事業横断で50名以上が集い、未来の人道支援を語り合う

150周年プロジェクトの核となったのが、全国の職員の思いや考えを集めるワークショップです。1回あたり50~80人規模で、事業や職種を横断して実施。病院、血液事業、社会福祉施設、支部、本社など、普段は接点の少ない職員同士が同じ場に集まり、これまでの歩みとこれからの使命について議論を交わしました。

単に情報を伝達する場ではなく、未来の社会課題を起点に「これから苦しむのはどのような人たちか」「その人たちに対して日本赤十字社は何ができるのか」を考える場として設計したと、日本赤十字社の奥山藍子氏は説明します。

「参加者は、それぞれの経験や立場の違いから、赤十字について深く理解している人もいれば、そうではない人もいます。そこでまず、これからの日本や世界でどのような社会課題が生まれるかを共有し、日本赤十字社の150年の歴史が、社会課題に向き合い続けてきた歩みだったことを振り返りました。その上で、未来において苦しむのはどのような人たちかを想像し、私たちは何をするべきかを考えてもらいました」(奥山氏)。

日本赤十字社
総務局 総務企画部 参事
日本赤十字社創立150周年プロジェクト推進室 参事
奥山藍子氏

揚羽の黒田天兵もまた、企画を通じて日本赤十字社ならではの特性を深く理解したと語ります。「企業では、売上や利益を前提にしながら、働く意義や社会的価値をどのように提供するかを考えていきます。一方で日本赤十字社さんは、苦しんでいる人を救いたいという純粋な思いを原点に成り立っているのです。非常にユニークな存在だと感じました」(黒田)。

株式会社揚羽
執行役員 ブランドコンサルティング部長
黒田天兵

本社職員が司会を担い、“一緒に創る”空気を育てた

ワークショップの運営で特筆すべき点は、外部の専門ファシリテーターに依存せず、本社職員自らが司会進行を担当したことです。慣れない役割に不安もあったようですが、その分、その場に“自分たちの未来を自分たちでつくる”空気が生まれたと、揚羽の高橋涼子は説明します。

「ワークショップはその場の雰囲気づくりが大切なので、ファシリテーションに慣れていない方が担当することに心配もあったと思います。ただ、実際にやってみると、職員の皆さんは雰囲気づくりが本当に上手でした。結果として、12回のワークショップは大いに盛り上がり、多くの意見が引き出されたと感じています」(高橋)。

株式会社揚羽
制作第1部 プロジェクトマネジメントグループ
マネージャー
高橋涼子

日本赤十字社の奥山氏もまた、参加者同士の支え合いが場の質を高めたと話します。「慣れない進行に戸惑う場面もありましたが、そういう時には参加している全国の職員が良い質問をしたり、フォローする発言で助けてくれました。今回のプロジェクトのスローガンの1つが『一緒に創ろう 日赤の未来』でしたが、本社が一方的に伝える場ではなく、皆で一緒に創っていくことができたと思います」(奥山氏)。

2万4000件の声を、1つも取り残さず未来へつなぐ

ワークショップでは、社長を含む役員との直接対話も実施されました。現場の職員と経営層が率直に意見を交わす機会は、日本赤十字社にとっても極めて意義の大きいものだったと日本赤十字社の塚原二朗氏は語ります。「職員と社長以下の役員が忌憚なく直接話し合うことは、これまであまりなく、初めての経験だったと思います。進め方については悩みも多く、揚羽の皆さんにもご苦労をおかけしましたが、この形で開催できて本当によかったです」(塚原氏)。

日本赤十字社
総務局 総務企画部 主幹
日本赤十字社創立150周年プロジェクト推進室長
塚原二朗氏

こうして全国から寄せられた意見は、約2万4000件に達しました。量として膨大であるだけでなく、いずれも現場からの切実な声である以上、安易に要約したり切り捨てたりすることはできません。「全国の職員から寄せられた意見は2万4000件もありました。貴重な意見なので、一言も取り残すまいと、揚羽の皆さんの力を借りながら集計しました。作業は本当に大変でしたが、何とか終わらせることができ、責任を果たせたと思っています」(奥山氏)。

