電通が発端となり「働き方改革」の風潮は加速した


「働き方改革」が日本全体として始動したのは2016年9月、安倍首相が内閣官房に「働き方改革実現推進室」を設置してからです。

しかし、大企業・中小企業問わず、背に腹は代えられず急務として取り組まなくてはならないという風潮になったのは、電通の過労自殺問題が発端であることは疑いのない事実であろうと思います。

電通はその後、「2年間は成長が鈍化する」という山本敏博社長のお言葉通り、「働き方改革」に最も高いプライオリティを置いて改革を進めてきました。

本記事では、電通の働き方改革の内容とその進捗について、ニュースリリース等の情報を紐解き徹底解剖してみたいと思います。

そもそも「働き方改革」の政府の狙い


さて、そもそも「働き方改革」は、政府は何を目的としてスタートさせたのでしょうか?

意外とよくご存じでない方も多いので簡潔にまとめると以下の通りとなります。

「働き方改革」を単に「長時間労働の是正」と捉え、それ以上の目的もなく徹底した時間管理に終始すると、社員はそもそもの働く意義・目的を見失い、企業文化から主体的な創造性が損なわれてしまうということについては、別記事に寄せていますので、ご興味ある方はぜひご一読いただければと存じます。

参照:『働き方改革の弊害…長時間労働の是正と捉えると失敗する!?』

電通の「働き方改革」への取り組みと目的


さて、では電通の「働き方改革」は、同じフレームに当てはめるとどのような内容になるでしょうか?

2017年度では、3つの柱として「労務管理の徹底と見守りの強化」「業務棚卸しによるワークダイエット」「ワークスタイルのスマート化」を掲げてらっしゃったのですが、1年を経て現在(2018年5月)は、下記のように定義するに至っています。

1年間の取り組みで得られた電通の成果


これを見ていただくと分かる通り、電通は「働き方改革」を単に「長時間労働の是正」とは捉えず、しっかりその目的を整理し、運用しているということが分かります。ちなみに2017年の取り組み成果としては、50以上の施策を講じた結果、下記のような成果は出せているようです。

電通の「働き方改革」施策の特徴


とりわけ、私が注目したのは、これらすべての施策が「バイタリティをもって学ぶことができる環境」を整えているという点にあります。

穿った見方をすれば「休みまで働けということでしょ」と捉える方もいらっしゃるかもしれないです(実際にそう言っている方もいらっしゃいます)が、しかし私はこの電通の施策を非常に「上手い」と感じています。

以前に、従業員の「エンゲージメント」を向上させるには「組織に必要とされている感覚」が必要だと別記事に書きました。

参照:『従業員エンゲージメントって、つまり一言でいうと何なの?』

私はここで、すべての施策は「働く従業員のためにやっている」という伝え方が重要だということを書きましたが、電通の施策はまさにそのような「施策の名づけ」がなされていると考えます。

「鬼十則」と電通の社風について


電通の「鬼十則」はかなり有名ですので、ご存じの方も多いと思います。「鬼十則」とはいわば電通の行動規範のことで、下記の内容です。

1.仕事は自ら創るべきで、与えられるべきでない。

2.仕事とは、先手先手と働き掛けていくことで、受け身でやるものではない。

3.大きな仕事と取り組め、小さな仕事はおのれを小さくする。

4.難しい仕事を狙え、そしてこれを成し遂げるところに進歩がある。

5.取り組んだら放すな、殺されても放すな、目的完遂までは…。

6.周囲を引きずり回せ、引きずるのと引きずられるのとでは、永い間に天地のひらきができる。

7.計画を持て、長期の計画を持っていれば、忍耐と工夫と、そして正しい努力と希望が生まれる。

8.自信を持て、自信がないから君の仕事には、迫力も粘りも、そして厚味すらがない。

9.頭は常に全回転、八方に気を配って、一分の隙もあってはならぬ、サービスとはそのようなものだ。

10.摩擦を怖れるな、摩擦は進歩の母、積極の肥料だ、でないと君は卑屈未練になる。

私も一緒にお仕事をさせていただいたことがあるので良く知っているのですが、この指針は電通の社員にはとても浸透しています。電通の方は、バイタリティがあり、主体性と創造性に溢れる仕事大好きな方が非常に多いのが、特徴だと思います。

電通の取り組みが上手かった点


それゆえに、電通内で「働き方改革」が叫ばれたとき、おそらく少なからず次のような社員からの反発もあったのではないかと思います。

「仕事したい人はしてもいいじゃないか」と。

しかし、経営側からすればそれは簡単には容認できないはずです。それゆえに、例えば単純な休暇取得制度にも、その名に「インプット」と冠したのだと思います。このような呼称を使うことで、もっとたくさん仕事をしたいと思う従業員も、「自分は必要とされていない」とは感じなかったはずです。

組織風土・カルチャーを尊重してこそ改革は成功する


もちろん「そんなやり方をしていては変わらない。もっと抜本的に文化から見直すべきだ」という方もいらっしゃると思います。しかし、もともとあった組織風土・カルチャーを無視した改革は間違いなく上手く行きません。それは、私も多くの企業様のインナーブランディングプロジェクトに携わる中で分かった事実の一つです。

「働き方改革」への取り組みは各社各様ですが、電通の事件が発端となって加速した「働き方改革」ですので、電通の改革が成功するか否かについて、私は非常に注目をしています。もちろん、誰かが不幸になってしまうような事件だけは二度と起こしてはなりません。単体でも6,927人の従業員(2017年12月末時点)を抱える電通には何としてでも改革を成功させて欲しいと、願うばかりです。

WRITER

黒田 天兵

インナーブランディング研究室
室長

黒田 天兵

ブランディングにおけるソリューション実績700社を超える (株)揚羽にて、コーポレートコミュニケーション事業の立ち上げから推進まで行っている責任者。携わったインナーブランディング実績はおよそ200社、財閥系大手企業から近年注目されている急成長ベンチャー企業まで幅広く担当し、理念浸透・意識改革などのプロジェクトに携わる。大学時代は哲学に没頭。ハイデガー、デカルト、カント、ニーチェを研究。

ブランディングにおけるソリューション実績700社を超える (株)揚羽にて、コーポレートコミュニケーション事業の立ち上げから推進まで行っている責任者。携わったインナーブランディング実績はおよそ200社、財閥系大手企業から近年注目されている急成長ベンチャー企業まで幅広く担当し、理念浸透・意識改革などのプロジェクトに携わる。大学時代は哲学に没頭。ハイデガー、デカルト、カント、ニーチェを研究。