フィロソフィー策定を受けた、採用広報のリブランディング
JX金属株式会社は、1905年の日立鉱山開業をルーツに、資源開発から高機能材料、リサイクルまでを手がける先端材料メーカー。現在は「装置産業型企業」から「技術立脚型企業」への転換を掲げ、半導体材料や情報通信材料を成長戦略の中核に据えています。2025年3月に東証プライム上場し、同年9月にはグループフィロソフィーを策定したことで、同社が目指す方向性や価値観はより明確になってきました。
そのため、明確になったメッセージを採用広報として、一層強く伝えていく必要性が高まっていました。加えて、技術系人材の獲得競争が年々厳しさを増す中、企業としての変化や目指す方向性を、より的確に伝えていくことも求められていました。
こうした状況について、JX金属の立花駿氏は次のように振り返ります。「ここ数年で、事業環境は劇的に変化しました。しかし、採用広報として、そのリアルな状況を届けられていないという課題があったのです。採用リブランディングに取り組むことで、当社が示す新たな志に共鳴し、会社や社会に価値をもたらす人材にアピールしたいと考えました」(立花氏)。こうした想いを出発点に、同社は採用サイトを中心としたリブランディング施策を本格化させます。

人事部 人材開発・DE&I推進チーム
立花駿氏
経営環境の変化を、採用広報の言葉に翻訳する
採用リブランディングプロジェクトのパートナーとして揚羽は、RFP(提案依頼書)に示された要件に沿うだけではなく、JX金属の経営戦略や人事戦略まで掘り下げて理解するところから支援を始めました。独自サーベイや既存の調査データに加え、公開情報の読み込みや現地見学を重ねることで、事務系採用と技術系採用それぞれに異なる課題があることを整理します。
具体的な提案にあたっては、RFPの咀嚼は当然のこと、さらに突っ込んだ企業理解が必要だったと揚羽の昆野玲は説明します。「JX金属さんの公開情報をくまなく調べた上で、経営戦略と人事戦略をつなげながら提案を準備しました。最終提案の前にも何度かミーティングの機会をいただき、本社ショールームの見学を通じて、これまでの歴史や今後の方向性への理解を深めることができました」(昆野)。

ブランドマーケティング部
次長 プランナー
昆野玲
採用広報を単体の制作物ではなく、経営の変化を学生に伝える翻訳行為として捉えたことが、今回の採用リブランディング支援の特徴でした。同社としてもまた、今このタイミングだからこそ、経営のテイストを誤って伝えないことを強く意識していたといいます。企業として大きな変化の過程にある中で、社内で語られている方向性を、どのように学生へ翻訳して伝えるのか。双方で議論を重ねながら、表現の解像度を高めていきました。
「候補者体験(CX)」を軸にブランディングを設計
具体的な制作を進めるうえで、JX金属と揚羽が一貫して重視したのが「候補者体験(CX)」です。学生がJX金属を知って、興味を持ち、理解を深め、選考を経て入社を決めるまで、それぞれの段階でどういった情報を、どのような粒度で、どのように届けるべきか。採用サイトだけでなく、説明会資料や内定後のコミュニケーションまで含めた、採用候補者の体験全体を俯瞰して、ブランディングの設計が進められました。
「揚羽さんから幅広いコンテンツの提案をいただき、それぞれをどのタイミングで学生に見てもらうべきかまで細かく議論しました。学生がJX金属を知り、理解を深め、最終的に入社を決めるまでの流れの中で、各接点でどんなメッセージを届けるべきかを考えながら設計を進めました。制作物単位ではなく、体験全体を一本の線でつなぐ発想が、企画の骨格です」と立花氏は力を込めます。
そうした候補者体験(CX)を強く意識して、最適化するため、当初予定していた会社紹介パンフレットの制作を取りやめ、内定者向けのオファーレターを新たに制作することにしました。採用広報の役割を、学生に向けた「認知拡大」だけでなく、入社直前の「最終的な意思決定の後押し」まで、拡大して捉え直したことが、この決断に表れているでしょう。

制作物を変えるという大きな仕様変更も、違和感なく、スムーズに進められたと揚羽の森田啓介は話します。「採用リブランディングプロジェクトとして、会社紹介パンフレットから、最終面接に合格して内定を出した学生に送る『オファーレター』の制作に舵を切りました。内定承諾を後押しする大切な役割を担うため、紙質にもこだわり、様々なサンプルを取り寄せて、実際に触れてもらって決めました。候補者の体験価値を最大化するために、媒体そのものを柔軟に組み替えていったのです」(森田)。

