ブランディングにはさまざまな手法がありますが、近年注目を集めているのが「パーパスブランディング」です。今回は、このパーパスブランディングとは何かをふまえ、従来のブランディングとの違いや注目される理由、効果や取り組み事例をご紹介します。

パーパスとパーパスブランディングの基本を理解する

現代のブランディング戦略において重要な概念となる「パーパス」と、それを具体的に企業価値向上へつなげる「パーパスブランディング」。

まずはこれらの基本的な定義と、従来のブランディング手法との違いを明確にしていきましょう。

企業の存在意義を示す「パーパス」とは何か?

そもそもパーパス(purpose)とは、「目的」「意図」という意味を持つ言葉です。マーケティングにおいては「存在意義」「志」を指し、近年その重要性が注目されています。

これは、企業が社会でなぜ存在し、何のために事業を行うのか、という根本的な問いへの答えであり、企業活動の根幹をなすものです。ミッション(使命)、ビジョン(目指す姿)、バリュー(価値観)などと関連しますが、パーパスはそれらを包含し、企業の方向性を示す役割を果たします。持続可能性への関心が高まる今、明確なパーパスは社会からの信頼獲得に不可欠です。

パーパスを軸にする「パーパスブランディング」の定義

パーパスブランディングとは、企業が定義した存在意義(パーパス)を軸に活動し、提供価値を社会に広め、共感を通じてブランド価値を高める手法です。パーパスを軸とした経営は「パーパス経営」と呼ばれます。ブランディングで重要となる企業理念やビジョンなどは、パーパスに含まれる要素です。

従来のブランディングとの違い

主な違いは、戦略の主軸です。従来のブランディングは商品・サービスの価値提供が主軸ですが、パーパスブランディングは、企業の存在意義や社会貢献を伝え、共感を得てブランド価値を高めていきます。

さらに、従来のブランディングとは下記3つの観点でも違いがあります。

従来のブランディング

パーパスブランディング

目的 競争優位性を獲得し、利益につなげる 自社に対する共感や信頼を社会に広める
訴求対象 直接的に利害関係のあるステークホルダー 直接的な利害関係にかかわらず、社会全体
訴求内容 企業の提供する商品やサービスが顧客や取引先にどれほど価値があるか 顧客や取引先を含む社会において自社がどのような価値を提供するか

従来のブランディングが主に利害関係のある「個人」に注力するのに対し、パーパスブランディングは企業・従業員・社会の「三方良し」を目指す活動といえます。

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なぜ今「パーパス」と「パーパスブランディング」が注目されるのか?その理由

企業が自らの「パーパス」を問い直し、それを軸とした「パーパスブランディング」に取り組む動きが加速しています。その背景にある3つの理由を紹介します。

理由1:サービスのコモディティ化と「パーパス」による新たな差別化

コモディティ化とは、競合との差別化が困難な状態のことです。近年、多くの市場で商品・サービスのコモディティ化が起こっています。

商品やサービスの品質、機能性などの差別化が困難な中、消費者に選んでもらうためには、新たな差別化要素が必要です。そこで注目されたのがパーパスです。商品やサービスにとどまらず、企業自体が社会にどういった価値を提供しているかを訴求し、消費者から共感や賛同を得ることでファン化を図ることがパーパスブランディングの狙いです。近年注目度が高い、SDGsやESGの取り組みもこれに関連します。

理由2:消費者の価値観の変化と「パーパス」への共感

現代は消費者の価値観が大きく変化し、市場の移り変わりも早いです。モノ消費からコト消費へとシフトしたことで、物質的な商品よりも、経験や体験にお金を払う傾向が強まっています。

良い商品・サービスを提供するだけでは利益につながりにくいのが、現代のマーケットです。商品・サービスが良いことを前提に、消費者が「どのような価値が得られるか」「なぜ購入するのか」を明確にしなければ、類似商品・サービスに埋もれてしまいます。

つまり、マーケティングにおいて「What・How」を考えるだけでは不十分であり、「Why」の部分を明確にする必要があります。この「Why」はパーパスである「自社の存在意義」に大きく関わります。また、消費者は、その企業のパーパスに共感できるかどうかを、購買選択の重要な基準の一つとし始めています。

