「周年事業の目的は決まった。予算も確保した。しかし、現場がついてこない…」

いざプロジェクトが動き出すと、多くの担当者が直面するのが、この「経営と現場の温度差」です。 事務局が熱くなればなるほど、現場からは「忙しいのに」「どうせ一部の人が盛り上がっているだけでしょ」という“冷めた視線”を感じてしまう。

しかし、周年事業が単なる「一過性のイベント」で終わるか、組織を変える機会になるかの成否は、社員がそれを「他人事」と捉えるか、「自分事」と捉えるかの一点に尽きます。

本記事では、周年事業を成功させるための最大の鍵、「社員の巻き込み方」と「参加型施策」について、事務局が知っておくべき具体的な設計ノウハウを解説します。

関連記事:周年事業とは?4つの目的と成功させるポイントを解説

第1章:なぜ、「巻き込み」は失敗するのか?(心理的ハードルの正体)

多額の予算を投じても、社員の心が動かなければ、周年事業は「一過性のお祭り」で終わります。なぜ、事務局の想いは現場に届かないのでしょうか。そこには、社員が抱える明確な2つの心理的ハードルが存在します。

なぜ多くの企業でこのような現象が起きてしまうのでしょうか。その原因を紐解くと、共通した「失敗の構造」が明確に見えてきます。

失敗の根本は「目的の不一致」と「出来レース感」

① 目的の不一致(なぜ今、自分がやるのか?)

多くの社員は、周年事業の目的を「会社が過去を祝う儀式」と認識しています。自分の日々の業務とプロジェクトの関連性が見えないため、協力する動機が生まれません。「忙しいのに余計な仕事を増やさないでほしい」というのが本音です。

② 決定プロセスの閉鎖性(どうせ決まってるんでしょ?)

企画の初期段階で現場の意見を聞かず、トップダウンで施策やスローガンが決定されると、現場にはしらけムードが漂います。「どうせ意見を言っても無駄」「事務局が勝手にやればいい」。この「出来レース感」こそが、「やらされ感」の正体です。

事務局が陥る「権限」の落とし穴

社員を巻き込もうと焦るあまり、事務局が運営方法を間違えてしまうケースも少なくありません。

権限の丸投げ:
「企画は各部門に任せる」と自由を与えすぎると、各部門がバラバラの施策を実行し、メッセージの一貫性が失われます。また、通常業務で多忙な現場に「何をしてもいい」と投げるのは、自由ではなく負担にしかなりません。

権限の抱え込み:
逆に、現場から意見だけを聞き、最終決定を事務局が握ってしまうと、現場は「単なるアリバイ作りで意見を聞かれただけ」と見抜き、次からの協力が得られなくなります。

成功の鍵は、事務局が「目的と予算(枠組み)」を作り、その中での「コンテンツ(中身)」を社員に委ねるという、絶妙なバランス設計にあります。

第2章:「やらされ感」を消す、プロジェクトチーム設計の極意

社員の「やらされ感」を解消し、当事者意識を生み出すには、企画の「土壌」であるプロジェクトチームの組成方法から戦略的である必要があります。

熱量のある社員を発掘する「公募型」チームの導入

従来の「部門長からの指名」や「事務局による選抜」ではなく、「公募型(手挙げ式)」でメンバーを募ることを強く推奨します。

揚羽の支援事例のひとつを例にあげると、とある大手小売企業の周年プロジェクトでは、各部門から「アンバサダー」を公募し、彼らを起点に現場での施策を展開しました。

メリット: 「何かやってみたい」という熱量のある社員が集まるため、モチベーションの維持が容易になります。また、自ら立候補したメンバーは、やらされ仕事ではなく「自らのプロジェクト」として捉えるため、周囲を巻き込む推進力が段違いです。

設計のポイント: 事務局は「部門横断」と「年次混合」を推奨し、部署や役職に関係なく誰もが応募できるフラットな体制を作ります。

現場のキーマン「中間管理職」を味方につける根回し術

ここで多くの事務局がつまずくのが、「上司の壁」です。 若手が「公募に参加したい」と手を挙げても、直属の課長や部長が「忙しいのに誰がその間の仕事をするんだ」と難色を示し、参加を断念させるケースが後を絶ちません。

この「管理職ブロック」を防ぐには、事前の戦略的な根回しが不可欠です。

「人材育成」としてのメリットを提示する: 管理職に対し、周年プロジェクトへの参加を「業務の妨げ」ではなく、「次世代リーダー育成の研修機会」として説明します。「他部署と連携し、全社視点で企画を動かす経験は、本人の成長に必ずつながる」と、部門にとってのメリットを強調します。

管理職に「メンター」の役割を与える: 管理職を蚊帳の外に置かないことも重要です。プロジェクトの実働は若手に任せつつ、管理職には「部門の相談役(メンター)」としての役割を依頼します。「頼られている」という感覚を持たせることで、彼らは若手の活動を妨げる壁から、強力なサポーターへと変わります。

若手に権限を委譲する「逆ピラミッド型」の運営体制

プロジェクトチームの運営において、事務局(総務・経営企画など)は「実行者」ではなく「伴走者・ファシリテーター」に徹することも大切です。コンテンツの企画・制作は若手メンバーに任せ、事務局は「予算管理」や「経営層との折衝」などの環境整備に徹する。この役割分担こそ、トップダウン型につきまとう「やらされ感」を払拭する鍵となります。

第3章:参加意欲を高める「決定プロセス」と「フェーズ別コンテンツ」の設計

社員を巻き込む施策は、「アンケートを取った」という事実ではなく、「自分たちの声や行動が、最終的な形になった」という実感を生むことが重要です。 周年事業を「企画」「実行」「事後」の3つのフェーズに分け、具体的な参加施策を設計します。

