「グローバル展開を伝えきれない」という現場の課題

住商グローバルエレクトロニクス株式会社(以下、スミトロニクス)は、住友商事グループの一員として、電子機器製造受託サービス(EMS)をグローバルに展開する企業です。1988年に同グループの電子部品専門商社としてシンガポールでスタートし、その後は商社機能に加え、モノづくり領域へと事業を拡大してきました。

現在では、11カ国16拠点でEMS事業を展開。高度な部品調達・管理力、高品質な製造力、グローバル対応力が評価され、日系トップクラスの規模へと成長しています。最近では設計やアフターサービスなどの領域への対応を広げるとともに、産業機械や医療機器、情報通信、インフラ分野にも力を入れています。

その一方で、こうした同社の強みを十分に伝えきれないという課題がありました。営業の現場では、短時間でスミトロニクスの全体像を説明する必要があるものの、自社サイトや手持ち資料だけでは、グローバル対応のスケール感や高い付加価値をダイレクトに伝えきれなかったのです。営業部門からも改善を求める声が上がっていました。

こうした背景から、同社では企業紹介映像の制作に着手します。過去に海外拠点の紹介映像を制作したケースがあったものの、本社にはなかったと、プロジェクトの舵取りを任されたスミトロニクスの三船紀也氏は説明します。「チェコ駐在から帰任する直前、『本社に戻ったら企業紹介映像を制作してほしい』と命じられました。顧客訪問の場で、グループの歴史や強み、グローバル展開を短時間で伝えられるツールがなかったのです」(三船氏)。

住商グローバルエレクトロニクス株式会社
営業本部長付
三船紀也氏

企業紹介映像で“営業支援”と“社内理解”の両立を目指す

同社は、企業紹介映像の主な視聴対象として、新たな製造パートナーを探しているメーカーや、EMSを超えた付加価値を共創できるパートナー企業を想定しました。スミトロニクスでは、単なる受託製造業者ではなく、設計からアフターサービスまでを一気通貫で手がける「エレクトロニクス分野のトータルサービスプロバイダー」への進化を目指しています。この新しいビジョンを、国内外のステークホルダーに直感的にも理解してもらう必要があったのです。

同時に「社内教育」の場にも課題がありました。この数年、スミトロニクスは若手従業員や中途採用を積極的に行っていますが、管理部門などの従業員は、海外の製造現場を見られる機会が限られています。入社数年が経過しても、「何を、どこで、どのように製造しているのか」という自社の事業実態を、具体的にイメージできない従業員が少なくなかったのです。

「教育マテリアルの中に、海外の製造現場を伝える映像が全くありませんでした。自社の全体像を理解することは、従業員のモチベーションに直結します。外部へのプロモーションだけでなく、インナーブランディングとしても機能する映像が、今のスミトロニクスに不可欠だと考えたのです」と三船氏は、企業紹介映像の制作に込めたもう1つの狙いを強調します。

トップの言葉を傾聴し、過去と未来を融合させたストーリーに再編

企業紹介映像の制作期間はわずか3カ月と、極めてタイトなスケジュールでした。さらに、EMSという事業特性ゆえの壁に直面します。顧客製品を扱う工場内は守秘義務が厳しく、事業の実態が伝わる素材をそろえるのが難しかったのです。三船氏は海外拠点に素材提供を呼びかけましたが、送られてくる画像は品質や用途の観点から、そのままでの使用が難しいものが大半だったといいます。「一時は、自分で撮影に行こうかと考えたほどでした」と三船氏は苦笑します。

そうした難しさがある中で、企画の軸を定める支えになったのは、同社の植木紀有社長からのブリーフィングでした。長時間にわたる真摯なやり取りが大きな力になったと、揚羽の玉手涼介は明かします。「過去からの経緯も含め、これから力を入れたい領域を植木社長に丁寧に話していただきました。それを聞いて、当初の提案内容では伝えきれていない部分があると考え、過去の経緯と未来の戦略を融合させたストーリーに組み直したのです」(玉手)。

株式会社揚羽
ブランドマーケティング部
ブランドマーケティング5グループ
リーダー
玉手涼介

三船氏が苦労して収集した歴史的な写真資料をベースに、揚羽はモーショングラフィックスを組み合わせた演出を行いました。創業から現在に至るまでの流れを、連続性のある映像として再構成し、同社のアイデンティティを的確に伝える内容にしています。加えて、デザイン面でも、スミトロニクスは大きな挑戦を行いました。

