インナーブランディングで重要な指標とは

これまで「インナーブランディング虎の巻」では、企業が実際に行っているインナーブランディングの事例を紹介するとともに、効果的な打ち手を解説してきました。

インナーブランディング実施における重要な目的の一つに、「従業員エンゲージメントの向上」があります。従業員エンゲージメントは、今や企業活動の成果を左右する重要な指標とされています。では、そもそも従業員エンゲージメントとは何か? そして、これを高めることで企業にもたらされる具体的な効果とは――。

今回は、インナーブランディングと密接に関わる、従業員エンゲージメントについて基礎から解説します。

従業員エンゲージメント=「誰か・何かに貢献しよう」という意欲

従業員エンゲージメントとは一体何なのか? まず、このことについて考えてみます。

「誰か・何かに貢献しよう」という意欲であり、従業員が企業に抱く愛着や貢献度の高さ、ひいては、従業員と企業とのつながりの強さとも言えます。従業員一人一人の「企業に貢献したい」という意欲が高く、さらに、所属する企業や自身の仕事に対して誇りや愛着を感じ、仕事への熱意も高い。これが「従業員エンゲージメントが高い状態」です。

近いものに、「従業員満足度」という指標があります。しかしこちらは、従業員が企業や業務内容、職場での人間関係などにどれほど満足しているかを示すもの。一方、従業員エンゲージメントは外部要因に対する指標ではなく、自分が勤める会社に対して従業員がどれほど貢献する意欲があるか、どれほど愛着を感じ、信頼を寄せているかという指標です。つまり、従業員満足度は、従業員が企業を評価する一方的な指標で、従業員エンゲージメントは、従業員と企業とで双方向的に影響し合う指標と言えます。

従業員エンゲージメント向上でもたらされる五つのメリット

従業員エンゲージメントが向上すると、企業に対して以下のようなメリットをもたらします。

1 従業員の生産性が向上する

従業員エンゲージメントが高いと、会社に貢献したいという意欲も高まります。そのため、会社のために頑張りたい、成果を出したいと、積極的に業務に取り組むようになります。熱意を持って仕事に取り組むことで、従業員一人一人の生産性が高まり、組織全体の生産性向上にもつながります。

2 顧客満足度が向上する

従業員エンゲージメントが高い状態だと、自身の仕事に誇りとやりがいを感じ、熱意を持って業務に取り組みます。その結果、顧客と積極的にコミュニケーションを取るようになり、提供する商品やサービスの質が向上。高い従業員エンゲージメントが、顧客と企業のつながりや信頼も高め、企業の成長につながっていきます。

3 離職率が低下する

会社に貢献したいという意欲が高く、自分が働く会社に愛着を感じていると、安易に退職を選択する可能性が低くなります。従業員は企業の成長に欠かせない存在であり、企業力向上のために重要な資本です。また、従業員の離職率が低く定着率が高い企業は、対外的なイメージが良いため、採用面でも好影響が期待できます。

4 積極的に課題に取り組むようになる

企業への貢献意欲が高いと、問題や課題が発生した際に、従業員が積極的に解決に取り組むようになります。さらに、誇りと熱意を持って業務に取り組む中で、自ら進んで課題を見つけて改善するようにもなり、企業全体のパフォーマンス向上につながります。

5 業績向上が期待できる

従業員エンゲージメントの向上は、企業の業績向上に直結する重要な要素です。前述した離職率の低下にも関連しますが、高い従業員エンゲージメントは、優秀人材の流出防止や人材確保につながり、企業力が強化されます。人的資本経営が重要視されているように、人材は企業の中長期的な成長に欠かせないものです。従業員エンゲージメント向上により、企業に対して貢献意欲を持って業務に取り組んでもらうことで、業績向上が期待できます。

従業員エンゲージメントを向上させる四つの方法

従業員エンゲージメントを向上させるには、従業員に対して企業が適切な施策やサポートを実施する必要があります。従業員エンゲージメントを向上させる主な手法をご紹介します。

1 経営理念を浸透させる

経営理念を浸透させることで、事業を行う目的や意義、大切にすべき価値観などが明確になり、従業員が誇りを持って業務に取り組めるようになります。これを実現するには、全ての従業員が理解しやすく、共感できる経営理念を策定することが重要です。

まずは自社の理念浸透度を確認しましょう。従業員がどれだけ経営理念を理解し、日々の業務や行動に落とし込めているかを調査することが、第1ステップです。その結果によっては、経営理念やミッション・ビジョン・バリュー、パーパスの策定・再定義を行うことも視野に入れて考えます。

2 適切なフィードバックを実施

従業員へのフィードバックにより、自分の長所や短所、成果や課題が把握できるようになります。フィードバックは上司から部下に対して行うものなので、適切なフィードバックを通じて上司との信頼関係も構築できます。職場内の良好な関係性は、従業員エンゲージメント向上に影響する大切な要素の一つです。

従業員エンゲージメントを高めるためのフィードバックで大切なことは、本人に気付きを与えることと、前向きなアドバイスをすることです。叱責や指摘だけのネガティブなフィードバックは、従業員のモチベーションやエンゲージメントを低下させてしまう恐れがあります。反対に、適切なフィードバックによって自身の目標や課題が明確になると、従業員のモチベーションが高まり、業務に前向きに取り組むようになるでしょう。

3 従業員のキャリア実現・スキルアップをサポート

企業や組織からサポートされていることを従業員が実感できると、「サポートしてもらった分、企業に貢献しよう」という意欲が高まります。そのためには、従業員が実現したいキャリアやスキルアップを、企業が積極的にサポートすることが重要です。具体的には、従業員が希望するキャリア実現につながる配置転換の実施、キャリアパスの明確化、研修や資格取得支援などスキルアップをサポートする制度の整備などが挙げられます。

4 従業員エンゲージメント調査を定期的に実施する

従業員エンゲージメントを高めるには、現状のエンゲージメントを把握し、改善点を見つける必要があります。従業員エンゲージメントは、「エンゲージメントサーベイ」によって調査可能です。これは従業員のエンゲージメントを数値化する調査ツールで、従業員が自分の会社にどれくらい愛着や貢献意欲を持っているか、仕事にやりがいや意義を感じているかを理解できます。数値化による定量的な評価を行うことで、具体的な改善点が見つかり、エンゲージメントを高めるために必要な施策を検討できます。エンゲージメントスコアは日々変化していくため、定期的に調査することがポイントです。

インナーブランディングと従業員エンゲージメントは表裏一体のもの

「インナーブランディング虎の巻」でこれまでご紹介した企業のインナーブランディング施策は、全て従業員エンゲージメント向上につながっていると言えます。企業として成長と発展を続け、世の中に貢献していくためにも、従業員エンゲージメント向上を念頭に置いて、インナーブランディング施策を検討・実施することが重要です。

次回からは再度、企業のインナーブランディング施策をご紹介していきます。「インナーブランディングと従業員エンゲージメントは表裏一体」ということを念頭に置いて、お読みいただければと思います。

※本記事は、月刊会員情報誌「コミュニケーション シード」2025年6月号に掲載されたコンテンツの転載です。

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