人的資本経営実践のための組織・社員エンゲージメント向上のカギとは

皆様、こんにちは。営業部の石田です。

先日7月21日(木)に、株式会社メンタルヘルステクノロジーズ顧問である吉村健佑氏をお呼びし、「人的資本経営実践のための組織・社員エンゲージメント向上のカギとは」と題してオンラインセミナーを開催いたしました。

本セミナーでは、揚羽の黒田より、人的資本経営観点を踏まえた上での、組織社員のエンゲージメントを高めるために重要な「企業理念、文化」の改革と浸透についてお話いたしました。続いて、元厚生労働省医系技官で、株式会社メンタルヘルステクノロジーズの顧問である吉村氏より、様々な指標をもとにした従業員の健康管理やリスクマネジメントについて人的資本の観点から解説いただきました。

第1章 『人的資本経営におけるインナーブランディングとは?』

スピーカー:黒田 天兵 氏
スピーカー:黒田 天兵 氏
株式会社揚羽
ブランド戦略プロデューサー

 

人的資本経営とは?

まずは、「人的資本経営」が着目されるまでの歴史を振り返っていきます。
1980年代は日本企業は絶好調の時代であり、世界中の企業が日本企業を参考にしていました。その後、バブルが崩壊し、リストラや企業の倒産などが相次いで起こり、日本企業は海外企業の経営手法を参考にする時代に移行しました。グローバル化は加速し、企業がミッション、ビジョン、バリューを掲げることが流行し、様々な企業が創業から掲げてきた理念の見直しを行いました。
2008年のリーマンショック後、人口減少や高齢者介護などの様々な社会問題が浮上し、働き方改革が本格的に始動し法の整備も進みました。そんな中、2015年にはSDGsが注目を集めはじめ、2020年にはコロナウイルス蔓延によるDX推進やSDGsにも関連する形でサステナビリティへ注力する流れができました。投資の世界でも、ESG投資など持続可能な社会の実現に向けた活動を行う企業への投資が活発化する流れが起こりました。
こうした時代の中で、人に関する情報も変遷してきました。日本企業の経営が難航し始めた90年代に登場した概念が「従業員満足度」です。会社に所属する従業員の満足度が高ければ経営も上手くいくという考え方はこの時代に非常に流行しました。
その後、従業員満足度が非常に高い状態で経営破綻した企業が出てきたことから、2000年代から2010年代にかけて、従業員満足度ではない、フィジカルスコア、メンタルスコア、ウェルビーイング、eNPS、心理的安全性など数多くの指標が取り上げられました。中でも注目度の高かったものが「エンゲージメント」です。
また、企業の取り組みを評価するにあたって、利益率などの財務指標だけではなく、非財務資本を重視する動きも強まっており、「人的資本」はこうした流れの中で注目度が増しています。
登場までの歴史

 

人的資本経営の取り組みは2種類に分類される

人的資本とは、ESGの文脈の中で開示する情報の一分野です。企業は、ただ情報を開示するのではなく、経済や社会の動きに合わせて、『同質化』と『差別化』の2つの方向性で狙いをもって情報を打ち出していく必要があります。
『同質化』とは、リスクを最小限にするべく経済や社会から求められる情報を打ち出していくことです。多くの企業の情報訴求がこの『同質化』に該当すると感じます。
一方で、企業の強みを発揮していくために取るべき戦略を考え、その企業らしさを打ち出していくことが『差別化』です。
企業は『同質化』によりリスクを最小限に抑えながら、『差別化』によって新たな機会へと挑戦をしていくという、同質化と差別化の両輪でESGの取り組みを進めていく必要があります。
ESGの取り組みの本質は大きく分けると2種類

日本において人に関する課題は深刻

昨今、人的資本経営が話題に上がる背景として、日本における「人」に関する問題が深刻であることが挙げられます。
生産年齢人口の減少、国際競争力や人材競争力の低下、世界最低水準の従業員エンゲージメントなど、日本企業の生き残りのために解決すべき優先度の高いテーマを多数かかえているのが実情です。
2017年5月の日本経済新聞の記事において、日本国内の「熱意ある社員」が6%のみであるというギャラップ社による調査結果は大変話題を集めました。その後、エンゲージメントサーベイや企業理念、マネジメント手法、ワークライフバランス等の見直しを多くの企業が実践しましたが、2020年のギャラップ社による同調査で「熱意ある社員」の割合は5.3%へと低下していることがわかりました。
日本企業のあらゆる健闘もむなしく、現状日本の従業員エンゲージメントは下がってしまっているのが実情です。
ここまでの内容を踏まえると、人的資本経営における重要な事項として、まずは人に関するあらゆるデータを数値化することが挙げられます。また、集めたデータをもとに、経営理念やパーパス、ビジョンから自社のありたい姿を描き、そこから逆算して、同質化、差別化の観点から重要KPIを設定します。これからの時代においては、重要KPIをウォッチしながら経営の意思決定をすること、投資の優先順位を決めていくことが必要であると考えています。
日本において人に関する課題は深刻