製造業などの企業紹介映像といえば、太いフォントや色味も赤や青といった力強い原色を用いた表現が一般的です。しかし、海外拠点での勤務経験が長い三船氏には「海外の視点では、映像の美しさや洗練された印象こそが信頼につながる」という思いがありました。そこで、あえて淡いブルーや細いフォントを多用した、スマートでアーティスティックなトーンを追求することにしたのです。

「他社の真似ではない、先進性を感じさせるトーンを目指しました。揚羽さんはクリエイティブ制作において非常にこだわりが強く、フォントの線一本の太さが生むニュアンスに至るまで議論を重ねています。一般的に採用が難しいとされる細い線も、私たちの意図を汲んで挑戦的なデザインに落とし込んでくれました」と、三船氏は当社の姿勢やクリエイティビティを高く評価しています。

制作過程では、良い意味で期待を裏切られる提案が続いたと三船氏は語りました。「細かい修正を依頼しても、単に言われた通りに直すのではなく、『その修正の意図なら、こういう表現の方がより伝わります』という、クリエイティブのプロとしての逆提案が常にありました。この『より良くしよう』という執念に近い姿勢が、3カ月という短期間ながらも、高品質な映像の完成につながったのだと思います」(三船氏)。

大きな拍手で迎えられ、初披露から効果に手応え

2025年11月に完成した企業紹介映像は、同年12月の社内イベントで初披露されます。100人以上の従業員が注目する中、会場に映像が流れると、期せずして大きな拍手が起こりました。「従業員の前向きな反応を目の当たりにして、この映像は対外的な紹介ツールに留まらず、社内の相互理解を深める上でも、大きな役割を果たすだろうと手応えがありました」と、三船氏は当時の状況を語ります。

営業の現場では、効果がすぐに現れました。2026年初め、大手メーカーへの新規訪問の際、営業担当者が冒頭にこの映像を提示します。すると、自社サイトや既存のスライドだけでは伝えきれなかった「グローバルEMSとしてのスケール感」が一目で伝わり、具体的な商談へと発展しました。営業担当者によってバラつきのあった企業紹介が、企業紹介映像という共通言語によって、直感的に理解しやすい武器へと進化したのです。

また、社内教育やインナーブランディングとしての効果も顕著でした。「入社数年目の管理部門の従業員から、『自分たちが何をしているか深く理解できました』と走り寄って言われた時は、本当に嬉しかったですね」と三船氏は微笑みます。映像はイントラネットなどでも活用され、海外拠点向けに制作された英語バージョンも「自分たちが胸を張って見せられるツールができた」と、世界各国の拠点から声が寄せられました。

映像制作をきっかけに、展示会ブースづくりへ支援が拡大

企業紹介映像制作で築かれた関係性は、別プロジェクトへも波及しています。2026年1月、東京ビッグサイトで開催されたアジア最大級の展示会「ネプコンジャパン2026」。スミトロニクスにとって23年ぶりとなる重要な出展において、ブースデザインを任されたのも当社でした。三船氏には「デザインの力で、他社を圧倒する存在感を出したい」という強い思いがあったのです。

揚羽の小林夏帆は、次のように振り返ります。「三船さんの熱い思いに応えようと、メンバー一丸となって制作に取り組みました。展示会デザインという、映像とはまた異なる領域でしたが、当社のデザイナーも『最高にかっこいいブースにしたい』という執念で細部まで議論を尽くしています」(小林)。完成したブースは、立体感や陰影を巧みに利用したデザインで、来場者の注目を集めました。

株式会社揚羽
制作第1部
制作プロデューサー2グループ
小林夏帆

「看板の文字一つとっても、あえて飛び出させずにプリントの陰影だけで立体感を表現するなど、デザインの工夫で想定以上の成果を出してくれました。他社のブースが豪華な素材で着飾る中、私たちのブースは洗練されたデザインで一線を画していたのではないでしょうか」と三船氏は満足げに話します。

スミトロニクスに対する揚羽の伴走支援は、これからも継続する予定です。制作した企業紹介映像は、今後、事業の発展や戦略の変化に合わせて適宜アップデートしていきます。「今回の揚羽さんとの仕事を通じて、単なる依頼先ではなく、私たちの案に寄り添い、真摯にクリエイティブの磨き込みに向き合ってくれるパートナーの存在がいかに重要かを実感しました」と三船氏は話します。

同社が掲げる「エレクトロニクス分野のトータルサービスプロバイダー」というビジョンは、従来のEMSの枠組みを超え、さらなる領域拡大を目指すものです。企業紹介映像を通じて可視化された事業の強みは、社内における新戦略の浸透を促すだけでなく、グローバルな営業活動においても、訴求の質を平準化するための強力な基盤ツールとなるでしょう。