめ:変化を好機に変えるために

2029年卒のルール変更検討は、単なるスケジュールの問題ではありません。日本型の新卒一括採用が、より流動的で、個人のキャリア自律を前提とした「マッチング重視」の採用へと進化する過程の現れです。

ルールが変わることに不安を感じる人事担当者様もいるかもしれません。しかし、採用の本質は変わりません。それは、自社の魅力を正しく伝え、それに共感する人材と出会い、共に未来を描くことです。

今なすべきことは、スケジュールの変更に右往左往することではなく、自社の「採用の軸」を再定義することです。

  • 自社が社会に提供する価値(パーパス)は何か?
  • 求める人材に対して、どのようなキャリアを提供できるか?
  • そのメッセージは、選考のあらゆる接点で一貫して伝えられているか?

これらの問いに向き合い、独自のブランドを磨き続ける企業こそが、新しい就活ルールの中でも、次世代の優秀な人材に「選ばれる」企業となるでしょう。

揚羽では、学生に選ばれるブランドを構築する支援を提供しています。また、採用ブランディング戦略の一環として、採用サイト・採用映像・内定者フォロー企画など幅広くご支援しています。ぜひお気軽にご相談ください。

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