はじめに

こんにちは。デザイナー&マネージャーの西です。

 

デザイナー個人のキャリアと、デザイン組織をどうマネジメントすべきか、揚羽のデザイナー&マネージャーという立場から解説します。前回の前編では、揚羽におけるデザイナーの成長の流れを、どのように評価に結びつけるかについて、デザイナーのキャリアを分解することで紐解きました。後編の今回は、デザイナーの成長ステップと、成長のための「デザイン組織」をどうマネジメントしていくかについて記してみようと思います。

 

前編をまだご覧になっていない方はぜひご覧ください。
前編はこちら(デザイナーの仕事の成長と評価、そしてデザイン組織のマネジメントをどう描く?(前編))

 

前編後編にわたってなぜこのようなテーマを考えたかというと、デザインを経営と結びつけて試行する世界的な流れの中で、デザイナーの評価に関する考察があまり議論されていないように感じるからです。非言語を主にしたコミュニケーションである「デザイン」領域を、言語化して正しく評価するにはどうすればいいだろうか…自分自身も思考を巡らせていますし、きっと同じ思いの方は少なくともいるのではないかと考えているからです。

 

今回は揚羽がどのようにそれらに取り組んでいるかの一端をご紹介できればと思っています。そして、より議論が発展していくといいなと考えております。

デザイン

 

デザイナーが次のステップに進むためにどうしていくべきか

1、2の章ではデザイナーのキャリアにおけるフェーズの分解、そしてそれぞれのスキルの分解をご紹介しました。次に、デザイナーそれぞれが次のステップに進むためにどうすれば伸びていけるかを考えます。

 

デザインをより広く定義する

デザイン組織をデザイナーチームだけで収めようとし、クリエイティブをビジュアルを作ることだけに狭めてしまえば、行き詰まりを感じてしまいます。そのためにも、phase2までは作ることに重きを置きながら自らの「作る力」を広く深く伸ばしていくことが必要ですが、phase3 になってきたときに、より上流をデザインしていくことに目を向けていく必要があります。

 

デザイン

 

「デザイン経営プロジェクト」レポート – 経済産業省 より ダブルダイヤモンド・モデル
(公開終了)

 

このダブルダイヤモンドの図は、課題発見フェーズと課題解決の具体的な実行フェー ズがそれぞれ発散と収束を繰り返している図です。実際のクリエイティブを作る部分はダイヤモンドの後半にあたる課題解決の実行フェーズにあたります。 phase2 までなら、この後半部分にあたる実行フェーズを頑張っていくことが大事です。ただ、phase3 を念頭に入れていくステージにいるのであれば、前半の「課題発見フェーズ=前段設計」を見ていくことが必要でしょう。

 

phase3 以降は、デザイナーが実作業フェーズだけにとらわれず、その前段へのデザイン設計に立ち入るべきということを示しています。デザイナーが、顧客の持つ課題設定やマーケティング計画に触れ、納品後の成果に対してもコミットする意思がなければ、本当に必要とされているデザインをすることができないと考えるからです。

 

コロンブスがまだ見ぬ地へ大航海したいので船を作ってくれ!といったら、何を考えますか?
・とりあえずどれくらい大きい船?(帆の大きさは?)
・何マイル走る可能性がある?(どれくらい冗長性を保つ?)
・考えうる天候や気候は?(どれくらいの強度がいる?)
・そのための食料は?(食糧庫の大きさはどうする?)
・いつまで海に居続ける?(塩害対策はどれくらい?) etc…

 

デザイン

 

なぜ必要で、何が必要で、どうすれば叶えられるのかを総括してみなければ、必要な設計も何もできません。

 

デザインについて語れる空気を作る

社内でデザインについて話し合う場を設け、アイディアやケーススタディを共有してお互いに高め合うことも必要だと思います。それによって新しい考え方を取り入れられるだけでなく、説明する言語力が伸び、リーダーやマネージャーはどういう考えでデザインを行っているかを理解することができます。 もちろん、これは社外の人と積極的にやることも GOODです!

