企業の創立や創業といった大きな節目に企画・実施される「周年事業」。この特別な機会をうまく活用することで、従業員のエンゲージメント向上や組織の一体感醸成、さらには企業のブランド価値向上といった、未来の成長につながる多くの効果が期待できます。
しかし、単なる記念イベントで終わらせないためには、戦略的な視点と計画的な準備が不可欠です。
本記事では、周年事業の基本的な定義から、具体的な目的、成功に導くための進め方、参考にしたい成功事例、そして押さえておくべき重要なポイントまで、網羅的に解説します。
周年事業とは?企業の節目を未来への推進力に変える施策
周年事業とは、企業の創業・設立から5年、10年、50年といった節目を記念して行う、社内外に向けた特別な活動全般を指します。単なるお祝いの場としてだけでなく、企業の過去を振り返り、現在を見つめ直し、そして未来へ向けた方針を共有する絶好のコミュニケーション機会です。
社内向けには、従業員の士気を高め、組織の一体感を強める起爆剤となります。社外向けには、顧客や取引先、株主といったステークホルダーへ日頃の感謝を伝え、良好な関係をさらに深める機会として活用できます。
このように、対象者や目的に応じて内容は多岐にわたりますが、いずれも企業の節目を「未来への推進力」に変えるための重要な経営戦略の一つと位置づけられます。
周年事業の目的とは?企業が達成すべき4つのゴール
周年事業を単なるお祭りで終わらせないためには、企業の課題に基づいた明確な目的設定が不可欠です。ここでは、企業が周年事業を通じて達成すべき代表的な4つのゴールをご紹介します。
目的1:企業文化・理念の浸透と再確認
企業の周年は、自社の歴史やDNAを振り返り、企業文化や経営理念を従業員一人ひとりに浸透・再確認させる絶好の機会です。
企業のビジョンや価値観が全社で共有されている状態は、一貫性のある企業活動の基盤となります。周年事業という特別な場を通じて、これらを改めて従業員に伝え、対話することで、未来へ向かう組織の一体感を強力に醸成できます。新しい中期経営計画やビジョンを発表するタイミングとしても最適です。
目的2:従業員エンゲージメント向上
周年事業は、従業員の企業に対する愛着や貢献意欲、すなわちエンゲージメントを高める絶好の機会です。
特に組織規模が大きくなるほど希薄になりがちな経営陣と従業員のコミュニケーションも、周年事業という全社的なイベントを通じて活性化させることが可能です。社長や役員が自らの言葉で感謝や未来への展望を語ることは、従業員の帰属意識を高め、チームワークの強化につながります。
目的3:新たなビジネスチャンスの創出(商機開発)
社外に向けては、周年事業を新たなビジネスチャンス、すなわち商機開発の機会として戦略的に活用できます。
例えば、周年記念イベントの場で新商品や新サービスを発表したり、新たな事業戦略をプレゼンテーションしたりします。また、記念キャンペーンやセミナーを開催し、既存顧客はもちろん、過去に取引のあった休眠顧客や潜在顧客へアプローチする良いきっかけにもなります。
目的4:企業やサービスの認知度向上とブランディング
周年事業は、企業のブランドイメージを社内外に強く印象付け、認知度を向上させるための強力なマーケティング活動にもなり得ます。
周年ロゴや特設サイト、記念広告などを通じて統一されたブランドメッセージを発信することで、社会的な注目を集め、ブランドイメージの向上に貢献します。また、この機会にリブランディング(ブランドの再構築)を実施し、企業の新たなステージを内外に宣言する戦略も非常に有効です。
周年事業の進め方【4つのフェーズ】
周年事業は、目的を達成し効果を最大化するために、計画的に進めることが成功の鍵です。ここでは、基本的な4つのフェーズに分けて、その進め方を解説します。
フェーズ1.概念設計(~1.5年前):目的と体制を固める
このフェーズでは、周年事業の土台となるコンセプトや目的を設計し、実行体制を整えます。周年イヤーを迎える少なくとも1年半前には着手するのが理想です。
| 実施すること |
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まずは、経営課題を踏まえ「周年事業を通じて、社内外に何を伝えたいのか」という根幹を固めることが、後続のフェーズでブレないための最も重要なポイントです。また、この段階である程度の予算も決めておきましょう。
次に、社内向け・社外向けそれぞれの施策の前提となる以下ポイントの策定・整理を行っていきます。
| 社内向け |
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| 社外向け |
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経営課題をふまえ、周年事業の目的となるのは、周年事業を通して社内外に「何を」伝えたいかという部分です。ここが明確になることで「従業員からの信頼・期待」「社外からの信頼・期待」を同時に高められます。
そのためにも、企業や商品の「これまで」と「ありたい姿」を明確にしていくことがポイントです。
| 企業のこれまで |
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| ありたい姿 |
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フェーズ2:企画・制作(~1年前):施策を具体化する
概念設計で定めた方針に基づき、具体的な施策の企画と制作を進めるフェーズです。周年イヤーの前年には、具体的な準備に取り掛かります。
| 実施すること |
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周年事業の目的やMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)、ブランド価値に沿って実施する企画を制作します。企画・制作フェーズでは、準備段階でもその情報を積極的かつ継続的に発信することがおすすめです。主な発信場所は社内報や社内イントラ、企業のWebサイトなど。継続的な情報発信により、周年であること、周年事業を実施するという意識づけに効果的です。
| 周年事業の具体的な施策例 |
