2025年12月3日(水)に『Webサイトを戦略資産へ -中計を「言語化・実装」し、企業価値を伝えるプロセス-』と題したセミナーを開催しました。株式会社揚羽のビジネスプロデュース部プランニンググループ 昆野玲と、Webプランナー/ディレクター 内野正喜が登壇し、Webサイトが担うべき役割や現状の課題、その解決策のキーポイントについて解説しました。

本セミナーレポートでは、多くの企業が抱える「経営戦略とWebサイトの断絶」という課題から、その要因となる構造的な背景、スローガンをステークホルダーの心を動かす物語へと昇華させる「言語化プロセス」、そしてWebサイトを企業価値を高める「戦略資産」として定着させるための「実装・運用」までを、詳しく解説します。

Webサイトの不備が招く「深刻な機会損失」

現代の経営において、Webサイトは単なる「広報媒体」ではありません。経営戦略を実行するための「最前線の拠点」です。しかし、多くの企業では、経営層が描く優れた戦略や中期経営計画がWebサイトという出口で正しく表現されていません。その結果、本来得られるはずの成果を逃している「機会損失」の状態に陥っています。

戦略が「実行」されない=「存在しない」のと同じ

企業がどれほど優れた中期経営計画やパーパス、MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)を策定していても、ステークホルダーが頻繁に接触するデジタル接点に反映されていなければ意味がありません。社外からは「存在しないもの」として扱われてしまうからです。

私たちはこの状態を「戦略とデジタルの断絶」と呼んでいます。これは単なるマーケティングの問題に留まらない、深刻な経営課題といえます。

この断絶が生じているサイトは、いわば「365日24時間、機会損失を発生させ続ける装置」となってしまっています。戦略を具現化する手法のひとつであるデジタル表現を疎かにすることは、経営の実行力を低下させる要因となります。

戦略とデジタルにおける「3つの断絶」

なぜ、多くの企業でこうした「戦略とデジタルの断絶」が起きてしまうのでしょうか。その背景には、大きく分けて3つの構造的な要因が存在します。

① 意識の断絶

経営層と現場の間で、Webサイトに対する認識が食い違っている状態です。

  • 経営層:Webサイトを単なる「コスト」や「事務的な窓口」と捉えている。
  • 現場:SEOやアクセス数といった局所的な「戦術」に固執してしまう。

経営側が、本来Webサイトが担うべき「経営上の目的」を示さず、現場は手法だけを追いかけた結果、「誰に対して何を伝えるべきか」が不明確な、中身のないサイトが生まれてしまいます。

② 壁の断絶

各部門が自分たちの都合だけで「部分最適」を求めた結果、サイト全体の一貫性が失われるケースです。

IR、採用、製品紹介などの各ページがバラバラのトーンで作成されることで、ユーザーにとっては「ツギハギの窓口」に見えてしまいます。これでは、企業として最も伝えるべき重要なメッセージ(パーパスや強み)がステークホルダーに正しく届きません。

③ 実行の断絶

中期経営計画では「DXの推進」や「サステナビリティ経営への転換」を掲げているにもかかわらず、Webサイトの構造やコンテンツが数年前のまま更新されていない状態です。

これは、「口では変革を唱えているが、実際には何も変わっていない(不実行)」という事実を、対外的に証明しているようなものです。その結果、企業の信頼を根底から揺るがすリスクが生じます。

ステークホルダーがWebサイトに向ける「4つの厳しい視線」

Webサイトの不備は、あらゆるステークホルダーからの評価に直結します。現代のステークホルダーは、単に「きれいなデザイン」を求めているのではありません。彼らはサイトを通じて、その背後にある企業の「本気度」を見抜こうとしています。

①投資家の視線(IR)

投資家は今、企業の「未来の価値」を測る指標として「人的資本」への投資実績を重視しています。スローガンだけで「人を大切にする」と謳っていても、具体的な施策や、従業員の活躍ぶりがWebサイトに掲載されていなければ、投資家は「実行力がない」と判断します。

実態の伴わないスローガンだけのサイトは「IRリスク」そのものです。株価や資金調達にも影響を及ぼす可能性があります。投資家が探しているのは、美辞麗句ではなく、戦略が確実に遂行されているという「証拠」なのです。