従業員エンゲージメント向上のために必要なこと

続いて、人的資本経営を行っていく中で重要となる従業員エンゲージメントをいかに向上させていくのかについてお話します。今後、日本の従業員エンゲージメントを向上していくにあたって、従来のブランドアプローチだけでは限界があると感じています。

従来のブランドアプローチは、ステークホルダーに対してトップダウンで一貫性のあるメッセージを発信し、その会社らしさや強みが活きる分野に選択と集中するのが基本でした。
トップダウンの一貫した訴求は強みに集中できますが、従業員に対して一方向的な発信になるため従業員エンゲージメントは向上しづらいという側面があります。

目まぐるしく変化する現代において、企業活動は多様性や他社との共創を求められ、強みが生きる分野以外の新たな領域に踏み込んでいくことが必要となります。 こうした時代において、企業はトップダウンとボトムアップの両輪で変革していくことが必要です。
従来のブランドアプローチだけでは限界がある

 

これからの時代のインナーブランディング設計図

サステナビリティ時代におけるインナーブランディングの設計図は、下図のフレームワークを参考に整理していくことをおすすめしています。
企業のブランドの構成要素として、経営の理念やパーパス、ビジョンが最上位概念としてありますが、昨今それらに紐づく形でマテリアリティを整理しようという流れがあります。そうした上位概念に基づき、会社として何を重要視するのかを見定めた上で人的資本項目の中から重要KPIを選定します。
自分たちの理念を達成していくために、トップダウンでメッセージを発信し、認知・理解・共感を促します。それと同時に、従業員の行動を促すなどボトムアップの働きかけを行います。現場社員が行動する中で得られる気づきや成功体験を拾い上げ、全社に共有し、また会社の経営にフィードバックしていくというトップダウンとボトムアップの仕掛けを並行して行っていくことが、これからの時代の人的資本経営を実践していく大きなフレームワークになると思います。
また、こうしたフレームワークを活用することで、企業の活動の現在地を把握することができます。
サステナビリティ時代のインナーブランディング設計図

 

まとめ

本講演のまとめです。
一番始めに大切になることは、自社の想いと国際社会の要請が重なる領域を見定め、パーパスやビジョンを策定することです。企業として進む方向性がわかると、これからの企業の成長を阻害する企業文化が見えてきます。パーパスやビジョンの策定後は、そうした企業文化の見直しや、人への優先投資項目の決定をすることが重要です。その後、トップダウンとボトムアップの両輪で、経営として方針を固めることと施策の実行を並行して進めていきます。
大きく3つのステップからなるこれらの取り組みが、これからの変革期を乗り越えていくヒントとなるはずです。

結論・まとめ

第2章『人的資本経営の考え方と評価』

スピーカー:吉村 健佑 氏
スピーカー:吉村 健佑 氏
株式会社メンタルヘルステクノロジーズ顧問
千葉大学特任教授/医師、公衆衛生修士、医学博士

 

産業保健⇒健康経営⇒人的資本経営へ

産業保健やメンタルヘルスの領域は、労働安全衛生法や労働基準法などの労働関連法に基づいて、従業員の保護や福利厚生という形で進展してきた領域です。一般の社員と比較してパフォーマンスが上がらない方やお休みがちの方など、健康度が低い方への対策として作られた制度、ルールでした。
その後、厚生労働省を起点に経済産業省などの考えと融合していき、「健康経営」という概念に広がっていきます。つまり、福利厚生から経営における人材戦略という位置づけに転換していきました。

こうした流れがさらに進み、近年注目される「人的資本経営」という考え方が生まれました。経済産業省の色合いを強め、企業の人材戦略として企業の理念などにも直結するものとして拡がっています。

拡張する対象・目的

人的資本経営の測定と改善

日本に限らず先進国全体として労働生産性は低下しています。成熟社会に向かい、利益の追及や拡大再生産というフェーズを超えつつあります。量的な経済成長より、構成員同士のつながりや自分の仕事の意義ややりがい、自分がコミットしている課題解決の価値などを重視する社会に徐々に向かっていると言えます。

一方で世界的に見ても、日本は幸福度ランキングで非常に低い位置にあり、日本国内の労働者は自己効力感を上げる必要があるという議論もされています。

人的資本経営とは
「人的資本経営」とは、人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことです。 中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方を示し、経営資源のなかでも「人」が最重要項目であることを宣言するものです。

