従業員一人一人が自律的に学習できる環境
近年、従業員研修は対面で行うリアルなものだけではなく、インターネット上で学習する「eラーニング」も多く採用されるようになっています。こうした環境の変化に伴い、学習教材や受講者(従業員)の学習進捗、成績などを統合的に管理する「学習管理システム(Learning Management System 以下、LMSと表記)」を導入する企業が増えてきました。
企業としての存在意義を示し、自社が目指す姿を実現するためにも、従業員一人一人の学びは欠かせない要素です。そのためLMSの利用促進は、企業活動において重要な取り組みと言えます。しかし、企業がLMSを導入したとしても、その意義を従業員が理解していなければ、積極的に利用してもらうことは期待できません。
では、どのようにLMSの意義を伝えればいいのでしょうか。今回は、人財育成ポリシーを基に、従業員一人一人が自律的に学べるように導入されたLMSの認知拡大のための施策に、当社が伴走した事例をご紹介します。
【ケーススタディ】大和ハウス工業株式会社
1955年に創業した大和ハウス工業株式会社は、ハウスメーカー・ゼネコン・ディベロッパーの三つの顔を持ち、生活インフラを支える総合的な建設事業を展開する企業です。「事業を通じて人を育てる」という社是を掲げ、人財の価値向上が企業価値の源泉であると捉えています。創業以来、人財の成長を第一に考えた経営を行ってきました。
2024年には「Keep Learning, Growing, and Dreaming.」(学び続けよう、成長し続けよう、そして、夢を追い続けよう)をコンセプトに、「人財育成ポリシー」を策定。従業員が真のプロフェッショナル人財として成長するために必要な、「機会・仲間・職場」という三つの基盤作りを実践しました。複線的な成長機会の提供を通じて、従業員の自律的かつ持続的なキャリア形成を支援しています。
同社では、2025年に迎える創業70周年、さらにその先の創業100周年に向けた売上高の目標を立てていました。その実現のためには、従業員一人一人の見える風景が変化し、ビジネスモデルが変わる必要があると考えていました。また、社是の中にある「事業を通じて人を育てる」に込められた意図を明確にするという目的も、人財育成ポリシー策定には含まれていました。しかし、社内にインパクトを与える形で公開できていなかったという課題があったのです。
そこで同社は、人財育成ポリシーと共に導入の準備をしていた、LMSの運用をスタート。ポリシーに基づいて従業員が自律的に、そして持続的に学べる環境を整備し、同社の全従業員、1万6000人にLMSを浸透させることを目標として定めました。
その背景には、LMSが従業員に日常的に使われるシステムになり、学ぶことが“日常の当たり前”になれば、結果として、一人一人のキャリアや人生が豊かになる企業文化が醸成される、という考えがありました。そのような企業文化を醸成するためにも、全従業員にLMSの存在意義を分かりやすく伝え、理解してもらい、積極的に利用したくなるような仕掛けが必要だったのです。
人財育成ポリシーを体現するLMSをより愛着の湧くものに
社内にLMSを浸透させ、従業員に積極的な利用を促すために重要なポイントとなるのは、印象に残るネーミングとビジュアルが存在しているということです。単に「○○学習システム」という名前のLMSが運用されている場合、従業員への認知スピードは遅くなり、しかも、認知度がなかなか高くならず、期待するような使い方をされないことが懸念されます。
本プロジェクトでは、同社のLMSを「&D Campus」とネーミングしました。人財育成ポリシーの一文にある「and Dreaming」にちなみながら、大和ハウス工業の頭文字である「D」のニュアンスを連想させる表現にもしています。そして、従業員自身の成長のための行動“で”夢を追い続ける、従業員の多くの学びの場となる――。「Campus」にはそのような意味を込めています。
「&D Campus」のロゴは、LMSを活用して学んだ先にある未来への期待感と、学習管理システムであるという点を意識して制作しました。ブランド名の下に、学びを感じさせる本が開かれているようなデザインをあしらうとともに、全体をカラフルな色使いにすることで、「従業員一人一人の成長が混ざり合う学びの場」であるという「&D Campus」のコンセプトを表現しました。
「&D Campus」ブランドロゴ
従業員が「&D Campus」のサイトに訪れた際、最初に見るのはトップページです。そのため、ここに表示されるキービジュアルにも配慮しました。ブランドロゴと同様に、未来への期待感と学びの要素を融合させつつ、ブランドロゴの世界観を踏襲したデザインを採用。知識の源である本や、ひらめきを表す電球、学ぶことをたたえるグッドマークなど、ワクワクしながら自ら進んで学びたくなるようなキービジュアルを作成しました。また、キービジュアルの中央に人財育成ポリシーのコンセプト文を配置することで、「&D Campus」とポリシーとの関連性も表し、従業員のさらなる理解を促しています。

運用開始数カ月で従業員の9割が訪れるLMSへ
「&D Campus」が稼働したのは、2024年7月のこと。スタート段階のログイン数は、1万6000人の従業員の約38パーセントでした。しかし、システムの拡充や認知度の高まりによって、9月のログイン数は全体の約88パーセントにまで増加。その後もログイン数は高水準を維持し続け、現在は9割近くの従業員がLMSを利用するほどになっています。
教育や研修に関するポータルサイトなどの窓口を、全て「&D Campus」に集約しただけではなく、活用した従業員のメッセージや、あらゆる階層の研修動画を掲載することで、学びの世界が広がる環境を構築しています。ブランドとしての親しみやすさと、コンテンツの拡充が掛け合わさることで、多くの従業員が訪れたいと感じるLMSとなりました。

LMSを「自分事化」させ自律的に学び合うことで、企業活動の効果は高まる
LMSの認知度を高めて、活発な利用を促すために重要なことは、「これは自分のための学習プラットフォームだ」と、従業員に気付いてもらうことです。そのためには、学習できるプラットフォームがあると、訴求するだけでは不十分です。何のためにLMSが存在しているのか、ここでの学びを通して、どのようなことが企業として実現されるのか、という意義を伝えると、自律的学習と周りを巻き込んだ学び合いが発生しやすくなります。
これにより、企業が目指すべき姿に対して多くの従業員が同じ方向を見て、その実現に向けて行動するという、インナーブランディングにおける理想的な状態を作り出す効果が期待できます。
今回紹介した事例の詳細は、こちらからご覧いただけます。
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※本記事は、月刊会員情報誌「コミュニケーション シード」2025年12月号に掲載されたコンテンツの転載です。 ■月刊会員情報誌「コミュニケーション シード」について |