 

phase4 や phase5 になってくると、社外に向けても積極的にアプローチし、社内勉強会やセミナーを、社外でも講演会などでスピーチをしてみるといった経験も大事だと思います。

デザイン組織を作るためにどう取り組むか?

これまでデザイナー個々人のスキルアップやキャリアのフェーズを考えてきましたが、デザイナーだけがデザインを考えていれば良い時代は終わったと思っています。デザイナーだけがノンバーバルなビジュアル表現を(なんだかよくわからない手法で)作っていくだけでは、本当の課題解決にはならない時代だと思うのです。では組織全体としてデザインをどう取り入れていくか、そしてそういった組織をどうマネジメントしていくかを考えます。

 

デザイン

 

まずはデザイナーが職域を超える。そして他部署もデザインについて考える

前章ではデザイナーが次のステップに進むために、「課題発見フェーズ=前段設計」を見ていくことが必要だと書きました。デザインを広義に捉えていく必要があると思うのです。それはなぜか。

 

20世紀の大規模なマスマーケティングにおいては、タッチポイントもテレビのみ、新聞のみという単純なコミュニケーションでした。そのため計画を練る人と実際に作るデザイナーが別で考えていた方が効率的で良かったのかもしれません。

 

しかし、Webが台頭した後、簡単に誰でもいつでもどこでもさまざまなメディアに接触でき、自分からも発信ができ、自らが開発者としても振る舞えるさまざまなタッチポイントの可能性が生まれています。これからもタッチポイントが増えていく未来において、マスだけで考えるのは難しいのではないかと感じています。

 

デザインされたもののフィードバックも早く多く収集でき、人が情報を手に入れる速さは早く、流行も次々と生まれ、より新しい体験を欲してどんどんが流れが変わっていく現在では、デザイナーがビジュアルだけのデザインをしていては遅いと思います。なぜなら、ビジネスの先を読み、先手を打った施策と試作を繰り返してこそ、デザイナーとしての仕事に応えうるものだと考えるからです。まさに、プロデュースしディレクションする考え方を知り、全体に関わりながら真のクリエイティブを最速で探れる人物が大事だと思うのです。デザイナーが狭義のデザインを超えて、職域を超えていくことが大事なのです。

 

そして、これはデザイナーだけの問題ではないはずです。

 

顧客とともに、ときに顧客以上にビジネスを理解して顧客の潜在的・顕在的課題を見つけ出す営業や、課題解決のための手法をさまざまな情報や条件から生み出すプロデューサー。また、実際の課題解決に向けてマイルストーンを打ちながら、全体の監督として常に顧客と向き合い指揮をするディレクター。デザイナーとともにビジュアルを形にしてUXインタラクションを生み出すエンジニア…。

 

顧客の課題に対して、「解決できるデザイン」を主軸に展開するのであれば、そのプロジェクトに関わるメンバー全員が、ビジネスの感覚を持つのはもちろんですが、その手法たるデザインについても、良し悪しを判断できる力が必要だと思うのです。

 

デザイン

 

“ビジネスは北極星のような確固たる方向性を定める星であり、デザインは、ゴールまでの航路図であり舵である”

 

目指すべき星を見ずにはゴールに辿り着くことはできない。ただしゴールだけ見ていては、到達できるわけではない。航路図を全員が書ける必要はないが、どう進もうとしているか、それが正しそうか?を見る眼がなければ、航海は失敗するだろう。

 

この例えでいうと、例えばエンジニアは船であり動力機関となりますね。エンジニア以外は実際に動力機関の仕組みを詳しく知る必要はありませんが、どう動くかの概要くらいは知っていなければならないと思います。原子力の船に乗るのに、帆を立てようとすることに疑問を持たないのが間違っているように…。

 

それぞれの職域を超えてハイブリッドに活躍する人が、デザイナーもそれ以外の職種でも必要になっているのです。

 

デザイン

 

デザイン文化を醸成する

組織全体に向けて航路図の読み方や書き方を伝え続ける、つまりデザインについて伝え、教え続けることは大事です。ただそれでは一方的。大きな興味がなければあまり振り向いてくれないかもしれません(涙)。

 

