企業統合を機に顕在化したMVV浸透の課題

株式会社商船三井さんふらわあは、2023年10月に商船三井フェリーとフェリーさんふらわあが統合して誕生しました。同社は、北海道~関東、関西~九州を結ぶフェリー航路や関東~九州を結ぶRORO(ロールオン・ロールオフ)船航路など、全国6航路、14隻を擁する国内最大規模のフェリー・内航RORO船ネットワークを誇ります。

航路ごとに役割に特徴があり、北海道航路では農産物を中心とした物流を担い、関西から九州航路では旅客輸送に強みを発揮しています。さらに、従来船と比較して環境負荷を大幅に低減したLNG燃料フェリー4隻を運航するなど、環境負荷低減にも積極的に取り組んできました。加えて、グループ会社で約1200台のトレーラーシャーシを保有し、船舶と車両を組み合わせた海陸一貫輸送も行っています。

統合から1年後の2024年10月、同社は新たなMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)を策定しました。ですが、全国各地に拠点が分散しているうえ、社員約550名のうち半数以上が船に乗り組む勤務形態で、MVVをどのように伝え、理解を深めてもらうかが大きな課題となっていました。株式会社商船三井さんふらわあの北川龍志氏(経営企画部 経営企画グループ 主査)は、「全員が一堂に会することが難しい中で、MVVをわかりやすく伝える方法を模索していました」と当時を振り返ります。

一般的な企業であれば、説明会などを開き、一斉に情報発信も可能です。しかし、フェリーやRORO船は夜間航行が中心で、昼間は休憩時間にあたります。グループ会社は北海道から九州まで拠点が存在し、対面での説明も現実的ではありませんでした。それだけでなく、グループ会社以外に代理店で窓口業務や船内清掃を担当しているスタッフにもMVVを理解してもらう必要がありました。

こうした状況を踏まえ、時間や場所を問わず視聴できる動画を、企業理念を伝えるのに最も有効な手段だと判断したのです。ただし、理念を一方的に説明するだけの映像では、真の浸透は望めません。そのため同社は、インナーブランディングに知見を持つ当社に、MVV浸透の映像制作を依頼しました。

社員の率直な言葉で理念を紐解く「自分ごとつなぎ」

この動画制作、一番の目的は、新たに策定したMVVをグループや関連企業で働く人たちに共感してもらうことです。だからこそ、MVVの言葉を社員一人ひとりの経験や想いを通して紐解く「自分ごとつなぎ」というコンセプトを掲げました。社員が日々の業務の中で何を大切にし、どのような意識で仕事に向き合っているのかを起点にすることで、MVVと自身の役割との関係性を自然に理解できる構成を目指したのです。

制作した映像では、同社の事業を通じて「何を大切にするのか」を具体的に描写しています。それぞれの働く環境や入社の背景、仕事内容を想像しながら視聴することで、立場や職種を超えた共通点が浮かび上がり、MVVを自分ごと化して捉えられるよう設計しました。北川氏も「『自分ごとつなぎ』という考え方は非常に魅力的で、共感を生む道筋が明確に見えました」と評価しています。

動画の出演者には、船の乗組員と陸上勤務者、年齢や勤務地、職種、男女比のバランスを考慮しながら12名を選定しました。制作側が発言内容を誘導することは避け、普段どのようにMVVを意識して仕事に向き合っているのかを、率直な言葉で語ってもらうことを重視しています。

撮影は本社や各地の拠点、フェリーふ頭、船内やデッキなど、実際の業務現場で実施されました。動画制作チームはフェリーに乗船し、4日間にわたるロケを敢行しています。真剣な表情で業務に向き合う姿や、出港する船を見送る背中など、社員それぞれの想いを背負った印象的なシーンが数多く収録されました。

北川氏も、可能な限り撮影に同行しました。「私は大洗、九州、大阪の撮影に参加しましたが、九州で船をバックに撮ったシーンがとても寒かったことを覚えています。本社にいると、出航場面に立ち会うこともまずないので、現場の空気を味わうことができて、とても貴重な経験になりました」(北川氏)。こうした各現場における臨場感が、映像全体の説得力を高めています。

MVV浸透映像を見た99%以上が「共感できた」と回答

こうして制作された動画は、MVV浸透と中期経営計画発表時の利用に合わせて、分割、合体できるように、社長メッセージパートと社員コメントでつなぐビジョンムービーパートの2つに分けた構成にしています。そして、2025年10月、中期経営計画「BLUE ACTION 2035」発表とともに、社内、グループ会社、代理店向けに、最初はYouTubeで限定公開され、その後はイントラネットでも見られるようにしました。

こうした取り組みの結果、個々人で閲覧する社員や、部署単位でまとまって見るなど様々ですが、グループ会社も含めて多くの社員が視聴しました。その後、社員に対して動画を見てMVVに共感できたかどうかのアンケートをとったところ、99%以上とほぼ全員が「共感できた」と回答したといいます。

映像はクオリティが非常に高く、エモーショナルなインパクトもあります。そのため、グループの運送会社の社員からは仕事の中で船のイメージを持っていなかったが、映像を見て、海運会社の一員だという実感が湧いたという声も寄せられました。

また、寄港地である大分出身の女性乗組員が「船で働いているというよりも、さんふらわあで働いている気持ちが強い」と語る姿に触れ、初心に立ち戻ってMVVの実現に向けて努力したいという声も多く聞かれました。「初めての取り組みで、正直不安なところもありました。ですが、社員から高く評価されているので、安心しましたし、MVV浸透に確かな手応えを感じています」と北川氏は明かします。

中期経営計画の浸透に向けて、次なる展開に進む

商船三井さんふらわあが、映像制作のパートナーとして当社を選ぶ決め手になったのはMVVの内容を十分に読み込み、社員と同じような視点で踏み込んだ提案をしたことにあります。社員一人ひとりの言葉を尊重し、それを誇張せずにつなぎあわせていく「自分ごとつなぎ」のコンセプトも統合直後の組織にフィットしました。

一方で、12名分のインタビューを、約8分にまとめる編集作業は容易ではありませんでした。株式会社揚羽の戸田雅晴(制作第1部 映像グループ映像 ディレクター)は振り返ります。「社員の皆さんの想いの部分を、どう絞り込むかが難しかったですね。盛り込めなかった部分も非常に興味深かったり、率直な想いが出ている部分もあったので、それだけで別のコンテンツになるほどの内容でした」(戸田)。

商船三井さんふらわあでは現在、2025年に発表した中期経営計画について、社員一人ひとりの共感をさらに高め、グループ一丸となって推進していく体制づくりを目指しています。その一環として、旅客、物流、グループ会社それぞれの戦略を伝える動画制作を計画中です。

株式会社揚羽の玉手涼介(ブランドマーケティング部 ブランドマーケティング5グループ リーダー)は、「MVV浸透映像が社員の皆さんに好評だったことから、現在も、中期経営計画を現場に浸透させるための動画の提案をしているところです。引き続き、お力添えできるようにがんばります」と力を込めます。

同社はMVV浸透動画で得られた成功体験を土台に、今後はインナーブランディングにとどまらず、北海道航路の認知向上など社外に向けたコミュニケーションにも取り組んでいく方針です。当社は引き続き、社員の共感を軸に企業の想いを可視化するパートナーとして、商船三井さんふらわあを支援していきます。