「仕事と介護の両立」が経営課題として顕在化

株式会社NTTデータグループ(以下、NTT DATA)は、NTTグループの一員として、世界70カ国以上でITサービスをグローバルに展開する企業です。デジタル技術を積極的に活用したビジネス変革や社会課題の解決に向けて、コンサルティングからシステム開発、運用に至るまで、多岐にわたるサービスを提供しています。

同社は、単なる事業規模の拡大ではなく、高めた提供価値を人財や技術へ再投資し、持続的な成長と新たな価値創造につなげる「Quality Growth(質を伴った成長)」を経営方針に掲げています。社員数も現在、グローバル全体で20万人近い規模に達しており、国内の事業も大きな成長を続けている状況です。

そうしたビジネス環境において、企業がより一層の成長を持続していくには、多様な人財がそれぞれの考え方や能力を最大限に発揮できるDEI(ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン)の推進が重要だと、株式会社NTTデータグループの豊島やよい氏は語ります。

「特に国内では少子高齢化が顕著に進行しており、当社でも介護に関わる社員が確実に増えてきました。介護をしながら働く社員であっても、十分に能力を発揮し続けられる環境を整えることは、DEIの観点だけでなく、経営課題としても非常に重要だと考えています」(豊島氏)。

株式会社NTTデータグループ
サステナビリティ経営推進本部
Sustainability Engagement Office
Human Rights & Inclusion Group
課長
豊島やよい氏

これまで同社は、社員が健康を保ちながらモチベーション高く働くことができるように、様々な制度を整備し、福利厚生も充実させてきました。その中でも、育児については利用する社員の年代もはっきりしており、複数の制度を順次整備してきたこともあって、おおよそ年間500人ほどが育児休業を取得している状況だといいます。

“氷山の下”に隠れたワーキングケアラーの実態を調査

NTT DATAにおいて、育児関連の制度が活用されている一方で、介護に関する制度利用は進んでいませんでした。介護は組織長に近い年代の社員が対象の中心であり、交代がしにくいこともあり、介護休業などの制度利用をためらうケースが少なくないと、株式会社NTTデータグループの高見暁氏は明かします。

「介護については、そもそも積極的に発言しづらい雰囲気があるのではないでしょうか。当社において制度はあるものの、その内容を知っている社員も少なく、利用している社員はさらに少ないという状況でした。働きながら介護しているワーキングケアラーの社員は実際にいるものの、その悩みや苦しい思いが“氷山の下”に隠れて、なかなか見えなかったのです」(高見氏)。

株式会社NTTデータグループ
サステナビリティ経営推進本部
Sustainability Engagement Office
Human Rights & Inclusion Group
課長
高見暁氏

そこで同社は、実態を把握するため、株式会社NTTデータ ライフデザインと連携し、国内社員約1万5000人を対象としたアンケート調査を実施しました。有効回答は約7900件。調査によって、働きながら介護を担うワーキングケアラーが約600人いること、さらに将来的に介護に関わる可能性の高い社員層が広く存在することが可視化されました。

回収率は約6割に上り、大規模かつ本格的な調査になったと、株式会社NTTデータ ライフデザインの鈴木伸氏は述べます。「介護が必要な親がいて、パートナーなど自分以外の人が主に介護を担っている社員まで含めると1000人ほどになりました。ただ社員の平均年齢が38.1歳と比較的若い会社なので、介護が現実味を帯びていない社員が半数以上いることも大きな特徴です」(鈴木氏)。

株式会社NTTデータ ライフデザイン
事業開発本部
サービス企画担当部長
鈴木伸氏

介護当事者が迷わず制度活用できる環境を目指す

調査によって実態が見えてきたものの、新たな課題も浮かび上がりました。それが、介護両立支援制度や相談窓口の認知不足です。「休職や短時間勤務、相談窓口など、制度自体は充実しています。しかし社員にはバラバラの情報として届いており、『自分には何が必要なのか』『どこに相談すればよいのか』が分かりにくい状態でした」と豊島氏は説明します。

膨大な制度や施策がある中で、それらをどのように整理して、いかに必要な人に届けるのか――。自社内だけでは整理しきれないという課題感から、NTT DATAは、インナーブランディングや社内の情報発信に強みを持つ揚羽をパートナーに選定し、介護両立支援制度の活用促進を目指す「仕事と介護の両立支援プロジェクト」をスタートさせました。

最初の打ち合わせの時点で、点在する施策と情報をどうつなぎ、一本の筋を通すかが問われる、難易度の高いプロジェクトだと感じたと揚羽の中村友哉は当時の思いを語ります。「それでもNTT DATAの皆さんと議論を重ねる中で、点在する介護両立支援施策と情報発信施策を“全体マップ”として整理、構造化する方針が明確になっていきました」(中村)。