②求職者の視線(HR)

採用(HR)において、Webサイトは重要なツールです。新卒・中途を問わず、求職者の約80%が応募前にWebサイトを確認しているというデータもあります。

求職者が見たいのは、掲げられたMVVそのものではなく、それが日々の業務の中でどのように実行されているかというポイントです。Webサイトの情報と実態がズレている「言行不一致」な状態は、求職者に強い不信感を与え、採用機械の損失につながります。

③顧客の視線(BtoB)

BtoB取引において、Webサイトは顧客が発注を決める前の「信頼の最終確認の場」として機能します。

  • デザインが古い:「体質が古く、変化に対応できない会社」
  • 操作性が悪い:「顧客志向ではない会社」
  • 情報が古い:「自社の将来やサービスに投資していない会社

Webサイトへの投資を惜しむ姿勢は、顧客に対してネガティブなメッセージとして伝わってしまうリスクがあります。

④ 従業員の視線(inner)

見落とされがちですが、最も身近なステークホルダーである従業員の視線も重要です。「DX」や「ESG」を掲げながら。自社サイトが旧態依然としたままであれば、従業員は「会社には変革の意思がない」と感じてしまいます。自慢できないWebサイトは、リファラル採用やSNSでのシェアを阻害するだけでなく、従業員のロイヤルティ(忠誠心)低下を招く要因にもなり得ます。

断絶を解消する第1の鍵|スローガンを「生きた物語」へと変える「言語化」

戦略とデジタルの断絶を解消するためには、単にWebサイトのデザインを新しくするだけでは不十分です。問題の本質は、デザインの前段階にある「経営の言語化」の失敗にあります。

抽象的な言葉は人の心を動かさない

多くの企業のWebサイトに掲載されているMVVは、抽象的な言葉が並んでいるだけで、誰の心も動かさない「死んだ言葉」になりがちです。

真の「言語化」とは、それらのスローガンを社員一人ひとりの「生きた経験」や「具体的なアクション」に紐づけ、ドキュメンタリー形式の物語として語り直すことです。

従業員がどのように壁を乗り越え、戦略を具現化しているのか。そのプロセスを可視化することこそが、投資家や求職者にとって最も説得力のあるコンテンツとなります。

ワークショップを通じて「自社の強み」を抽出するフロー

言語化を成功させるためには、プロジェクトの初期段階で中期経営計画やMVVを深く再認識する場を設けることが不可欠です。

揚羽では、インタビューやワークショップ、アンケートを通じて「強みの抽出プロセス」を推奨しています。

  • ① 言語化ワークショップ:人事、広報、経営企画といった部門横断のメンバーが集まり、自社のカルチャー、事業の強み、将来のありたい姿を徹底的に議論し、共通認識を作ります。
  • ② キャッチコピーの策定:ワークショップで生まれた熱量を凝縮し、今後の企業活動を象徴する言葉へと昇華させます。
  • ③ アウトプット:策定した言葉をコーポレートサイトのメインメッセージとして掲載し、ステークホルダーへ提供価値としてを発信します。

このプロセスを経ることで、戦略とサイト表現のズレがなくなり、関わるメンバー全員が自社の言葉を「自分ごと化」して発信できるようになります。

意思決定者を巻き込む「熱量」の共有

このフェーズで最も重要なポイントは、ワークショップに「意思決定者(経営層)」を巻き込むことです。

担当者レベルだけで議論を進めても、最終確認で経営層に「イメージと違う」と覆されてしまえば、それまでの議論の熱量は失われ、プロジェクトは振り出しに戻ってしまいます。

最初から経営層と共に議論し、プロセスを共有することによってのみ、戦略とデザインが真に連動したアウトプットが可能になります。

断絶を解消する第2の鍵|サイトを戦略資産として定着させる

言語化の次に来るのが「実装」です。ここでの実装とは、単にWebサイトを制作・公開することを指すのではありません。戦略を社会に向けて宣言し、継続的に実行し続ける「仕組み」を構築することを意味します。

