2026年1月15日(木)に『組織カルチャーが変わるリブランディング -社外認知と社内変革を導くメソッド-』と題したセミナーを開催しました。株式会社揚羽のシニアプロデュース/ブランディングコンサルタント 佐藤 考良が登壇し、社員の意識改革や行動変容まで促していくプロセスと実行手法について解説しました。
本セミナーレポートでは、「自社の価値が正しく伝わらない」という課題を整理し、リブランディングを経営戦略として成功させるための視点、そして具体的な実行プロセスについて、詳しく解説します。
経営課題としてのリブランディング:なぜ今、ブランドの再定義が必要なのか
多くの企業が直面する「自社の価値が正しく伝わらない」という課題ですが、その本質的な解決策となるのが「リブランディング」です。しかし、リブランディングとは、単にロゴを作り直したり、新たなメッセージを掲げたりすることなどの「表面的な刷新」ではありません。
まずは、会社の価値が正しく伝わらない理由や企業ブランド、リブランディングとは何かについてみていきます。
会社の価値が「正しく伝わらない」理由
企業の価値が正しく伝わらない最大の原因は、自社が信じている価値と、市場や顧客、あるいは求職者といった外部が認識している価値との間に生まれる「ギャップ」です。
たとえば、自社では「技術力があり誠実な会社」と信じていても、社外からは「古臭くて変化に乏しい会社」と見られていれば、優秀な人材は魅力を感じず競合他社へと流れてしまいます。
また、革新的な事業を展開していても、古いイメージが先行していれば、株価は本来の価値を反映しないでしょう。
「なぜ優秀な人材が競合に流れてしまうのか」「なぜ自社の価値が市場評価や株価に反映されないのか」
これらの課題は、単なる採用手法やIR施策の問題ではなく、より根深い経営課題に起因しています。
具体的には、経営陣や社員が誇りを持って語る強みや想いが、社外には十分に伝わっていない。この「実態」と「外部評価」の間に生じたズレこそが、この経営課題の根幹にあります。
ブランドという「無形資産」と事業の乖離
ブランドは、ロゴやスローガンといった表層的なものではありません。企業が何を大切にし、どのような価値を提供してきたかという歴史や想い、そして社員一人ひとりの行動の積み重ねによって形成される「無形資産」です。
しかし、事業拡大や環境変化の中で、ブランドと現実の事業・組織の姿が少しずつ乖離してしまいます。その結果、自社が信じる価値と市場が認識する価値の間にギャップが生まれ、企業本来の魅力が正しく届かなくなってしまうのです。
リブランディングは「未来への指針を再設定する」経営手法
こうしたギャップを解消するための手段がリブランディングです。単にロゴやビジュアルを刷新することではなく、ステークホルダーとのコミュニケーション全体を再設計する取り組みであり、企業がどこへ向かうのかを示す「指針」を改めて設定し直すことといえます。
自社が「何者であり、どこへ向かおうとしているのか」を明確にし、それをあらゆる接点で一貫して伝えていくことで、社外の認知だけでなく、社内の意識や行動の変容を促します。
揚羽が定義するリブランディング
揚羽では、リブランディングを「組織の成長から始まり、事業の成長へとつなげる循環を生むトリガー」と定義しています。
社外からの評価が高まることで社員の誇りとなり、その誇りが自信や行動の変化につながり、さらにブランド価値を高めていく。この好循環を生み出すきっかけこそが、リブランディングであると考えています。

リブランディングを検討すべき7つのサイン
リブランディングは、会社の過去を尊重しながら現在を見つめ直し、そして未来への方向性を定める重要な経営戦略です。
以下の項目に一つでも当てはまる場合は、リブランディングが有効な経営戦略となり得ます。
- 事業とイメージの乖離
- 価格競争の課題
- 人材獲得の課題
- 経営体制の変化
- 組織の再構築(企業の合併・経営統合、ホールディングス化など)
- 事業の成長・拡大
- 企業の節目(周年)
リブランディングを成功に導く3つの視点
リブランディングを単なるイメージチェンジで終わらせないためには、「事業戦略」「組織開発」「無形資産(投資)」という3つの視点からプロジェクトを設計する必要があります。
1.事業戦略の観点:ブランドを「事業成長」につなげる
リブランディングの最終目標は、事業の成長に直結させることです。取り組むにあたり、まずは以下の視点から自社の現状を把握していきましょう。
- 自社ブランドは、目指す未来の姿にふさわしいか
- 顧客は社名から何を連想するのか
- 今の市場の「当たり前」は、本当に自社の強みを活かせる領域か
これらを問い直し、ブランドを事業の牽引役へと変えていくことがポイントです。
