昨今、企業経営において「人的資本経営」の重要性が多く謳われるようになってきています。しかし、言葉だけは聞いたことがあっても、人的資本経営の本質について詳しく把握しておらず、何をもってして人的資本経営に取り組めば良いかわからないという課題を抱えている方も少なくはないと思います。

 

本記事では人的資本経営の本質と、具体的に取り組む際のプロセスについて、定着予算🄬という新しい考え方も踏まえて解説します。

人的資本経営に取り組むための5つのプロセス

実際に人的資本を導入する際、5つのプロセスで進行します。以下では各プロセスのポイントを解説します。

ステップ1 自社の現状調査と定量化

大前提として、自社の現状(AS IS)を把握することが第一です。ISO30414や世界経済フォーラムで定められたステークホルダー資本主義測定指標など、国内外問わず、開示事項の基準が発表されています。

 

また日本では有価証券報告書やコーポレートガバナンスコードなどの提示が制度として義務化されています。世界がどのような基準を求めているかを踏まえた上で、自社の開示項目を設定することが重要です。

 

AS IS

ステップ2 組織・人の在り姿について定義する

定量的に人的資本経営での開示項目を定めたら、どのような組織を目指していくか(TO BE)の定義を定性的に定めることが重要です。

 

TO BEを定める上で企業は概念の集合体であると考えられます。企業を企業たらしめる概念の元、人が集まって事業を行っているのが企業です。それらの概念は、以下の7つに集約されると考えます。

 

人的資本経営 TOBE

 

  1. 現状、内部、外部環境
  2. なりたい姿
  3. 社会に提供する価値
  4. 顧客に約束する提供価値
  5. 戦略、戦術
  6. 理想的な行動
  7. 変わらぬ価値、文化、強み

 

中でも重要な概念となるのは、長期ビジョン・パーパスを表す②~④と、変革の土台となる組織文化を表す⑦です。

 

これらの概念を説明するために、広く理念が知られているサントリー(サントリー グループ企業理念)を事例にして説明します。
長期ビジョン・パーパス(②~④)が「水と生きる」「人と自然が響き合う」「Growing for Good」
変革の土台となる組織文化(⑦)は「やってみなはれ」「利益三分主義」
これが企業を企業たらしめる言葉であり、企業のイメージの骨格となります。

 

このような考えが策定できているかを7つの概念で改めて企業の中を振り返り、言葉として定義されているかを確認し、目指すべき組織体を定義することができます。

 

数値的にだけでなく、将来に向けてどんな企業でありたいかの全体像をフレームで考え、本質的に定義することを人事やCFO、経営層などが議論して決めることが人的資本経営と経営戦略を紐づけることとなります。

ステップ3 KPIを設定し予算配分を決める

企業としてのAS IS、TO BEが決まったら、実際にKPIを設定しどれだけ予算を配分するかを決める段階になります。

 

KPIの例としてISO30414で考えると、人的資本の開示項目は多岐に渡ります。従業員数や社内移動比率など数値として既にデータを取れているものもある一方で、後継者のカバー率など、数値として未だ導き出せていないものがある企業も存在します。数値が取れていないものについてはしっかり導き出し、AS IS、TO BEのギャップを埋める部分はどこにあたるかを考えることも大切です。

 

また、KPIを設定するにあたり、独自のKPIを設定すると、人的資本経営への取り組みで社内外へ好印象を与え、差別化要素となります。他社動向、トレンドにとらわれないKPIが大切です。そのためにも組織、人の在りたい姿、TO BEの定義が重要な要素となってきます。

参考:定着予算🄬定着コスト🄬の考え方

今までの人材への投資に対する予算のかけ方は、優秀な人材を採用するためであったり、新人を教育するための予算として投入しているケースが多いです。

 

ただ、入社して数年は投資した予算に対して利益を生み出せない期間があり、その社員が一人前になった段階で投資より大きなリターンを発揮し、利益を得られるようになります。これが人材への投資の考え方です。

 

しかし、多くの企業では採用した社員が価値を発揮するようになったら、その社員を放置しがちになり、採用予算や教育予算ばかりにコストを割いてしまうケースが多く見られます。

 

そういう人材にこそ投資し、優秀な人材、価値を発揮する人材と共に、より長くよりパーパス実現に向けて価値を発揮できるように予算を割くべきであると考えます。揚羽ではこれを定着予算🄬という概念で提唱しています。

 

人的資本経営の情報開示項目の組織文化の中でも、「定着率」は重要な概念となっています。価値を発揮した人に対し、有限であるリソースの中、かけるべきところに投資する。人事の予算の在り方を見直す必要があるのです。

 