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フェーズ3:実施(周年イヤー):一体感を醸成する
いよいよ周年イヤーを迎え、企画・制作した各種施策を実行に移す、プロジェクトのハイライトとなるフェーズです。
| 実施すること |
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施策を実行するだけでなく、その活動の様子や進捗を丁寧かつ継続的に社内外へ発信し続けることが重要です。これにより、社内ではコミュニケーションが活性化し、社外に対してはブランドへの関心を維持・向上させる効果があります。
フェーズ4:継続展開(周年後):効果を未来へつなげる
周年イヤーの終了とともに、すべての活動を終わらせないことが重要です。周年事業で得られた成果や盛り上がりを、企業の次なる成長へとつなげていきます。
【事例に学ぶ】周年事業の成功事例3選
実際に、企業はどのように周年事業を展開し、成果を上げているのでしょうか。ここでは揚羽の支援実績より、3つの成功事例をご紹介します。
事例1:創業の想いと感謝を未来につなぐ周年プロジェクト
2023年に創立50周年を迎えたパーソルテンプスタッフ株式会社では、この周年を機に次の100年へ歩みを進めるプロジェクトを始動。社員、派遣スタッフ、クライアント、パーソルグループ各社、同社に関わるすべてのステークホルダーに、創業時の想いや経営理念の真意を浸透・深化させることを目的としました。
| 実施したこと |
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周年事業を3ヵ年に分け、1年目は過去を継承する期間に設定。継承されてきた経営理念の理解・共感を促し、従業員の誇りやエンゲージメントを高める施策を実施しました。
そして、その集大成として、オフラインイベントである感謝祭を実施。実施後のアンケートでは、参加した社員の94%が5点満点中の4点以上と回答し、非常に満足度の高いイベントとなりました。
事例2:周年を機に全社を巻き込んだパーパス策定
2023年9月に設立40周年を迎えることを機に、改めて自社の存在意義と今後も目指す方向性を明確にするため、新たなパーパス策定と企業理念の体系化、パーパスの浸透活動まで伴走した事例です。
| 実施したこと |
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本周年事業は、プロジェクトメンバーだけで完結しない「全社員を巻き込んだ臨場感のあるパーパスづくり」を重要視しました。そのため、すべてのプロセスで社員の参加を促し、意見を取り入れ、パーパスの決定も全社向けにアンケートを実施した上で決定しています。
社員の言葉からブランド価値を抽出し、それらを整理した上で社員たちがパーパスを最終決定。全社員を巻き込んで進行することで、社員が新たなパーパスを自分ごととして理解・共感しやすくなりました。
事例3:結成10周年の節目に理念を見つめ直す周年事業
LIXIL労働組合結成10周年という節目で、記念事業をインナーブランディング強化の一つと捉え、1年間を通しての記念事業を行いました。その目的は、10周年の機会に理念を見つめ直し、結成当初の気持ちや活動の意味を理解し、絆を深めること。
改めて労働組合の活動理念を浸透させるとともに、これまでの感謝を伝えるための施策を展開しました。揚羽は、企画案の検討段階から運営まで支援しています。
| 実施したこと |
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周年事業全体のコンセプトを軸に、揚羽がロゴからWeb施策、オフラインイベントを一気通貫でプロデュースしました。
周年事業を成功に導く3つの重要ポイント
最後に、周年事業を成功に導くために、担当者が必ず押さえておくべき3つの重要なポイントを解説します。
ポイント1:経営課題と連動した目的を立てる
目的は、周年事業の方向性や具体的な施策を検討する上でベースとなるものです。目的が明確でないと、周年事業の意義や成果が発揮されなくなる恐れがあります。
目的は、経営課題をふまえて明確化することがポイントです。経営課題が複雑な場合や目的がうまく定まらない場合は、早い段階でプロに相談できると良いでしょう。
ポイント2:全社員を「当事者」として巻き込む
周年事業は、経営陣や事務局メンバーだけで進めるのではなく、全従業員を「当事者」として巻き込むことが成功の鍵です。プロジェクトメンバーなどの特定のメンバーだけが周年事業に携わり、そのほかの社員がただの傍観者・参加者となってしまわないよう注意しましょう。
施策の策定段階で社員アンケートやワークショップを実施したり、社内報やイントラで周年事業の準備の様子や進捗を報告したりと、継続的かつ積極的な接点をつくることがポイントです。
ポイント3:周年を未来の成長につなげる活動として設計する
周年事業を一過性のものとせず、未来に繋げていく活動の第一歩とすることも大切なポイントです。そのためには「周年」を目的とせず、企業の根底にある課題解決や目的達成のための「手段」としてどう活用していくかを考える必要があります。
とくに、周年を機にリブランディングしたり、新たな中期経営計画を策定したりした場合は、それを理解・浸透させ、具体的な行動に移していかなければなりません。一過性に終わらせないためにも、目標を設定し、周年後も継続的に施策を展開していくことが大切です。
まとめ:周年事業を成功させ、企業の成長を加速させよう
本記事では、周年事業の目的から進め方、成功のポイントまでを解説しました。
周年事業は、単なる記念行事ではなく、企業の過去・現在・未来をつなぎ、組織を活性化させるための戦略的な投資です。明確な目的のもと、従業員や顧客といったステークホルダーを巻き込みながら計画的に実行することで、従業員エンゲージメントの向上、ブランディング強化、そして新たな事業機会の創出といった、大きな成果へと結びつきます。
企業の「これまで」と「ありたい姿」を社内外に発信し、信頼と期待を同時に高めて変革を起こしておくことが重要です。
揚羽では、周年事業を含む、包括的なブランディング支援を行っています。課題や方向性の策定から施策の企画・制作、その後の浸透活動まで一気通貫での支援が可能です。周年事業を実施したい、周年を機にリブランディングなどを検討している企業は、ぜひお気軽にご相談ください。









