世界の中で、日本のJリーグはどこへ向かおうとしているのか


『FIFAワールドカップ(以下ワールドカップ)』ロシア大会期間中は中断をしていたJ1リーグも再開。

イニエスタやF・トーレスといったスター選手の加入もあって、にわかに盛り上がりを見せているJリーグ。

5/18にリリースさせていただいた記事『世界のサッカークラブのチーム価値ランキングから見えてくるもの』では、世界のビッグクラブの「チーム価値」を示す数字や価値向上戦略の一端をご紹介しましたが、では一方で日本の『Jリーグ』は同じ「サッカー」というフィールドで世界と伍していくために、あるいはより深く根ざしていくために、どのような戦略をとっているのか?

今回は公表されている数字などをもとに、その辺を整理してご紹介したいと思います。

グローバルマーケットやローカルマーケットでの価値向上策を考える上で、ヒントになることもあるかもしれません。

 

現在のJリーグの事業規模と概況


Jリーグのことをあまりよく知らない方もいると思うので、まずは現在のJリーグの事業概況を整理してみたいと思います。

リーグを構成するJリーグ会員クラブ(Jクラブ)数は今や55クラブ・58チーム(3チームはJ1クラブ3クラブのU-23チーム)におよびます。

全国38の都道府県にJクラブが存在するのです。

これらのクラブがトップカテゴリーの『J1リーグ(18クラブ)』セカンドカテゴリーの『J2リーグ(22クラブ)』、その下のカテゴリー『J3リーグ(15クラブ)』に分かれて競いあっています。

去る7月に発表された、J1~J3までの各クラブ合計の事業規模(営業収入)は、リーグ史上はじめて1000億円超える【1105億6200万円】となっています。

理念とスローガンのもとに。成長のキーワードは『ローカル』と『グローバル』


Jリーグが掲げる理念は大きく以下の三項。

一、日本サッカーの水準向上及びサッカーの普及促進
一、豊かなスポーツ文化の振興及び国民の心身の健全な発達への寄与
一、国際社会における交流及び親善への貢献

これを実現する取り組みの一環として、『Jリーグ100年構想』というスローガンを掲げ、「地域にスポーツの広場や施設をつくる」「サッカーをはじめとしたスポーツ競技を楽しめるクラブをつくる」「観戦や参加により世代を超えたふれあいの場をつくる」ことに取り組んできました。


今や55までに増えたクラブが、それぞれのホームタウンで試合を行うのみならず、地域を巻き込んだ環境の整備や選手育成・普及活動をおこなうことが、競技水準の向上に寄与するのみならず地域におけるロイヤリティの向上につながると考えたのですね。

一方で、各クラブが地域(ローカル)で深耕するだけでは、成長に限界もあり縮小均衡に陥ります。

そこで近年は特にグローバルを強く意識した取り組みが、リーグ全体および各クラブでも目立ってきています。

その一例を覗いてみましょう。

82%の観戦者が「Jクラブは、ホームタウンで大きな貢献をしている」と評価


Jリーグの2017シーズン1試合平均入場者数は【J1=18,883人(最多は浦和レッズの33,542人)】【J2=6,970人(最多は名古屋グランパスの12,149人)】【J3=2,613人(最多はギラヴァンツ北九州の5,939人)】。

「J2の6000人やJ3の2,600人って、少なくない?」と思う方もいるかもしれませんが、J2やJ3のクラブの多くは地方都市をホームタウンとするクラブ、例えば秋田や山口といった都市で、隔週で3000~6000人が集まるイベントが常時行われているということは、それまでにはなかったこと(地方都市でコンサートなどが開催される県立の会館などでも客席数は1500~2000席程度)。

まだまだ多い数字とはいえませんが、地域にそれまでにない賑わいの創出が行われていると言えるのではないでしょうか?