株式会社揚羽
ブランドマーケティング部
ブランドマーケティング4グループ
中村友哉

プロジェクトチームは、社員が介護についてより身近なこととして、想像できるようになることを目指しました。当事者であれば介護両立支援制度を迷わず活用し、それ以外の社員は周囲の状況を受け入れ、支え合う風土を醸成する。こうしたプロセスを通して、仕事と介護の両立につながる社内環境の実現を「目指すべき姿」として位置づけたのです。

調査結果を「施策」に変える、5つのターゲット分類

プロジェクトは、アンケート調査の自由回答に記述されている悩みなどの定性的なコメントを一つひとつ整理し、カテゴライズするところから始めたと揚羽の伊牟田孝弘(ブランドコンサルティング部 ブランド コンサルティンググループ)は振り返ります。

「自由回答に記された悩みを整理していくと、同じ介護の課題でも置かれている状況によって全く異なることが見えてきました。そこで『どのターゲット層の、どの課題を解決するのか』という観点で調査結果を再整理し、社員がひと目で理解し、次のアクションを取りやすい全体マップを作っていったのです」(伊牟田)。

揚羽側では、膨大なローデータを深く読み込み、それぞれの立場の社員がどのような痛みを抱えているのか、その状況を正確に把握することに注力しました。そして、プロジェクトは3カ月という短期間で、最終的な報告書を完成させるに至ります。

プロジェクトでは、図のようなプロセスを踏み、まずは「緊急度の高いケアラー」「それ以外のケアラー」「予備軍」「非ケアラー」「管理職」という5つのターゲットを明確に分類。さらに、各ターゲットが抱える問題点、陥りやすい問題のパターン、背景にある構造的な課題、行動の障壁となる心理的な価値観を整理しました。そのうえで、どのターゲットのどのフェーズに、どのような方針でアプローチすべきかという全体像を描き、課題と施策を紐づけたジャーニーマップとして、一枚の図にまとめています。

この整理によって、「予備軍」「非ケアラー」の不安を解消し、介護を自分ごととして捉えてもらうための施策が、将来的な「ケアラー」の負担軽減にもつながることや、「管理職」に対しては、曖昧になりがちな関わり方に一定の方針を示す必要があることなど、打ち手の解像度が大きく高まりました。実態調査の結果を“数字の報告”で終わらせず、“行動につながる戦略”へ転換できたのです。

「調査分析で実態は把握できたものの、情報が整理しきれず次の一手を打てずにいました。今回、揚羽さんにジャーニーマップと施策フローマップを作成してもらったことで全体が構造化され、実行に向けた道筋が明確になったのです。散らかった情報を整理し、次のアクションへと後押ししてくれたことに感謝しています」と高見氏は話します。

社員一人ひとりが安心して働ける環境づくりへ

作成された報告書において、ターゲットごとの施策が明確にされたことで、同社のサステナビリティ経営推進本部では具体的なアクションを起こしやすくなりました。現状では、報告書の内容に沿った形で、各事業部の人事担当者と情報を共有し、社員に向けた情報提供のあり方や制度活用の推奨方法につなげようとしています。

さらに、2026年3月から、年4回のペースで開催している「昼どきミニセミナー 介護のアレコレ」というオンラインセミナーも開始しました。実際に開催してみるとセミナーは非常に好評で、毎回100名から200名近い申し込みが殺到しています。リピーターの参加者も多く、遠距離介護や介護に関するお金など、毎回異なるテーマ設定への関心も高まっているようです。

「ワーキングケアラー支援は、企業が社員の人生設計に寄り添う新しい社会インフラの構築でもあります。どこから手をつければよいかわからない企業が多い中で、今回の取り組みは実践的なモデルケースになり得ると感じています」と鈴木氏は力を込めます。

NTT DATAが、今後重要だと考えているのは、「緊急度の高いワーキングケアラー」をこれ以上増やさないことです。そのためには、「非ケアラー」の関心を高め、「予備軍」には早めに情報を届ける、介護が必要になったときに慌てず行動できる環境を整えることが欠かせません。

介護は誰もが将来的に向き合う可能性のあるテーマです。同社では、今回策定した全体マップを起点に、制度の活用促進や情報発信、社員同士が支え合う風土づくりを継続的に推進していく方針です。加えて、「仕事と介護の両立を支える取り組みをさらに発展させ、一人ひとりが安心して働き続けられる組織づくりを進めていきます」と豊島氏は前を向いて語りました。