2.組織開発の観点:ブランドを「組織文化」として定着させる
ブランドを体現するのは、現場の従業員です。
従業員が自社の魅力について自信を持って語れる状態かどうかが、ブランドの強さを測る重要な指標です。目指すブランド像と評価制度、意思決定の基準が矛盾していないか、経営層自身が自らの言葉でリブランディングの必要性と未来像を語れているかが重要です。
3.無形資産(投資):未来への「投資」として捉える
ブランドは無形資産であり、成果が出るまでに時間とコストがかかります。これを単なるコストと捉えるか、未来への投資と捉えるかで、経営判断は大きく変わります。
3年後にどのような状態になっていれば成功と言えるのかを定義し、明確な指標を設定して取り組むことが重要です。
成功に導くリブランディングの体系的プロセス
リブランディングを成功させるためには、適切な「進め方」と「伝え方」のプロセスが重要です。ここでは、リブランディングを成功に導くための体系的プロセスを解説します。
第一歩は理念の再定義
リブランディングの第一歩は、理念を見つめ直し、新たに策定することです。具体的には、以下のポイントを再定義していきます。

- パーパス(社会的存在意義):自分たちは「何のために」存在するのか
- ビジョン(ありたい姿):中長期的にどこを目指すのか
- バリューズ(大切にする価値観):自社らしい行動指針や個性、人格
このとき、既存の理念をすべて捨てるのではなく、「承継すべき要素」と「これから求められる革新的な要素」を整理し、統合させることが重要です。これを一言で表す「ブランドメッセージ」を作成することで、新しいアイデンティティを確立します。
リブランディングで変えていくこと:コーポレート・アイデンティティ(CI)の3要素
リブランディングで変革する対象は「コーポレート・アイデンティティ」であり、具体的には以下の3要素です。

これら3つのアイデンティティは、それぞれが密接に関連するものです。核となるMind Identityから再定義し、そこを基準に行動、見え方を変えていくことが基本のプロセスとなります。
次に事業のあり方や行動を変えていく
理念を再定義した後は、事業のあり方や行動を変えていくプロセスに移ります。
策定した新理念体系を経営方針や経営計画に落とし込み、さらにその先の成長戦略を描いていくことで、具体的な変容を促します。
理念を体現するのは一人ひとりの従業員です。理念の浸透と日々の行動を通じて、全員が新たなブランドの体現者となることを目指します。

経営からのメッセージ発信や重要プロジェクトの広報において重視すべきポイント
リブランディングのプロジェクトを始動する際、経営陣は以下の3点を従業員に伝えることが求められます。
- なぜ取り組むのか(Why) 今回のプロジェクトを行うに至った背景、何を見据えて取り組むのか
- 何を変えるのか(What) プロジェクトを通じて、結果的に何がどう変わっていくのか
- 経営の想い(Will) プロジェクトを推進する経営の想いや覚悟
特に、「なぜ(Why)」から伝えることが、従業員の納得感や共感の醸成、変化への覚悟につながります。イメージを伝えることで具体的な行動を促しやすく、経営の想いや覚悟を示すことが従業員たちの心を動かし、リブランディングへの賛同を得られます。
なお、広報においては従業員にリブランディングのプロセスを随時伝えることが重要です。「120%の完成度でたまに発信する」よりも、「80%のクオリティでも高い頻度で発信する」方が、従業員の関心を維持し共感を醸成する上でも有効です。
リブランディングを体系的に進める5つのステップ
ここからは、リブランディングを形にするための具体的な5つのステップをご紹介します。
- Step1:体制構築と現状分析
- Step2:コーポレート・アイデンティティの定義
- Step3:クリエイティブ開発
- Step4:ローンチ(発表)
- Step5:浸透・育成:ブランドを守り、育て、改善し続ける
Step1:体制構築と現状分析
リブランディングは周到な準備から始まります。Step1は、プロジェクト体制を整え、客観的な事実に基づいて進むべき未来を描くための重要なプロセスです。
【具体的にやること】
- ブランド推進チームの発足:経営層だけでなく、部署を横断した有志チームを発足。
- 客観的な調査・分析:顧客調査、従業員インタビュー、競合分析を実施。売上などの定量データと、ブランドへの想いといった定性データの両面から「現在地」を把握する。
- ゴールの具体化:分析結果に基づき、測定可能なKGI/KPIを設定する。
Step2:コーポレート・アイデンティティの定義