こうしたプロセスを通じて、対話の場そのものから、組織を変える手応えも生まれてきました。各施設同士、本社と現場、それぞれの事業間に十分な対話の機会がなかったことが可視化される一方で、だからこそ、対話によってつながりを取り戻せる可能性も見えてきたのです。

150年の歩みを読み解き、『継想録』に未来への視点を編み込む

ワークショップに先立って進められたのが、日本赤十字社の歴史を振り返った冊子『継想録』の制作です。制作で目指したのは、150年の歴史を網羅的に並べることではありません。日本赤十字社が時代ごとの社会課題にどう向き合い、そのたびに何を守ろうとしてきたのか。その本質を、今を生きる職員が自分の仕事と重ね合わせながら読み取れる形にすることが重視されました。

単に歴史の事実を整理した冊子ではなく、過去を振り返ることを通じて、未来の行動につながる視点を手渡す媒体にしたいという考えがあったのです。制作にあたっては、膨大な歴史資料や記録を読み解きながら、個々の出来事を単発の実績として扱うのではなく、そこに通底する価値観を抽出していきました。

その過程で見えてきたのが、「原動力」「実行力」「先見性」「多様化」という4つの視点です。社会の変化に応じて活動領域を広げながらも、根底には常に「苦しんでいる人を救いたい」という思いが流れている。そうした日本赤十字社らしさを現在の活動とつなぐために、歴史の中にある人の想いや行動に焦点を当て、現代の職員と変わらない仲間として感じられるように、再構成していきました。

揚羽の江野修は、冊子制作を通じて、資料だけでは見えてこない日本赤十字社の輪郭が浮かび上がってきたと振り返ります。「職員の皆さんに直接お話をうかがう中で、自分なりの仮説としてまとめていたものをさらに深め、肉付けしていくことができました。それを基にして、『継想録』を手にする人たちにきちんと読んでもらおうと、150年の歴史に基づいたメッセージを伝えるための構成を考えていきました」(江野)。

株式会社揚羽
ブランドコンサルティング部 CDグループ
コンサルタント/コピーライター
江野修

現場で日々業務に向き合う職員にとって、自らの仕事を長い歴史や理念と結びつけて捉える機会は、決して多くありません。だからこそ『継想録』は、過去の顕彰にとどまらず、職員一人ひとりが「自分たちは何を受け継ぎ、これから何をつないでいくのか」を考えるための起点として機能することが期待されました。ワークショップで交わされた対話と同様に、この冊子もまた、150周年以降を見据えたインナーコミュニケーションの重要な基盤となっていきます。

150周年本番に向けて、ビジョン浸透の次章が始まる

今後、日本赤十字社はワークショップで集まった職員の思いを新たなビジョンへ反映し、その内容を全国の支部や施設、ボランティアへと広げていく考えです。150周年のタイミングでは、職員や支援者が一堂に会したイベントの開催も見据えられており、プロジェクトはいよいよ次のフェーズに入ります。

揚羽の江副健一郎もまた、長期にわたる伴走の先にある節目を、期待を持って見ています。「数年におよぶプロジェクトなので、2027年5月に予定しているイベントが近づいてきた今、ワクワクしています。最後までどう走りきれるのかという楽しみもありますし、終わりが見えてきたことへの少しの寂しさもあります。それでも、チームの一員として最後まで盛り上げていきたいですね」(江副)。

株式会社揚羽
ブランドマーケティング部
江副健一郎

ビジョンを分かりやすく伝えるビジョンブックの制作や、音声コンテンツを活用した新たなインナーコミュニケーション施策も検討されており、揚羽は引き続きその実現に向けて伴走を続けていきます。ただ、150周年プロジェクトは、周年施策の成功がゴールではありません。現場で交わされた対話をビジョンへ昇華し、そのビジョンを再び現場へと返していくこと。日本赤十字社と揚羽は、その循環をつくる挑戦を続けています。