加えて各クラブは、それぞれのホームタウンでスクールの開設や巡回サッカー教室などの普及活動、ユース年代の育成活動を行っています。

トップチームの選手たちも、試合に加え、地域の祭りや商工会・商店街のイベントへの参加などを通じて地域社会とのリレーションシップを築く活動に参加をしています。

55のクラブがそれぞれのホームタウンでこういった活動を通じて地域に不可欠な存在となる努力を続けているんですね。

こういった取り組みの成果は、スタジアム観戦者動向を探る『Jリーグスタジアム観戦者調査2017』では、アンケート回答者の81.7%が「Jクラブはホームタウンで大きな貢献をしている」と答える結果にも表れています。

「アジア」に広げ、世界とつながるJリーグ


近年Jリーグが海外事業の鍵としているのがアジア。

特に近年はASEAN諸国をはじめ各国リーグとの提携を拡大。

2012年のタイ・プレミアリーグとの提携を皮切りに現在は9カ国リーグと提携。選手の「外国人枠」「アジア枠」に加え「提携国枠」を設け選手の移籍も容易にしました。

これによりサッカー人気がもともと高いASEAN諸国から各国のスター選手が続々とJクラブ入り。

Jリーグが放映されているタイではホームタウン都市の知名度も急上昇。

Jリーグのタイ語FACEBOOKのフォロワーは15万人にのぼり、Jリーグとニールセン社の調査ではタイのJリーグファンの93%が国民的スターのチャナティップ選手がいる「札幌」を知っているという結果をたたき出しています。

こうしたJリーグの戦略に加え、クラブも独自に海外戦略を展開。

一例として、サガン鳥栖がグローバル戦略パートナーとして米グローバルスポーツマーケティング会社と独自に提携し、アジアでのブランド価値向上を目指すなど、各クラブ独自の動きを見せています。

さらにJリーグは2017年からライブストリーミングサービス『DAZN(ダゾーン)』と10年間で約2100億円の放映権契約を締結。

J1・J2・J3の全試合を広範に配信できる仕組みの実現に加え、この資金を各クラブに分配。スポンサーの増加もあり、海外からの大物選手の獲得の動きが加速してきました。

最近のイニエスタ選手のヴィッセル神戸への加入、F・トーレス選手のサガン鳥栖への加入はその象徴的な動きといえます。

地域のクラブが世界とつながる


かつて臨海部の工業地帯で娯楽が少なかった茨城県鹿嶋市に『鹿島アントラーズ』が誕生し、ジーコが来て、「鹿嶋といえば鹿島アントラーズ」と言われるようになったように、今もまた佐賀県の人口8万人の鳥栖市のスタジアムが2万人の観客で埋まり、ワールドクラスの選手が加入して注目を浴びています。

全国55のクラブのスタジアムでは、その街の名を冠したクラブを応援する人々の姿が毎週見られます。

確たる理念のもと、日本全国の地域に根ざして貢献するクラブを増やし、さらにいまアジアへの展開と貢献の輪を広げJリーグの地位の向上につとめつつ事業機会と収益の拡大を図り、それをテコに有力選手の獲得や競技力向上につなげて、それをまたホームタウン地域の振興にも還元する。

このサイクルを一連でおこない推進することが、JリーグとJクラブの価値向上戦略といえるのではないでしょうか。

スポーツ団体と企業の違いこそあれど、その取り組みには企業価値向上策のヒントになることも多いのではないかと考えます。

WRITER

佐藤 孝良

シニアプロデューサー

佐藤 孝良

秋田県生まれ。日本大学芸術学部卒。
演劇活動の挫折を経て、リクルート社入社。企業の人材採用広報・教育研修・組織活性支援に従事。
その後2005年に揚羽に入社。以来10年以上にわたりのべ100社以上の企業の人材採用プロモーション、企業広報ほか各種コミュニケーション施策の支援に関わらせていただいています。
週末はだいたいサッカースタジアムにいるか、旅か、映画鑑賞のルーティン。

秋田県生まれ。日本大学芸術学部卒。
演劇活動の挫折を経て、リクルート社入社。企業の人材採用広報・教育研修・組織活性支援に従事。
その後2005年に揚羽に入社。以来10年以上にわたりのべ100社以上の企業の人材採用プロモーション、企業広報ほか各種コミュニケーション施策の支援に関わらせていただいています。
週末はだいたいサッカースタジアムにいるか、旅か、映画鑑賞のルーティン。