理由3:投資家の評価基準の変化と「パーパス」を重視する潮流

これまで投資家が重視してきたポイントは「企業の収益性」でした。しかし現代は、短期的な収益性だけでなく、将来性や成長性が重視されます。その上で、SDGsやESGなどの社会課題に対して積極的に取り組んでいるかに着目されます。明確なパーパスを掲げ、社会課題の解決に貢献しようとする企業は、持続的な成長が期待できると投資家から評価される傾向が強まっています。

利益重視の企業は中長期的な成長性の面でリスクがあるとみなされ、投資家からの支持が得られにくい傾向にあります。資金調達が滞れば企業力は低下し、良い商品・サービスの開発や品質維持も難しくなります。

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パーパスブランディングがもたらす3つの具体的な効果

企業がパーパスを明確にし、それに基づくブランディングを行うことで、具体的にどのような効果が期待できるでしょうか?主な3つの効果をご紹介します。

効果1:パーパスによる自社のアイデンティティ確立

パーパスを設定することで自社が実現すべき存在意義が明確となり、実現に向けて一貫した行動が取れるようになります。パーパスブランディングに取り組む過程で独自のアイデンティティが確立され、それが競合との新たな差別化ポイントとなり、ブランディングの質が向上します。

効果2:パーパスを起点としてステークホルダーからの共感・信頼獲得

企業のパーパスに根ざした事業活動やコミュニケーションを通じ、社会にプラスの影響を与える存在だと広く認知されれば、消費者や取引先、顧客、投資家といったステークホルダーから共感や信頼が得られます。企業イメージの向上は、商品やサービスの価値向上にもつながります。

また、共感や信頼によって企業やブランドの支持者が増えることは利益増にもつながり、結果的に経営が安定します。さらに、共感が得られている状態では、新たなビジネス展開時にも、その信頼を基盤に消費者に選ばれやすくなります。

効果3:パーパス浸透により従業員のエンゲージメント向上

パーパスブランディングでは、社内にも企業の存在意義を広めます。自社の社会における存在意義や提供する価値が明確になることで、従業員は自社に誇りを持ち、仕事に対するモチベーションが高まる効果が期待できます。

また、明確なパーパスは従業員の働く目的ややりがいを生み出し、エンゲージメントも高めます。結果として、生産性や業務効率が向上し、企業力のさらなる強化につながるのです。

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先進企業のパーパスブランディング取り組み事例

パーパスブランディングでは、具体的にどのようなことに取り組むのでしょうか。ここでは、4社の取り組み事例をご紹介します。各社が掲げるパーパスと、それをどのように事業活動やブランドコミュニケーションに結びつけているかにご注目ください。

ソニーグループ株式会社:『感動』を届けるパーパス

パーパス経営の先駆的存在として注目されるソニーグループ。2019年1月に「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」というパーパスを発表し、あわせて「夢と好奇心」「多様性」「高潔さと誠実さ」「持続可能性」の4つのバリューも策定しています。

事業領域の多様化により好調な業績を実現する中、組織の一貫性を保つ上でパーパスが機能しています。パーパスで言及している「世界を感動で満たす」ためには、多様なパートナーとの共創が不可欠とし、その取り組みを全従業員が知る機会として、自社ホームページ内にて『SESSIONS』対談シリーズを掲載しています。

ソニーグループポータル『SESSIONS』対談シリーズ

花王株式会社:『共生』を目指すパーパス

花王では、パーパスとして「豊かな共生世界の実現」を策定。持続可能で豊かな共生世界を実現することを使命とし、サステナビリティ以外の退路を断ち、「未来のいのちを守る会社」として人、社会、地球に貢献することを目指しています。

花王が展開する各ブランドでは、パーパスに基づいたブランド・パーパスを掲げ、消費者一人ひとりとその家族、コミュニティ、社会の課題解決を目指して活動しています。

ハイジーン&リビングケア事業

マジックリン 生活空間の衛生不安を取り除き、誰もが、おうちで安心して、大切な人と過ごせる社会にする。
アタック まっさらな衣類で新しい1日をはじめよう。
キュキュット 家族みんなが食まわりの家事を分担し、もっと前向きで笑顔あふれる社会を実現する。
ロリエ 生理現象をとりまく環境を より良くしていく。

ヘルスケア&ビューティー事業

ビオレ 肌は暮らしを支えるヒューマン・インターフェイス。肌を通して「人と人」「人と社会」のつながりを育む。
ピュオーラ 誇れる未来のために、36500日のオーラルケアにワクワクと手ごたえを