Step2は、ブランドの「核」を言語化する最重要プロセスです。言語化されたブランドの核は、従業員が日々の判断や行動の拠り所になり、あらゆる企業活動に一貫性をもたらす源泉となります。
【具体的なステップ】
- 提供価値の洗い出しと深掘り:社長や社員インタビューを通じて、企業の強みや信念を深掘りする。
- ブランドストラクチャーの作成:情報を構造化し、社会への「提供価値(コアバリュー)」を明確にする。
- アイデンティティの言語化:コアバリューを元にミッション・ビジョン・バリューを定義する。
ポイントとなるのは、「3.アイデンティティの言語化」の過程で従業員を巻き込むことです。このステップから従業員を巻き込むことで、参加意識を高め、強固なブランド形成につながります。
Step3:クリエイティブ開発
核となる理念を、目に見える形に落とし込むプロセスです。既存のブランド資産を活かしつつ、変えるべき点と維持すべき点を見極めることがポイントです。
【クリエイティブ例】
- 言語要素(バーバル・アイデンティティ):社名、スローガン、ストーリー、トーン&マナーの規定など
- 視覚要素(ビジュアル・アイデンティティ):ブランドロゴ、カラー、フォント、写真のスタイルなど
言語要素ではブランドの個性を言葉で規定し、視覚要素ではブランドの世界観を一貫したビジュアルで表現していきます。
Step4:ローンチ(発表):社内外に戦略的に展開
新しいブランドを世に送り出すステップです。入念な準備と、戦略的な順番での発表が成功を大きく左右します。
【具体的なフェーズ】
- インナーローンチ(社内発表):社外に発表する前に、必ず従業員へのお披露目を行う
- アウターローンチ(社外発表):Webサイト、SNS、広告、プレスリリースなど、複数のチャネルを連動させて一斉に発信します。
ここで最も重要なポイントとなるのは、フェーズ1の社員へのお披露目です。社外発表の前に、経営トップ自らの言葉でリブランディングに込めた想いを語り、従業員が新ブランドの「一番のファン」となることを目指しましょう。
Step5:浸透・育成:ブランドを守り、育て、改善し続ける
ブランドは「発表してから」が本番です。一過性のプロジェクトで終わらせず、策定したブランドを守り、育て、企業文化そのものへと昇華させていく継続的な活動が続いていきます。
【具体的にやること】
- ブランドガイドラインの策定と運用:ロゴの使い方や色の規定など、ブランドの一貫性を保つためのルールを策定・共有
- 効果測定と改善:3ヶ月後、6ヶ月後、1年単位で定期的に効果を測定し、目標とのズレは軌道修正を行う
- 組織文化への醸成:人事評価制度や研修制度を見直し、ブランド体現者(従業員)が正しく評価される仕組みを作る
リブランディングの成果を測る上では、以下の4つの領域での指標設定が有効です。
- 顧客ロイヤリティ
・NPS®(ネット・プロモーター・スコア)の向上
・LTV(顧客生涯価値)の向上 - 社員エンゲージメント
・エンゲージメントサーベイのスコア向上
・離職率の低下 - 採用競争力
・採用単価(コスト)の削減
・応募者数の増加 - 事業収益性
・高付加価値商品の売上比率向上
・平均顧客単価の向上
組織文化の醸成に関して、とくに人事評価制度は行動変容に大きく影響するため、重要度が高いポイントです。また、研修制度は具体的な行動変容につなげるためのバックアップに有効な取り組みとなります。
リブランディングに失敗しないための3つの鉄則
最後に、これまで数多くのリブランディングを支援してきた上で見えてきた、プロジェクトを成功させるための「3つの鉄則」をお伝えします。
鉄則1:リブランディングは「経営の意思決定」そのものである
リブランディングは、会社の未来を左右する経営改革です。担当部署への「丸投げ」は、最大の失敗要因となります。経営陣が最後まで当事者として関わり、リーダーシップを発揮することが成功の絶対条件です。
鉄則2:ブランドは「社内から」生まれる文化である
外側をどんなに綺麗に飾っても、従業員の行動が伴わなければ「実態のないブランド」として見透かされてしまいます。まずは社内浸透を優先し、従業員一人ひとりをブランドの体現者に育てることから始めましょう。
鉄則3:ブランドは「一過性のプロジェクト」ではなく、「継続的な経営資産」である
ブランドは、市場や顧客との関係を通じて日々変化し、成長し続けるものです。「作って終わり」にせず、中長期的な視点で育て、定期的な効果検証を重ねながら改善していくことが重要です。
効果が感じられるまでには時間がかかります。「未来への投資」という視点を持ち、じっくりと育てていくことが求められます。
本セミナーの録画を公開しております。視聴ご希望の方は、以下のボタンよりお申込みください。お申込み後、すぐに視聴いただけます。