※定着予算🄬、定着コスト🄬は株式会社揚羽の登録商標です。

ステップ4 施策実施

人的資本経営の施策を実施するにあたり、種類は大別して2つあります。

 

挑戦の文化が在りたい姿である場合、その挑戦を評価制度に組み込んだり、賞賛するイベントを実施するなど、仕組みにすることで日常化する、Functionalな施策。挑戦を、従業員の心に訴えかけ、何のために日々仕事をしているかを振り返るEmotionalな施策。この2つをうまく絡めながら施策を設計することが重要です。

 

また、ターゲットの考え方として、組織を改革していく、人材に投資しチャレンジしてもらうことが人的資本経営の本質と定義しましたが、実際にはなかなか動けない部分もあるのが実情です。

 

しかし、組織に新たな波を作るときは、既に取り組んでいる人(イノベーター)たちと、やりたいと思っていたがチャレンジできていなかった人(アーリーアダプター)にフォーカスをあて、従業員を巻き込み上位16%にアプローチできると社全体が改革へと向かうという考え方のイノベーター理論があります。この理論は、インナーブランディングでも非常に関係のある理論です。この理論を踏まえた上でのターゲット設定がカギとなります。

 

人的資本経営 イノベーター理論

 

ステップ5 効果検証

効果検証は、AS IS、TO BE、KPIを基に、施策の結果をサーベイなどで調査することが考えられます。ここで重要なのは、何を用いて効果検証するかより、組織の在りたい姿に対し、検証結果を基に施策を練り直し、スピード感をもって改善策を繰り返し行うということです。

人的資本経営の本質

人的資本経営は2020年に差し掛かり着目され始めました。環境問題をはじめとする世界全体が抱える課題に対し、企業がどうあるべきかを考え、サステナビリティに着目した「超長期のビジョン・パーパス」を掲げる企業が急増した背景があります。

 

しかし、今までの事業の延長では超長期ビジョン・パーパスの達成は難しく、ただ目標を掲げるだけでは差別化を図ることはできません。

 

企業がどのように変化し、目標達成に向けて成長していくかが「各ステークホルダーから」重視される要素となってきています。超長期ビジョン・パーパス実現に向けてどのような企業経営を行うか、それこそが人的資本経営の本質であると言えます。

人的資本経営でめざすべき姿とは?

超長期的パーパスを掲げる企業が増えていますが、それだけでは差別化はできません。掲げたパーパスに対して「どのようなプロセスで達成に向かうのか」が人的資本経営においては重視されます。

 

では、それを示すために何を発信すれば良いのでしょうか。

 

2018年12月に国際標準化機構(ISO)が発表したISO30141(人的資本に関する情報開示のガイドライン)で定められた情報開示項目では、コンプライアンスと倫理やダイバーシティ、スキルと能力など、大きく11の情報開示項目が設けられていますが、中でも組織文化は優先度が高い項目です。21年6月に設立されたValue Reporting Foundation のレポートにおいても、組織文化が最優先項目として設定されています。

 

では、どんな組織文化が人的資本経営において重要になるか。それは「長期ビジョンやパーパスの実現に向かって挑戦し続ける組織文化」です。超長期ビジョン・パーパスがあふれかえる時代、どの企業も既存ビジネスの延長上では実現できない目標を掲げています。

 

目標達成のために、企業はより一層イノベーションが欠かせなくなってきます。イノベーション・組織変革を実現する上で、根底には「挑戦し続ける組織文化」が欠かせません。

 

つまり、人的資本経営において「挑戦し続ける組織文化」がいかに企業に根付いているかを株主に開示することが重要になります。

まとめ

人的資本経営は、コーポレートブランドにとって、超長期ビジョン・パーパスを実現するための手段であり、そこには挑戦し続ける組織文化が欠かせません。そのためには、新たな人材に対する投資だけでなく、今いる優秀な人材と共に長く挑戦するために、定着予算🄬のかけ方も非常に重要となります。

 

ぜひこの機会に、揚羽のブランディング支援を軸に、人的資本経営への取り組みをご検討してみてはいかがでしょうか。

 

株式会社揚羽では、コーポレートブランディング支援、サステナビリティブランディング支援、インナーブランディング支援、採用ブランディング支援といった、さまざまなブランディング支援を実施しています。

 

揚羽はこれまで多くの企業ブランディングに携わり、さまざまな実績を残してきました。ステークホルダーからの支持を集めて企業価値を上げる「コーポレートブランディング支援」、SDGsに向かう企業の差別化を支援する「サステナビリティブランディング支援」、経営理念・ブランドを従業員が体現する組織へ導く「インナーブランディング支援」、データと実績に基づいたブランディングで「選ばれ続ける企業」を実現する「採用ブランディング支援」など、さまざまな支援方法で企業をサポートします。

 

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