ライフケア事業

ヘルシア 生活に取り入れやすい健康習慣の提供により、人々が、いつまでも好きなことを楽しめる毎日を、自ら創造できる社会を実現する
花王プロフェッショナル・サービス それ以上を生み出す、清潔提案を。

化粧品事業

KANEBO I HOPE.美ではなく希望を語る
キュレル 乾燥性敏感肌で悩む人のQuality of Life向上のためにできるすべてのお役立ちとなる
MOLTON BROWN(モルトンブラウン) 我々のブランド、顧客、従業員、地球にとって、信頼できる、インパクトのある‘義務’を尊重するブランドへと発展する。

多数の事業を展開し多くの商品を市場に出す中で、花王のパーパスを主軸に各事業・商品で明確なパーパスを設定することで、組織としての一貫性や独自のアイデンティティを確立する基盤を構築している事例です。

富士通株式会社:『持続可能性』を追求するパーパス

富士通は「わたしたちのパーパスは、イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていくことです。」をパーパスとし、”What we do”として「多様な価値を信頼でつなぎ、変化に適応するしなやかさをもたらすことで、誰もが夢に向かって前進できるサステナブルな世界をつくります。」としています。

「Fujitsu Uvance」を通じ、人々が豊かで安心して生活できる世界の実現を目指し、地球や社会によりよいインパクトを与えることを目標のもと、サステナビリティ・トランスフォーメーションに取り組み、ビジネスを加速させ、人々が直面する社会課題に真摯に向き合っています。

「Fujitsu Uvance」はビジネスを加速し、社会課題に挑むソリューションであり、下記7つの重点分野でテクノロジーと業種ナレッジを組み合わせ、クロスインダストリーでの社会課題の解決を目指しています。

1

Sustainable Manufacturing(持続可能な製造)

2

Consumer Experience(顧客体験)

3

Healthy Living(健康的な生活)

4

Trusted Society(持続可能な社会)

5

Digital Shifts(デジタルシフト)

6

Business Applications(ビジネス向けのアプリケーション)

7

Hybrid IT(ハイブリット環境に向けた総合IT)

その中でも、以下3つのテーマを重視して活動に取り組んでいます。

  • 「地球環境問題解決」
  • 「デジタル社会の発展」
  • 人々のウェルビーイングの向上

キリンホールディングス株式会社:『よろこび』をつなぐCSVパーパス

コーポレートスローガン「よろこびがつなぐ世界へ」を合言葉に、社会課題解決を通じて社会と共に成長することを目指し、そのための指針として「CSVパーパス」を策定。「酒類メーカーとしての責任」を果たし、「健康」「コミュニティ」「環境」の社会課題に取り組み、こころ豊かな社会を実現し、お客様の幸せな未来への貢献を目指します。

酒類メーカーとしての責任 全ての事業展開国で、アルコールの有害摂取の根絶に向けた取り組みを着実に進展させる。 (Zero Harmful Drinking)
健康 健康な人を増やし、疾病に至る人を減らし、治療に関わる人に貢献する。
コミュニティ 人と人とのつながりを創り、「心と体」に、そして「社会」に前向きな力を創り出す。
環境 ポジティブインパクトで、持続可能な地球環境を次世代につなぐ。

パーパス実現戦略として、2019年より「長期経営構想KV2027」を策定。CSVパーパス実現に向けて、食から医にわたる領域で価値を創造し、世界のCSV先進企業となることを目指し、最初の3年間となる中期経営計画において基盤となる食領域と医領域の成長実現、ヘルスサイエンス領域の立ち上げと育成に取り組んでいます。

まとめ:パーパスブランディングで持続的な成長と社会からの共感を獲得する

パーパスブランディングは自社の存在意義を社会に認知してもらい、ステークホルダーからの共感や賛同を獲得してブランディングにつなげる手法です。消費者の価値観や投資家の評価基準の変化、商品・サービスのコモディティ化が進む現代において、パーパスブランディングによって自社の存在意義を明確にし、ビジネスを展開する必要性が高まっています。

パーパスブランディングに取り組むことで、企業独自のアイデンティティが確立し、かつ従業員のエンゲージメントも高められるため、ビジネスの安定性強化にもつながります。そのためにも、明確なパーパスを策定し、それを組織から社会へ広く浸透させることがポイントです。

「パーパスブランディングに取り組みたいが、何から始めればいいかわからない」「そもそも、自社のパーパスを策定できていない」など、パーパスやブランディングに課題やお悩みがある場合は、ぜひ揚羽にご相談ください。

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