従業員エンゲージメントを測る指標をどう活用するか


古くは従業員満足度をあらわすES(Employee Satisfaction)や、近年では従業員推奨度を測るeNPS(Employee Net Promoter Score)といったように、従業員エンゲージメントの定義は年々多様化してきました。それに伴い、従業員エンゲージメントを定量化するための様々な指標がいくつかの調査会社によって開発されています。例えば職場環境や仕事への満足度、評価制度への納得度、人間関係の良好度など、様々な指標からエンゲージメントが測られるようになってきました。

しかし、「全ての企業において、この要因さえ高い水準で満たせば必ず従業員エンゲージメントが形成される」と言える絶対的な解はありません。

例えば合理的な経営戦略のもと安定した事業基盤を持っている企業、あるいは就労環境や研修制度などの能力開発や福利厚生が充実している企業は多くありますが「それなりの安定と待遇を得られる場所」と割り切った見方をされるに留まってしまい、従業員の貢献意欲がなかなか育たないケースも少なくありません。また、社内活性化のためにイベントなどの施策を導入したものの、従業員の中に「目的もわからずにやらされている」感覚だけが生まれ、なかなか意識が浸透しないケースも見られます。

このように、従業員エンゲージメント形成の特効薬というものは存在しません。

しかしその一方で、エンゲージメント形成に関わるあらゆる指標を完璧に満たしていくことはどんな企業であっても難しいでしょう。前述の調査を行う場合であっても、その結果をどう解釈し、どのような打ち手を講じるかは企業によって異なります。

それでは一体、どのような観点からそうした指標を活用していけば良いのでしょうか。

3つの指標をどう均衡させていくかが鍵


筆者の見解として、従業員エンゲージメントを測る多様な指標を見ていく中で、下図のように大きく3つに分類できるのではないかと考えています。

①経営戦略に紐づいて計画される人的資源管理要因、②業績に紐づいて整備される衛生要因、そして③組織文化に紐づいて醸成される風土や価値観、これら3つの指標のバランスが取れていることが、従業員エンゲージメントを形成していく上で重要だと筆者は考えます。

この中で、①の人材配置や能力開発、業務内容に対して従業員が納得感を持つことで「働きがい」が生まれ、その結果として業績が高まり、それによって②の評価や報酬、雇用環境が整えられ「働きやすさ」が生まれる、という好循環は誰にもイメージしやすいものだと思います。

このように①や②は経営の中で常に可視化されており打ち手を講じやすいものですが、可視化されにくいのが③の企業文化であり、結果としてなおざりにされやすい部分であると言えます。

ですが、従業員エンゲージメントを醸成する上では、企業文化の指標は非常に重要なものです。経営理念や共通の価値観に代表される文化が従業員に浸透してこそ組織に対する共感が形成され、結果として自発的な貢献意欲が引き出されるからです。企業文化が十分に根付いていない中で、社内活性化施策だけを用いても表面的なものにとどまってしまい、前述の「目的もわからずにやらされている」だけとなってしまう危険性もここに潜んでいます。

従業員エンゲージメントを高める事例をいくつか検索してみるだけでも、企業理念の浸透が鍵となったケースが多く出てきます。

こうしたことを踏まえれば、従業員エンゲージメントは、まさに顧客エンゲージメントと本質的に同じものであることがわかります。

企業文化は正しく指標化されているか


独自の理念に根付き明確な企業文化を持つ組織であるほど強固なブランドパーソナリティが形成されるということはブランディング領域においては定石であり、顧客エンゲージメントを形成する上でブランドが非常に重要な役割を果たすことはよく知られているところです。

従業員エンゲージメントにおいても、企業文化によって醸成されるブランドへの共感を通して組織への思い入れが高まり、その結果、自主性や貢献意欲が生じやすくなるという点では、両者のプロセスは本質的に同じと言って良いと考えます。

また、指標をもとに打ち手を講じていく上では、従業員が所属する組織に何を求めているかという期待度を把握することが非常に重要です。

すなわち、

・従業員が何を求めているのか?(ニーズを把握する)

・そのニーズを満たす従業員体験を提供できているか?(従業員価値を明確化する)

これらを指標化する上で、企業文化を可視化することは非常に重要と言えます。

「期待する要因は人それぞれであり一概に言えない」となりがちですが、強いブランドを持ち、共通の価値観が醸成されている組織であれば、従業員の期待する価値に一定の傾向が生まれ、従って「何をすればその期待に答えられるか」という打ち手の策定がスムーズになるのです。

経営戦略は外部環境に応じて変化していくものですが、企業文化はずっと受け継がれていくものであり、それゆえに組織を情緒的な面から下支えし、強い従業員エンゲージメントを形成していく地盤となるものです。

もし、「色々と施策は講じているけれど、なかなか従業員エンゲージメントが育たない」とお悩みの方がいらっしゃれば、自社の企業文化がどれくらい指標化できているかを改めて見直してみると、そこにヒントが隠れているのかもしれません。

WRITER

とりうみ

プランニング部
コミュニケーションプランナー・クリエイティブディレクター

とりうみ

ビジョン浸透施策や採用ブランディングの戦略立案、クリエイティブ設計などに従事中。
趣味は写真と漢詩作りと宗教建築巡り。好きな作家はボルヘスと泉鏡花と三島由紀夫とトルストイと筒井康隆。

ビジョン浸透施策や採用ブランディングの戦略立案、クリエイティブ設計などに従事中。
趣味は写真と漢詩作りと宗教建築巡り。好きな作家はボルヘスと泉鏡花と三島由紀夫とトルストイと筒井康隆。