経営環境の変化で必要になったブランド再構築

ミサワホーム株式会社は1967年創立。「住まいを通じて生涯のおつきあい」をコーポレートスローガンに、事業を展開してきたハウスメーカーです。戸建注文住宅などの「新築事業」、リフォームや不動産仲介といった「ストック事業」、地域の抱える課題を解決に導く「まちづくり事業」、人生100年時代のシニアライフを支援する「ウエルネス事業」、米国や豪州での住宅事業を展開する「海外事業」の5つで、持続可能な社会の実現と持続的成長を図ります。

2020年1月には、パナソニック株式会社(現パナソニック ホールディング株式会社)とトヨタ自動車株式会社が設立したプライム ライフ テクノロジーズ株式会社(PLT)の傘下に入り、パナソニックホームズ株式会社、トヨタホーム株式会社、パナソニック建設エンジニアリング株式会社、株式会社松村組とともに、未来志向のまちづくりを推進しています。

ミサワホームの事業ポートフォリオ拡大やPLTグループ入りで、コーポレートブランドの再構築が必要になったと、同社の久保建史氏は語ります。「祖業は新築事業ですが、事業ポートフォリオの多様化という方針の下で、事業領域が大きく広がりました。そのため、従来のコーポレートスローガンではミサワホームグループ全体を網羅できなくなっていました。PLTグループに入ったこともあり、ブランドを再定義して、社内外への積極的な発信が必要不可欠だったのです」(久保氏)。

ミサワホーム株式会社
執行役員 管理本部 副本部長 兼 HR戦略部長
久保建史氏

PLTグループには、『未来をまちづくるPLT』というコーポレートメッセージがあります。その傘下のミサワホーム本社は約3000人、ミサワホームのグループ子会社が5000人という構成なため、そのままでは3つの階層に分かれてしまいかねず、一枚岩になりづらい環境です。そこで、ミサワホームグループ全体で1つになってコーポレートブランドをつくり直し、一体感を持てるようにしようと考えました。加えて、ミサワホームグループ全体で計8000人の従業員が、自分たちの会社の理念や考え方を「自分ごと化」して、一人ひとりが自ら取り組むべきことを明確にするという狙いもあったといいます。

理念を浸透させるため全従業員8000人に対してアンケート

このためミサワホームでは、人的資本経営の考え方に立ち、パーパスとビジョンを策定することにしました。そのパートナーとして選ばれたのが当社です。「ブランディングの会社は数多くありますが、パッケージとして提案するような会社がほとんどです。それに対して、揚羽さんの提案は型にはまらず、私たちに寄り添い、私たちよりもミサワホームのことを理解した上で、パーパスを策定するというものでした。だからこそ、揚羽さんにお願いしたのです」(久保氏)。

コーポレートブランディングプロジェクトは2023年8月に開始されましたが、2023年4月からの準備期間が大変だったと、ミサワホームの小崎翼氏は振り返ります。「『住まいを通じて生涯のおつきあい』というコーポレートスローガンは、半世紀以上も使われていました。ですから変える理由を明確にし、経営層も含め全従業員に納得してもらう必要があります。また、グループ会社によっても理念体系が異なっていたので、それらも整理しながら進めていきました」(小崎氏)。

ミサワホーム株式会社
管理本部 HR戦略部 人事企画課 課長 兼 HR戦略部 ブランディングプロジェクト
小崎翼氏

ブランドを再構築するうえで重要になったのは、ミサワホームグループとして「どのような企業でありたいのか」という想いと、社外のステークホルダーにとって「どのような存在であれば認められるのか」という面で、重なり合う部分をブランディングのコアにしました。

そして、再構築したブランドを浸透させるには、想いを持った従業員が自らつくったと実感できることがカギだと考え、ミサワホームグループの全従業員8000人を対象にアンケートを行います。さらに、ワークショップのメンバーも公募し、職種や年代、性別などを問わず、あらゆるセグメントから多様な従業員に参加してもらいました。

膨大な資料を読み込んだうえで「ブランド価値構造図」を作成

コーポレートブランディングのプロセスは、過去資料の確認、経営者への取材、ワークショップ、従業員アンケートなどを行って、ブランド価値構造(ブランドストラクチャー)を形成。価値創造ストーリーを明確にしたうえで、バリュー、パーパス、事業別を含むビジョンを策定しました。

本プロジェクトでは、まず企業の属性価値を取り出してテーブルにまとめた下図のような「曼荼羅」を作成。そのうえで議論を開始し、仮説を精緻化しました。この曼荼羅は、パーパス策定のプロセスを共有する際に、現在も活用しています。

ブランド属性価値の整理・分類・分析(曼荼羅)

