はじめに

こんにちは。デザイナー&マネージャーの西です。

 

近年、DXやデザイン経営の必要性が語られるようになり、デザイナー自身もCDO(最高デジタル責任者)として経営ボードと綿密に連携し、ビジネスと直結した活躍を求められるようになってきています。そんな中でデザイナーのキャリアをどう作っていくか、そして組織としてデザインをどう捉えて活かしていくかを考える大変重要な時期に来ているのだと感じています。デザインの偏差値を上げながら組織としてデザインにどう取り組んでいくか…。

 

今回は揚羽がどのようにそれらに取り組んでいるかの一端をご紹介できればと思います。

 

デザイナーのフェーズを分解してみる

まずは、デザイナー自身のキャリアがどうなっているかを分解してみます。揚羽ではデザイナーも直接クライアントの方々と折衝する機会が多くあり、ビジネス感覚を身につけていかなければなりません。

 

デザイナーの、新人からの成長フェーズをピーター・メルホルツ、クリスティン・スキナー著『デザイン組織のつくりかた』(ビー・エヌ・エヌ新社)(https://amzn.asia/d/b9zbubN)を参考にしながら下記に挙げてみます。

 

デザイナーのフェーズを分解してみる

 

phase.1 デザイナーへの第一歩
【デザインの良し悪しを学んでいる。得意なデザインを見つけ出す 】
phase.1のテーマは、「専門技術の習得とプロ意識の向上」です。まさにこれからデザインを始めていく人たちであり、このフェーズで必要なのは、より深くより幅広いスキル習得にフォーカスをすること。そしてとにかくデザインのプロになっていくことです。自分にとっての得意なデザインを一つでも持っている状態になることが大事で、そのためのスキルを学ぶ最初の一歩になります。実績としては1〜2年目程度となります。

phase.2 少しずつデザイン決定の影響力を出していく
【得意なデザインをある程度形にできる。引き出しを増やしていく】
phase.1でのスキルを深めつつ、少しずつデザイン決定の影響力を出していく段階です。デザインの意思決定のための方法を学びながら、さらに得意なデザインの引き出しを増やし、さらに周りの領域まで深掘りし始めることが必要になっていきます。例えば、ビジュアルデザインを深掘りしながら、インタラクションのデザインを深掘っていくなどのスキルアップです。実績は2〜4年目程度でしょう。

phase.3 デザイナーとして複数のクリエイティブをリードする
【複数のテイストのデザインがしっかり作れる。整合性が取れ、デザインの説明ができる】
phase.3は「デザインを作りながら、仕事をビジネスの文脈で理解できるリーダーへ」。デザインの置かれた文脈を幅広く捉え、ビジネスと技術的側面とを両輪で考えどう成功させるかを考えること。目指すべきはこの重要性を理解できている状態です。そして、個々のデザインスキルだけでなく、メンバーの人間関係にも目を向け始め、自分の力だけで解決するのではなく、周りを巻き込んで成功に導く力をつけていくようになります。リーダーシップを持って、顧客の課題に対しての戦略を考えようと動き、デザインの機能だけでなく目的や根拠まで話せるアートディレクター的な要素も身につけ始めるフェーズになります。揚羽においても「リーダーやサブマネージャー」といった役割を担う人になっていきます。チームを持つのもこの時期になっていきます。実績としては4〜8年目程度。

phase.4-A ビジネスの文脈を捉え、クリエイティブの主軸を作る
【ビジネスの本質を理解し、広義のデザインができる。デザインが社会に及ぼす影響を理解し、解決策の提案を行うことができる。デザインチームのマネージャーとして信頼される】
テーマは、「デザインから課題解決への全体の文脈を考え、戦略フェーズに関わる」こと。デザインをチーム全体を考えながら導き、複雑な案件も成功させていく能力が必要になります。また、課題解決への戦略を理解することに加え、自ら戦略を立てていける人材として、顧客だけでなく自社のチームにも戦略を考えていくことが求められます。アートディレクターとしてだけでなく、クリエティブディレクター的な考え方を実践していきながら、案件での全体のデザインディレクションをしていきます。また、個別スキルの深掘りだけでなく、メンバーの能力をあげていくための具体的な施策を考え、指導していくマネジメント力も求められます。実績としては8〜15年目程度。

phase.4-B クリエイティブの力で社会に影響を与え続ける
【唯一無二のデザイン力で、社会に必要とされる。デザインの力で圧倒し、納得させられるビジュアルを作り続けることができる】
このフェーズはシニアデザイナー/シニアアートディレクター志向へと進化していく段階です。組織運営の両輪をまわすこと以上に確固たるデザインとしての社会的価値を発揮し続ける、シニアアートディレクターへの道です。組織としては、デザイナーの憧れであったり遠くの大きな指標となるべく立ち振る舞う「師匠」的な存在となります。組織運営はマネージャー的な人材を別に配して任せ、クリエイティブの追求に邁進してもらうことになります。実績としては8〜15年目程度。

phase.5 デザイン組織のリーダーとして、組織全体をリードする存在へ
【説得力を持ったビジョンを掲げ、会社運営に寄与する】
phase.5では、複数のデザインチームを導きながら他の部署とも連携を密にし、経営ボードと協力して会社の方向性を考えていく人へ。実作業によるデザインへの関与が薄くなる一方で、会社全体のクリエイティブの方針や全体レベルの向上、またプロセスの確立などを行いながら組織全体にデザイン思考を伝播させ、士気を高めるビジョンを掲げていく能力が求められます。影響力の大きな活動を行っていくポジション。戦略を理解してもらい、納得させられる能力。まさに、デザイン組織の組織デザインを行う人物へ。

