設立40周年を機に、事業部中心主義からの脱却を目指す

JFEシステムズ株式会社は、1983年の設立以来、長年にわたり製鉄所の基幹システムをはじめとする大規模なミッションクリティカルなシステムの構築、運用を担ってきました。そうした経験で培ったスキルを武器に、現在は製造業を中心に幅広いITソリューションを提供しています。

同社は2023年の設立40周年を迎えるにあたり、パーパス、バリュー、行動指針、ブランドコンセプトからなる企業理念体系を新たに策定する方針を固めました。変化のスピードが速いIT業界において、環境変化へ柔軟に対応しながら価値を生み続けることが、競争力の源泉になると考えたためです。

一方で当時のJFEシステムズは、事業部ごとの独立性が高く、全社的な一体感が乏しい状態にありました。効率性や正確性を重んじるあまり、前例踏襲の文化が残っており、自ら学び、考え、行動する「自律した個人」の育成も課題となっていたのです。既に企業理念は存在していたものの、会社の存在意義や未来の方向性が十分に示されているとは言い難く、従業員にとって身近なものにはなっていませんでした。

JFEシステムズの田中恵美氏は、企業としてのアイデンティティを確立しきれていなかったと、その頃を振り返ります。「クレドカードがあったので、常に持ち歩いていました。ただ、なかなか見返す機会も少なく、浸透しているとは言いがたい状態でした。その内容も『こうあるべき』という上からのメッセージが強く、個人の意思や創造性を尊重するという観点では、効果を発揮できていなかったのではないでしょうか」(田中氏)。

JFEシステムズ株式会社
企画・管理本部
人材開発部長
田中恵美氏

「未来ソウゾウ会議」で議論し、浸透や定着までを見据えて推進

こうした状況を踏まえ、2022年6月には、同社のトップである大木哲夫氏の主導によって、パーパス策定、浸透プロジェクトを発足させます。これは、全社の一体感と方向性の共有、組織風土と価値観の刷新を目的とした取り組みです。

プロジェクトは「未来ソウゾウ会議」と名付けられ、未来を「想像」するだけでなく、新たな価値を「創造」するという強い意思が込められました。そして、その狙いは、業務判断の軸となるパーパスを明確にし、社外へ発信することにあります。顧客やビジネスパートナー、株主、学生、求職者など、多様なステークホルダーとの共感を生み出し、持続可能なビジネスコミュニティの形成を目指したのです。

実際のパーパス策定プロセスは、徹底した現状分析から始めました。経営層9名へのインタビューに加え、主要な顧客企業やビジネスパートナー、さらには子会社までも対象に含め、JFEシステムズが提供している真の価値を問い直したのです。外部の視点を取り入れることで、社内では当たり前すぎて気づかなかった「人間味」や「誠実さ」といった強みが浮き彫りになっていきました。

次に、全拠点の次世代リーダーとなる中堅の従業員を集めたワークショップを3回にわたり実施しました。1回目は自社の強みを言語化する「As Is(現状)」の対話、2回目は未来に提供すべき価値を整理する「To Be(理想)」の対話、そして3回目はそれらを構造化してブランドの核を導き出す「ブランドストラクチャー」の構築です。このプロセスに経営陣ではなく、あえて現場を牽引するリーダーたちを巻き込むことで、パーパスを「自分たちのもの」として捉えてもらう狙いがありました。

膨大な声を凝縮し、結晶化された「人間中心」のパーパス

ワークショップから抽出された膨大なキーワードをもとに、最終的なパーパス案を練り上げました。揚羽の板倉マサアキは、この工程の重要性を強調します。「役員や顧客からのインタビュー内容は非常に充実しており、最終的な報告資料は100ページを超えるボリュームに達しました。それらすべての声を汲み取り、一つのメッセージに昇華させる作業は困難を極めましたが、そこにはJFEシステムズさんが持つ『誠実さ』と『未来への渇望』が凝縮されていました」(板倉)。

株式会社揚羽
ブランドコンサルティング部
シニアコンサルタント
クリエイティブディレクター
板倉マサアキ

策定の過程は、社内報を通じて逐一全従業員に共有しました。誰がどのような想いで議論しているのかを可視化することで、従業員の関心を少しずつ高めていったのです。最終段階では、4つのパーパス、バリュー案を提示し、全従業員による共感アンケートと投票を実施しました。自分たちの1票が会社の未来を左右するという実感が、パーパスへの納得感を醸成したはずです。

こうして誕生したのが、「はたらくをスマートに。はたらく人にスマイルを。」というパーパス。さらに、それを体現するためのブランドコンセプトとして「スマートフル(Smart+Heartful)IT」を掲げました。ITによる効率化(Smart)の先には、必ず人の心(Heartful)があり、笑顔(Smile)が生まれます。この「人間中心」の考え方は、大木氏がインタビューで語った「ITはこれから、楽しさや夢中になれることを目指すべきだ」という言葉と深く共鳴していました。