ブランドマーケティング部
森田啓介
求める人物像を「変化の起点になる人」と定義
今回の採用リブランディングで核となったのが、創業以来大切にしてきた価値観を踏まえながら、次の100年に向けてJX金属が求める人物像を定義すること。同社のグループフィロソフィーは、「価値をつくる。未来をつくる。技術で、情熱で、創造力で。」というPurposeを最上位概念とし、その実現に向けた価値観、行動指針としてWay「積極進取」「仕事本位」「相互尊重」「共存共栄」を位置づけています。
こうした構造を踏まえ、Purposeの実現につながる人のあり方とは何かを起点に、Wayの考え方を整理しながら、企業としての変化と採用で関心を集めたい人材像の双方を満たす言葉を模索しました。同社は創業以来、その時々の社会にとって本当に必要なものを見極め、仕事の意味を問い続けながら価値を生み出しています。これからの100年に向けても、ともに歩む仲間と、多様な知恵や力を結集し、ステークホルダーとの信頼と共創を基盤として、社会とともにより良い未来をつくり続ける企業でありたいと考えています。
仲間を尊重しながら価値創出を第一に考え、垣根を越えて議論し、枠にとらわれずより良いあり方を問い続ける。その積み重ねが、ステークホルダーとの信頼関係を土台に、ともに価値をつくり未来をつくる力につながっていく――。そうした一人ひとりの営みこそが、新たな価値を生み、次の時代を切り拓く「変化の起点」になるのではないかと考えました。
「特にメッセージのコピーづくりにはとても苦労して、100以上の案を出したと思います。技術系人材に強く響くコピーを重点的に検討しました」と森田は明かします。一方で、同社からは、コンセプトの方向性に納得感がありながらも、コピー表現について率直なフィードバックが返され、両者で粘り強く磨き上げました。
「JX金属さんからは提案内容のコンセプトは評価されたものの、コピーが少ししっくりこないという率直なフィードバックもいただきました。試行錯誤を重ねながら、少しずつ納得感のあるコピーに近づけていったのです」と昆野も述べます。そうした愚直な積み重ねの先に生まれたのが、採用サイトで掲げられている「ヘンカのキテン」というメッセージ。企業の歴史と未来、そして学生一人ひとりの挑戦を、接続する言葉として機能しています。

サイトと資料のトーンを合わせ“一続きの体験”にする
サイト設計において特に重視されたのは、メインの対象である技術系の学生にとってのわかりやすさでした。同社が何を目指していて、どのような仕事があり、その先にどんなやりがいがあるのかを、クリックを繰り返さず、短い導線で把握できるようにすること。UI(ユーザーインターフェイス)の整理は、単なる見やすさの追求ではなく、企業姿勢そのものを伝える情報設計でもありました。
「社内からは、UIへの細やかな配慮により、最小限のスクロールで直感的に情報を取得できる点が非常に好評です。中でも、単純な業務紹介にとどまらず『仕事のやりがい』と『具体的な職種』を自然につないだコンテンツは、これまでにはなかった画期的な試みといえます。効率的な情報収集を好む技術系学生のマインドを的確に捉え、彼らの知的好奇心を刺激して『もっとこの会社を見てみたい』という意欲を自然に引き出す仕上がりになったと感じています」(立花氏)。
さらに、説明会資料も採用サイトと雰囲気やトーンをそろえて制作しました。就活フェアなどで初めてJX金属に触れた学生が、その後、採用サイトを訪れても印象が分断されないようにするためです。認知から比較、理解、志望、内定承諾までの流れを一続きの体験にするという考えが、各タッチポイントに落とし込まれています。
「学生が就活フェアで様々な企業を回った時、説明会で見聞きした資料が採用サイトと地続きの体験として続いていくよう制作しました。これによって、学生はJX金属を知った段階から内定を得て承諾するその瞬間まで、戸惑うことなく、一貫したメッセージを受け取れるはずです」(昆野)。候補者体験(CX)を途切れさせない設計思想が、ここでも貫かれています。
採用リブランディング施策を土台にして、共感の拡大を目指す
今回のプロジェクトによって同社は、単発の採用広報施策ではなく、今後の採用活動全般を支える土台を整えられたと捉えています。採用サイト、説明会資料、オファーレターといった各施策が、同じ人物像、同じメッセージの下で連動する状態が形づくられたことで、今後のインターンシップや工場見学、会社説明会といったリアルな接点においても、一貫性を持たせやすくなりました。
また、揚羽が経営方針やグループフィロソフィーへの理解を深めたうえで、制作に取り組んだことを、大きな価値として評価しています。「これほど深く、企業理念や経営の方向性を踏まえて、制作物に落とし込んでくれた例は、これまでなかったのではないでしょうか」と立花氏は話します。
今後JX金属では、この採用リブランディングを基盤にしながら、学生が実際の接点を通して「サイトで見た印象と同じだ」と感じられる体験づくりを重ねていく考えです。採用広報の刷新にとどまらず、企業としての変化をどのように伝え、どのように共感を広げていくのか。同社の採用ブランディングにおける挑戦は、これからさらに本格化していきます。