【企画フェーズ】インサイト発掘から「問い」を共有する

このフェーズの目的は、社員の意識を「お祝い」ではなく「自分たちの未来」に向けることです。

1. 未来ビジョンワークショップと「未来カード」

ある企業では、「未来のありたい姿」を議論するワークショップを実施しました。 しかし、いきなり「未来を考えろ」と言われても社員は戸惑います。そこで有効なのが「未来カード」というツールです。

「AIが普及した社会」「少子高齢化が進んだ街」など、未来の社会環境が書かれたカードを用意します。このカードと「自社の事業」を掛け合わせ、「そんな未来で、私たちはどんな価値を提供しているか?」をゲーム感覚で発想させます。

心理的ハードルを下げつつ、質の高いアイデアを引き出せます。ここで出たキーワードを、周年スローガンやビジョンに反映させます。

2. 「未来の姿」のビジュアル化(グラフィックレコーディング)

言葉だけではイメージしにくい「未来」を、イラストで可視化する手法です。 ワークショップで語った「こんな会社にしたい」という夢を、プロのイラストレーターがその場で絵にします。

自分たちの想いが「絵」になることで、強烈な納得感とワクワク感が生まれます。完成したビジュアルは、ポスターや社内報の表紙として展開し、全社に共有します。

【実行フェーズ(準備期間)】プロセスを可視化し、期待感を高める

イベント当日に向けて、徐々に熱量を高めていく「助走期間」の設計が重要です。

1. 「メイキング動画」でのプロセス共有

周年プロジェクトの裏側自体をコンテンツ化します。
プロジェクトメンバーが議論している様子、記念誌の撮影風景、時には意見がぶつかり合っている場面などを撮影し、「メイキング動画」として社内で定期配信します。

「誰かが勝手に決めている」というブラックボックス感を消し、「同僚たちが本気で頑張っている」という共感と応援の気持ちを醸成します。

2. 日常に侵食する「魅せる社史年表(航跡ボード)」

本社の廊下などに、創業の歩みを描いた巨大な年表を掲示します。余白を設け、社員が「自分が入社した年」や「思い出」を書き込めるようにすることで、「会社の歴史」と「自分のキャリア」を重ね合わせます。

3. 全国を巡る「キャラバン」施策(パーソルテンプスタッフ株式会社 様)

拠点数が多い企業で非常に有効なのが、経営陣が現場を回る「キャラバン」です。 創業50周年を迎えたパーソルテンプスタッフ株式会社様では、歴代社長3名が全国21拠点を巡るキャラバンを実施。経営トップが直接現場で想いを語り、現場社員と対話を実施。 「本社対現場」という心理的な壁を取り払い、トップの本気度を肌感覚で伝えることで、グループ全体の一体感を醸成しました。

事例詳細はこちら:経営理念のさらなる浸透へ、創業の想いと感謝を未来につなぐ周年プロジェクト

 

【イベント当日】全員が「主役」になる仕掛け

イベントを「観覧する場」ではなく「参加する場」にします。

1. 「プライムストーリー」の映像化

ある商業施設運営会社では、全社員から「仕事で心が動いた瞬間」「お客様との忘れられないエピソード」を募集。集まったエピソードの中から象徴的なものをショートドラマ化してイベントで上映しました。モデルは自分たち自身。派手な演出よりも、リアルな現場の物語こそが、社員の涙と誇りを誘います。

2. 共同制作アート「Our Place」

参加者全員で一つの作品を作り上げるアクティビティです。参加者一人ひとりが「未来への抱負」や「仲間への感謝」を書いたカードを持ち寄り、巨大なモザイクアートを完成させます。「個」の想いが集まって「全社」が作られていることを視覚的に体感できます。

【事後フェーズ】熱量を日常に接続する

イベントの熱狂を「一発花火」で終わらせないための仕組みです。

「Goodアクションカード」による称賛文化の定着

周年で定めたビジョンや行動指針(未来アクション)を、現場で定着させる施策です。ビジョンに合致する行動をとった社員に対し、同僚が「Goodアクションカード」を送ります。行動に対するフィードバックが即座に得られることで、「良い行動」の基準が明確になり、称賛し合う文化が根付きます。

まとめ

周年事業の成功は、投じた予算の大きさやゲストの豪華さではなく、企画プロセスにおける「社員の熱量と当事者意識」の総量で決まります。

「忙しいから無理」と諦める前に、まずは自社の社員が「やらされ感」なく、能動的に参加できる土壌と仕組みを設計すること。 小さな「問い」を投げかけ、小さな「参加」を積み重ねることで、やがてそれは組織全体を動かす大きなうねりとなります。

それが、周年事業を「コスト」で終わらせず、組織の未来を拓く「投資」として成立させる唯一の方法です。

本記事で解説した「巻き込み方」は、周年事業の「目的設定」があってこそ機能します。目的設定について復習したい方は、こちらの記事をご覧ください。

関連記事:周年事業をただのお祝いで終わらせない、目的設定の重要性を解説

揚羽では、周年事業の「目的設定」だけでなく、社員の「当事者意識」を最大化するためのプロジェクト設計から具体的なコンテンツ制作まで、一気通貫でご支援可能です。

「プロジェクトチームを立ち上げたいが、現場の理解が得られるか不安」「社員が参加しやすいワークショップのテーマやツールを提案してほしい」「周年イベントの企画から運営まで任せたい」

創業以来、900社以上のブランディング支援をしてきた知見で、貴社に最適な施策をご提案します。まずはお気軽にご相談ください。

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