 

デザイナーの組織におけるフェーズとしては、1〜5まで上記のように分けられます。組織に所属しているデザイナーの方々は、どのフェーズに自分がいて、今後どのようになっていけば良いかの参考の一つになると幸いです。

 

デザイナーの仕事の成長と評価、そしてデザイン組織のマネジメントをどう描く?

 

揚羽において求められるスキルを戦力値マップから考える

揚羽では、デザイナーを含め以下のような評価グレードを設けています。

 

グレードA 社内外で通用する専門性で事業を動かす部長クラス
グレードB 高い専門性を通じて事業の推進に貢献するマネージャー
グレードC リードプレイヤー。担当業務をリードできる
グレードD 自立したプレイヤーとして力をつける
グレードF 社会人基礎を身につけて自立する

 

デザイナーにおいては、それぞれの評価グレードごとに求められるスキルを詳細に分解し、どのように成長していけば良いかの指針を作っています。

 

デザイナーの評価グレードごとに目指すべき姿は以下になります。なお、ここに記載している「チーム」は、「グループ」よりも小さい組織を示しています。

 

グレードF(phase.1)
【ディレクターやプロデューサーとの円滑なコミュニケーションとトレンド理解】
デザイナー成長段階
・自分が好むデザインがはっきりしている
行動
・円滑な社内コミュニケーション
・言われたことを正しく実行・行動できる
・インプット量を多くこなすことができる
知識/スキル
・各デザインのための基礎知識
・トレンド把握のための複数インプットソースを持つ

 

グレードD1(phase.2)(Dのみ2段階に分けています)
【得意なデザインは指名が来る一点突破のデザイナーへ】
デザイナー成長段階
・自分の好きなデザインならある程度の形にできる
行動
・社内コンテストの入賞に関わることができる
知識/スキル
・デザインを理解し意味を分解する力
・簡単にデザインを説明できる力
・得意なデザインが定まる

 

グレードD2(phase.2)(Dのみ2段階に分けています)
【デザイナーとして複数テイストが信頼される】
デザイナー成長段階
・複数のテイストのデザインがある程度作れる。整合性は取れている
・デザインの中で自分で詰めが甘い部分が理解できている。また、自分でそこを修正することができる
行動
・タスク管理を自分でできる
・恐れずに「量」を遂行できる、量に慣れる
・個人目標を達成できる
知識/スキル
・デザイン要素を再構築できる力
・キーワードを階層化構造化して説明できる力
・複数テイストのデザイン力

 

グレードC(phase.3)
【シニアデザイナー、アートディレクターへの躍進】
デザイナー成長段階
・デザインと発想力で解決策を言語化し提案することができる
・自分ならではのデザインを生み出すことができる
・デザインに至るまでの経緯をさまざまな手法を用いて論理的に説明できる
行動
・チームに設定された目標を達成できる
・チームを達成に導く道筋を立てられる
・チーム達成のためにメンバーを導ける
知識/スキル
・クリエイティブコンセプトまでの企画資料作成

 

グレードB(phase.4)
【質の高いデザインとビジネスへのコミット力でビジネスデザイナーとして】
デザイナー成長段階
・ビジネスの根本から理解し、広義のデザインができる
・デザインが社会に及ぼす影響を理解し、解決策の提案を全て行うことができる
・唯一無二のデザイン力で、社会に必要とされる
行動
・グループに設定された目標を達成できる
・グループ達成に導く道筋を立てられる
・グループ達成のためにメンバーを導ける
・全社的視点で次のレベルへの道筋を提案できる

 

このように、揚羽で求められるデザイン力をグレードごとに細分化し、それぞれの項目でメンバーと目線合わせをすることで、各々の得手不得手を自覚しながらどのようにスキルアップしていけば良いかを見える化しています。また見える化をすると、個々のスキルが見えるだけでなく、組織全体でどれくらいの力がついているのかの検討も容易になりますし、今後どのように伸びていくかを示すことが簡潔に伝わるようになります。

 

次回の後編では、デザイナーの成長ステップと、成長のための「デザイン組織」をどうマネジメントしていくかについて記してみようと思います。

デザイナーの仕事の成長と評価、そしてデザイン組織のマネジメントをどう描く?(後編)