ではどうするか?要は、「(今まで気にしていなかった)ちょっとデザインのこと気にすると、少しだけ楽しいかも?!」と、思わせてしまうのが一番早いのではないでしょうか。まさに、“デザイン文化を組織内に醸成させて”しまえばいいのです。

 

そういったデザイン文化を持った組織のマネジメント(phase5相当の人材)として必要なことは、以下のようなものが挙げられると思います。

  • ボードメンバーと協力して、少しずつ会社の方向性に関与し始められる土壌を作る
  • プロセスを確立し採用し、デザイン組織のための組織デザインに責任を持つ
  • 組織の戦略を具体化し、チームの「北極星」となってチームのひらめきを促す
  • 戦略から生まれたビジョンがどう働けば、メンバーがインスパイアされて前進するかを思考する

 

そして、これらを達成するために以下のような行動が必要になると考えます。

 

デザイン

 

・明確な期待を設定する
デザイナーも営業と同じように、成功を願うもの。ただ、違うのは成功の定義が難しいこと。売り上げや制作部に割り当てられた目標数字も十分必要な項目ではあります。ただ、本質的に人と協力して仕事をしているので、貢献度としての制作目標%が完全に正確なものとはいえないからです。(なるべく全員の合意の上で決めてはいますが!)少なくとも量=質というロジックは全く成り立たない世界。

 

そんなデザイナーだからこそ、メンバーに何を期待するかを十分に明らかにして目標としてもらうことが必要です。グレードによって、またメンバーによっても期待することはさまざまです。明確な組織からの期待をきちんと決めた上で、それぞれのスキルに対しても明確な期待を半期ごとに決めていくようにしなければならないでしょう。

・ガチガチの管理ではなく、サポートするという考えに
期待を設定したらこれを管理すればいい、という思考になってしまいがちですが、この考え方を「サポートする」という方向に考えることが重要。メンバーが自主的に与えられた期待を達成するための計画づくりにサポートするように働きかけていきましょう。

・デザインは、課題解決という機能の一部であることを認識させる
目指すべきは会社が質の高いデザインを提供することではなく、課題解決のための優れた体験を提供することだと考えています。デザイナーは、スキルが伸び始めるとつい「優れたデザイン」を作ろうとするもの。本質は何か?と時々立ち戻らせる、そしてデザインの前段階を再度見つめ直し本筋に導き直す力が必要だと考えています。

 

デザイン

 

・メンバーの人間性を尊重する
メンバーは、給与の対価として労働力を提供してくれている、のは正しいのですが、ただ雇われているから働いているわけではないですよね。仕事に全力で打ち込んでくれれば必ず素晴らしい成果と結果を出してくれるはずですし、だからこそ、メンバーが全力で打ち込めるために成長を信頼し、そして時には夢中になれるものを仕事以外からもヒアリングしながら、尊敬の念を持って接していくように努力すべきだと考えます。

・お互いに納得いくまで話しあう
なんでもサポートして、なんでも尊重すればいいかというと、それだけがマネジメントではないですよね。時に、組織としての決定が時に腑に落ちないことがあるかもしれません。そういった時に、仕方ないよねと逃げの一手は楽なのですが、それでは誰も納得してくれません。ただ組織を敵視して自分が楽になるだけです。自分がまず納得するために話し合う必要があるはずです。そして、それをチームに伝え続ける努力をしなければならないのだと思います。

 

最後にーーー

デザイナーのキャリアのステップを分解し、これからデザイナーに求められる人材像について考察しました。そして、デザイン組織をどう考えてマネジメントしていくかについても触れました。デザイナーがどのようにして社会に貢献していくかを、デザイナーのキャリアと組織マネジメントから紐解いてみました

 

この考え方はデザイナーだけでなくさまざまな組織においても、使いまわせる考え方だとも思いますし、デザインの考え方を色々なビジネスで取り入れていくことが重要になってきていると感じています。

 

デザインの力をどう組織に落とし込めばいいか? また、組織のビジョンやパーパスをどう浸透させていけばいいか…クリエイティブとインナーブランディングに関することもぜひお気軽にご相談ください;)一緒に考えていきましょう!

 

デザイン

 

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