「納品」はゴールではない

きれいなサイトを制作会社に「納品」してもらうだけでは、本質的な課題は解決しません。

運用更新の仕組みが整っていなければ、数年も経てばまた実態と乖離したサイトに戻ってしまうからです。

真の実装とは、中期経営計画が更新されたときだけリニューアルするのではなく、常に企業の状況変化に合わせてサイトに反映し続け、常に最新の戦略を反映できる組織体制を作ることです。

部門横断プロジェクトを推進する

この継続的な運用を実現するためには、従来のような「広報部だけ」「IT部だけ」といった縦割りでの制作体制を見直す必要があります。

経営企画、人事、営業、そして経営層が初期段階から関与し、「部門横断プロジェクト」として推進しましょう。

「誰に、何を、どのように伝えるのか」というゴールを全社視点で共有し、各部門の知見を統合することで初めて、企業価値を最大化するサイトが実現します。

伝わらないサイトから、「ブランドプラットフォーム」へ

理想的なコーポレートサイトとは、あらゆるステークホルダーに対して一貫したブランド価値を発信する「ブランドプラットフォーム」です。

顧客だけでなく、投資家、金融機関、求職者、そして従業員に対し、貴社の現状と戦略を伝え、信頼と期待を獲得できる状態を目指すべきです。

そのために目指すべき姿は、以下の5つの姿に集約されます。

  • ① 差別化:他社とは異なる「自社の強み・らしさ」をはっきりと浮かび上がらせている
  • ② 方向性:経営戦略として「自社が進むべき道(長期的成長)」を指し示している
  • ③ 選好性:ターゲット(顧客)が他社ではなく自社を選ぶ明確な理由となっている
  • ④ 求心力:従業員がその会社で働く理由や誇りとなっている
  • ⑤ 社会性:社会や世の中の想いと共振している

これらを満たすコーポレートサイトは、単なる情報の置き場ではなく、企業の未来に対する「期待と信頼」を創出するコミュニケーションツールとして機能します。

Webサイトリニューアルを成功させるための具体的なステップとポイント

Webサイトの見直しは、単に「ページを作る」作業ではありません。それは「経営戦略」と「組織のあり方」を再確認し、企業価値を最大化させるための、クリエイティブな経営プロセスそのものです。

プロジェクトを成功に導くためには、以下の手順とポイントを押さえる必要があります。

現状調査と分析

最初に行うべきは、現在のサイトがステークホルダーからどう見られているかの「現状調査」です。アクセス解析やユーザーインタビューを通じて、「何が伝わっていて、何が伝わっていないのか」を客観的に把握します。

重要なのは、データに基づく「現状」と、経営戦略に基づく「理想」の距離を測ることです。このギャップを明確にすることから、すべての設計が始まります。

社内調整の壁を超えるための2つのポイント

プロジェクト進行の最大のボトルネックになりがちなのが、役員の説得や部門間の利害調整といった「社内調整」です。円滑な合意形成を測るために、揚羽では以下の2点を推奨しています。

段階的な合意形成

いきなり完成形を見せるのではなく、要所要所で「一緒に決める場」を設けます。ワークショップや定例会議での段階的な確認を経て、組織全体としての合意を積み上げていきましょう。

RFP(提案依頼書)の事前作成

リニューアルの背景、解決すべき課題、達成目標、予算、納期などを整理してドキュメント化します。これを主要メンバーや関係者と事前にすり合わせることで、プロジェクトの方向性のブレを防ぎ、制作パートナーとの連携もスムーズになります。

まとめ

本セミナーでは、経営戦略とWebサイトの間に生じる「断絶」のリスクと、それを解消するための「言語化・実装」のプロセスについて解説しました。

Webサイトは今や、企業の戦略実行力を証明し、投資家・顧客・求職者・従業員というすべてのステークホルダーとの信頼を築くための「戦略資産」です。 「形だけのスローガン」や「更新されないページ」による機会損失を止め、貴社の真の価値をデジタル上で正しく表現することが求められています。

株式会社揚羽では、経営層を巻き込んだワークショップによる「言語化」から、戦略を体現するWebサイトの「制作・実装」、そして継続的な「運用」までを一気通貫で支援しています。 「中計の内容がサイトに反映されていない」「リニューアルの社内調整がうまくいかない」とお悩みの方は、ぜひ一度ご相談ください。


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