ブランド価値構造の整理は、経営層インタビューから始めることが一般的です。ただ今回は、膨大な過去資料の確認から取り掛かりました。「60年近い長い歴史のある企業なので、社史をはじめ、人事や開発関係、カタログなど様々な資料を徹底的に読み込みました。それらを企業の属性価値として積み上げていき、曼荼羅やブランド価値構造図をつくります。そのうえで、プロジェクトメンバーで議論して、パーパス、バリュー、ビジョンの策定につなげていきました」(揚羽 江野)。

揚羽株式会社
ブランドコンサルティング部
コンサルタント/コピーディレクター
江野修

ミサワホームのグループ子会社を取材しても、独自のアイデンティティを持っている個性的な企業ばかりだったと、揚羽の黒田天兵は力を込めます。「プロジェクトメンバーも一人ひとりこだわりがあり、自分の意見を持っていたので、それに向き合っていくのはとてもやりがいがありました。ブランド価値構造図も下から積み上げ、全従業員アンケートや選抜メンバーのワークショップ、役員インタビューなどを行うたびに更新しました。そのやり方にしたおかげで過去からの歴史を受けて、未来に進んでいくようにまとめられました」(黒田)。

揚羽株式会社
執行役員 ブランドコンサルティング部長
黒田天兵

プロジェクトメンバーが自らの考えを持っていて、それを主張していたことが強く印象に残ったと揚羽の尾形美乃は微笑みます。「プロジェクトメンバーの皆さんが、それぞれ個性的で、活発な議論が交わされていました。そのやりとりをワクワクしながら聞いていて、とても勉強になりましたし、楽しく参加できました」(尾形)。

揚羽株式会社
ブランドマーケティング部
尾形美乃

心の拠りどころである“HOME”を、理念の中心に据える

プロジェクトに参加したメンバーは全員兼務でしたが、当社の支援もあって、計画通り短期間で完了させられたとミサワホームの宮田智氏は説明します。「8000人の従業員全員を対象にして、アンケートをつくったのは初めての経験でした。従業員のことを想像しながら考えた質問への回答を読むと、改めて本当に様々な考えを持った従業員がいるということを実感できました。これからの仕事にも役立つ、とてもよい経験だったと思います」(宮田氏)。

ミサワホーム株式会社
経営企画本部経営企画部 経営企画課 課長 兼 HR戦略部 ブランディングプロジェクト
宮田智氏

長い間使ってきたコーポレートスローガンを変えることに、最初は迷いがあったとミサワホームの阿部正成氏は、当時の状況を明かします。「8000人のアンケートや、ワークショップで議論していく中で、次第に会社に対する従業員の想いが形として見えるようになりました。そうした場面を何度も体験することで、パーパスを策定していけるという確信を持てるようになったのです」(阿部氏)。

ミサワホーム株式会社
管理本部 広報・渉外部 コーポレートコミュニケーション課 課長 兼 HR戦略部 ブランディングプロジェクト
阿部正成氏

こうしたプロジェクトメンバーの様々な活動の末、「“HOME”に満ちあふれた世界をデザインする」というパーパス、「“HOME”の可能性を追求し、新しいロールモデルをつくり続ける」というビジョンを策定し、バリュー、事業別ビジョンもつくり上げました。

経営陣すべてのOur“HOME”と、従業員すべてのMy“HOME”を策定

ミサワホームでは“HOME”を「心の拠りどころ」と位置づけ、パーパスやバリューなどの共通理念を、子会社も含めグループ全体に浸透させるため様々な取り組みを進めています。

主だった取り組みに、「Find My“HOME”project」があります。このプロジェクトは、「従業員一人ひとりが自身の提供したい価値を言語化する」というものですが、その手順として、まずは経営陣が自分事化を図りました。ミサワホームの経営層、グループ会社社長、部門長、支社長が、管掌するエリアや領域の方針としてOur“HOME”を定めた後、その方針も踏まえて社員一人ひとりが提供したい価値をMy“HOME”として言語化しました。なお、策定にあたってはチュートリアル動画を活用し、ほぼすべての経営陣、従業員が、自らの言葉で“HOME”を語れる状況を作り出しました。

そのほか、ミサワホーム本社では階層別や新人研修などすべての研修に取り入れて、自分ごと化するとともに、ミサワホームグループ子会社でも経営トップが先頭に立って共通理念に基づいた自社での取り組みを具体化させていきます。また、従業員が持つ社用スマートフォンに独自開発のアプリを搭載し、お客様にミサワホームの共通理念を明らかにする仕組みもつくりました。社外に向けては、2025年度から毎年、統合報告書を発行し、共通理念に基づいた経営の方向性や取り組みを広く発信していきます。

※ミサワホーム株式会社の皆様の所属部署は、プロジェクト実施時点のものです。