経営戦略の実現に必要な人材の確保状況
一方で、昨今の日本企業においては、
・うまく人材の採用、育成できていない
・従業員のスキルギャップ、カギとなる人材をうまく獲得できていない
・従業員の学ぶことへの意欲も諸外国と比較して非常に低い
などの人材に関する問題も数多く浮上しています。

 

図表2:経営陣、取締役会、投資家の役割・アクション
人的資本経営は、取締役会、経営陣、投資家が役割を明確化し、人材戦略を特に重視します。「経営と連動」「定量把握」「文化定着」などのワードがキーワードとして挙げられ、企業風土や文化そのものへの介入についても言及されています。

図表3:人材戦略に求められる3つの視点・5つの共通要素
また、人材要件についても、知識やスキルという外部的な評価だけではなく、コンピテンシーや動機、パーソナリティなど、人の深層部分まで評価する内容です。人的資本経営とは、人をきちんと見定めて 、パートナーとして育て上げ、育てた人を集めた居心地のよい職場をつくっていくことを目指す考え方であるといえます。

 

第一部で黒田氏より紹介がありましたが、「ワーク・エンゲイジメント(エンゲージメント)」とは非常に活気・熱意に満ち溢れ、仕事に出して没頭している状態を指します。

エンゲイジメント(エンゲージメント)が高い組織は営業利益率や労働生産性が向上する事実もあり、こうした指標に則って組織の状態を診断することも必要です。
ワーク・エンゲイジメント(WE)とは

 

本講演のまとめです。
変化する世の「需要」に対応できる企業となること、魅力的な「企業活動・勤務環境」を試行錯誤すること、「アウトカム」ベースでの世への価値提供していくことの3点がこれからの時代において大切になってくるかと思います。
また、多くの良い人材を見つけ採用し、育てていくことの重要性は増しています。企業が「何を」していくかより「誰と」それをしていくのかを大切にする時代へと転換していることを感じています。

本日のまとめ

第3章 Q&A

ー従業員エンゲージメントを高める際に、「心理的安全性」をどう進めるのがよいのでしょうか

吉村氏:
部下への介入の仕方が重要かと思います。偉い方と一般社員の権威勾配がない状態を目指すことで心理的安全性は高まります。

フラットなコミュニケーションの場をつくることや1on1など個人面談の機会にサポーティブな発言をすることも効果があります。

 

黒田:
ダニエルキム氏の提唱する「成功の循環モデル」においても言及されていますが、
結果の質や行動の質の前に関係性の質を構築することが重要だと考えています。
例えば、部下が健康を害している場合、その原因は仕事以外の要因である可能性もあります。プライベートまで踏み込むことについては賛否両論ありますが、プライベートなこともわかる限りで把握してあげることも重要だと思います。上司が積極的に自分自身を開示するなど工夫して、踏み込んだコミュニケーションをとることも効果があると思います。

ー各種の調査のご紹介をいただきました。集計した際に、高い、低い、などの評価をするためには、ベンチマークなどが必要になりますか?(集計の先に必要なスキルや、特定の条件など、配慮すべきことがあればご教示ください。)

吉村氏:
国が推奨する組織や健康状態に関する指標においても、「この基準値以上が危険」「この値以下は安全のような値」のようなカットオフ値が明確になっていないものも多くあります。
何かの値を基準に判断するよりは、むしろ企業の中で同じ指標について経年変化を見ていく中で効果を判断していく方法が良いかと思います。

 

ーエンゲージメントサーベイなどいくつか実施していますが、そのデータ分析がきちんとできていません。データを元に今後の方向性をご相談することは可能でしょうか。

黒田:
是非お気軽にご相談いただければと思います。

サーベイでデータを取ったばかりの時期は、データを見て現状はわかったが結局何をしていいのかわからないという自体に陥ることも多々あります。

数年単位などの一定期間データをとり、どんな時期にどんなことが起こるのかの傾向をつかむことがまずは重要です。そうした傾向に紐づいて浮上する問題に対して、課題を特定し施策を考えるという流れがスムーズだと思います。

 

以上、7月21日(木)開催オンラインセミナー「人的資本経営実践のための組織・社員エンゲージメント向上のカギとは」のセミナーレポートでした。

 

弊社ではエンゲージメントの向上にご活用いただける資料もご用意しています。ご参考にしていただける事例をまとめた資料もございますので、下記からぜひご覧くださいませ。

 

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今後もオンラインツールも活用しながら、皆さまのお悩みを解消できるようなセミナーを随時開催していきますのでご期待ください。