抽象的な言葉を、日常の行動に変換させる「Myパーパス」

パーパスは策定して終わりではありません。むしろ、そこからが本当のスタートです。JFEシステムズでは、2023年4月から2年間にわたる長期的な浸透フェーズを設定しました。パーパスが日々の業務や意思決定の指針として機能し、従業員の行動が自然と変化していく状態を目指したからです。

ただ、パーパスは往々にして抽象度が高くなりがちです。経営トップの想いと現場の実感には距離があり、強引に押し付ければ従業員の反発を招きかねません。そこで取り組んだのが、2024年1月からスタートした「Myパーパス」活動。これは従業員一人ひとりが自身の人生観や価値観を振り返り、自らの仕事がどのようにパーパスとつながっているのかを言語化するワークショップです。

「自分の無意識下にある『大切にしたいこと』を改めて確認し、組織の論理だけに流されず自律的な行動を促します。この活動を通じて、若手従業員を中心に『対話の中で自分を発見する楽しさを知った』『自分の仕事に意味を見出せた』といった前向きな声が上がっていました」と田中氏は説明します。また、社長主催のタウンホールミーティングを継続的に開催することで、経営と現場がフラットに対話できる文化が着実に根付き始めました。

並行して、視覚的なプロモーションにも注力しています。パーパスに込められた想いを情緒的に表現したパーパスムービーを制作し、社内だけでなくYouTubeやInstagramなどのSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)を通じて外部へも発信。名刺のデザインも一新し、従業員が社外の人に対して自社のパーパスを語るきっかけを創出しました。

採用現場での変化と、エンゲージメント向上の手応え

これらの多角的な活動は、具体的な成果としても表れています。顕著なのは新卒採用の現場です。応募してくる学生の多くが、事前にパーパス動画やSNSでの発信を目にしていました。面接でも「効率化だけでなく、人間中心を掲げる姿勢に共感した」と語る学生が増加し、同社のアイデンティティが次世代の人材を惹きつける大きな力になっていると証明された格好です。

社内においても、組織の一体感に変化が見え始めました。かつての事業部中心の考え方から、パーパスという共通の旗印のもとに協力し合う姿勢が生まれつつあります。「先が見えない不安の中で、揚羽さんが伴走してくれたことが大きな力になりました。担当者として、孤独になりがちな変革のプロセスにおいて、客観的なデータに基づき、時に背中を押し、時に冷静なアドバイスをくれるパートナーの存在が、計画通りの完遂には不可欠でした」(田中氏)。

とは言え、3年間にわたるパーパス策定と浸透活動は、会社としても新たな取り組みだったため、プロジェクトの運営に苦労が絶えなかったといいます。田中氏は「パーパス策定にあたり、自分自身の知見がほとんどなかったこともあって、反対意見が出てくると気持ちが揺らぎました。そうした中でも、違った意見を受け止めながら、ゼロからプロジェクトを推進した経験は、自分の軸をはっきりさせるという意味でも、大きな財産になったと感じています」と当時を思い返しました。

大木社長が掲げた「組織のOSを書き換える」という目標。それは、システムインテグレーターという技術集団の中に、温かな血を通わせる作業でもありました。人間中心の考え方が浸透することで、従業員のエンゲージメントが高まり、それが結果として顧客のイノベーション創出に繋がる――。その好循環が、今まさに始まりつつあるわけです。

パーパスを原動力に、イノベーションが生まれる未来へ

現在JFEシステムズは、2027年度までの中期経営計画の真っただ中にあります。「成長・協力・共創」をテーマに、デジタル製造(DX:デジタルトランスフォーメーション)、ERP(統合基幹システム)、基盤サービスの3つの重点事業を推進し、大手製造業向けのビジネスをさらに拡大させていく方針です。

この高い目標を達成するための源泉は、やはり「人」でしょう。「はたらくをスマートに。はたらく人にスマイルを。」というパーパスは、単なるスローガンではなく、困難な意思決定を迫られた際の確かな羅針盤となりました。効率や数字を追求するだけでなく、その先に「はたらく人の笑顔」があるか。この問いを常に持ち続けることが、同社の競争力の源泉なのです。

40年の歴史を持つシステムインテグレーターが、そのアイデンティティを再定義し、新たな一歩を踏み出しました。この変革のストーリーは、同様の課題を抱える多くの企業にとって大きな示唆を与えるのではないでしょうか。JFEシステムズはこれからも、パーパスを軸にした強い一体感をもって、顧客とともに新たな価値を共創し、ITの力で社会にスマイルを届けていくはずです。